作:三浦太郎 出版:偕成社
ある国に、とても小さな王様がいました。
王様だけがとても小さいので、お城も馬も兵隊たちも、王様には大きすぎました。
そんなある日、小さな王様は、大きなお姫様と結婚することになったのです。
あらすじ
昔々ある国に、小さな王様がいました。
小さな王様は、大きなお城に住み、大きな兵隊たちに守られていました。
王様の食事は、大きなテーブルに乗せられたたくさんのごちそう。
でも、小さな王様にはとても食べきれません。
王様の馬は大きな白馬。
でも、小さな王様ではすぐに振り落とされてしまい、どこにもお出かけできません。
王様のお風呂は大きな噴水のお風呂。
でも、小さな王様には噴水からずっと水がかかるので、落ち着いて入ることができません。
王様のベッドは大きなベッド。
でも、大きなベッドに1人きりという寂しさから、よく眠れたことはありませんでした。
そんなある時、小さな王様は、大きなお姫様をお嫁にもらうことにしました。
2人はとても幸せでした。
やがて、小さな王様と大きなお姫様は、10人の子どもに恵まれました。
すると、お城が狭くなったので、城の兵隊たちに暇を出すことにしました。
お城の中はとても広々として、すぐに子どもたちの遊び場となりました。
大きすぎたテーブルは、家族で囲めばちょうどよく、ご飯を残すこともなくなりました。
大きな白馬には、馬車と子どもイスをつけ、家族みんなで出かけられるようにしました。
大きな噴水のお風呂は、みんなで入れば噴水プールに早変わり。
子どもたちも王様も大はしゃぎです。
そして、大きく寂しかったベッドは・・・。
『ちいさなおうさま』の素敵なところ
- わかりやすく描かれた、小さいからこその寂しさと不便さ
- 結婚により変わった、大きなものの見え方の転換
- かわいくカラフルでシンボリックな、見ていて楽しいキャラクター
わかりやすく描かれた、小さいからこその寂しさと不便さ
この絵本を見て、まず感じることは1人だけ小さな王様の孤独な寂しさでしょう。
この世界では、王様だけがとても小さく、他のものは標準サイズ。
そのせいで、王様は人知れず、日々を苦労して過ごすことになっています。
大きなテーブル、大きな白馬、大きなお風呂、大きなベッド・・・。
それらを通して強く感じるのが、王様の孤独な寂しさです。
お出かけこそ、兵隊たちに囲まれていますが、他の場面ではいつも1人。
それもそのはず、王様が困っているのは、いつもプライベートな場所なのですから。
それだけに、寂しさもより色濃くなっています。
特に、子どもたちからしたら、ご飯やお風呂、寝る時に、誰かと一緒なのが当たり前なので、この寂しさはひしひしと伝わってくることでしょう。
実際に、
「ずっと、1人だね」
「ママいないのかな?」
「悲しそうだね・・・」
と、王様の気持ちに寄り添う言葉がたくさん呟かれていました。
この、日常生活の中で感じる孤独や寂しさを描くことで、王様の暮らしでありつつも、子どもたちがその寂しさを想像し、感情移入しやすくなっているのが、この絵本のとてもおもしろく、心を揺さぶられるところです。
結婚により変わった、大きなものの見え方の転換
こうして、寂しい日々を過ごしていた王様ですが、ある日転機が訪れます。
それが、大きなお姫様との結婚でした。
王様との背丈の違いに、「大きいお姫様と結婚して大丈夫!?」と不安がっていた子どもたちでしたが、すぐに杞憂だったとわかります。
とても幸せそうで、子どもにもたくさん恵まれた王様とお姫様。
そんな幸せな生活は、これまでの孤独で寂しかった生活を一変させてくれます。
これが、この絵本の一番の見どころ。
テーブル、白馬、お風呂、ベッドと、これまで寂しさの象徴として出てきたものたちが、次々にまったく違う輝きをともなって目の前に現れるのです。
家族で囲む大きなテーブル。
10人分の子どもイスを置ける大きな白馬。
プールになってしまう噴水のお風呂・・・。
そのどれもが「大きくてよかったね!」と、心から思える変化ばかりです。
この、前半の「大きすぎるよ・・・」から、「大きくてよかったね!」への変化が、この絵本の本当に素敵なところ。
同じものでも、状況によってこんなに変わるものなのかと驚かされることでしょう。
子どもたちの声も、前半のどんより感からうって変わり、
「みんなで食べて王様嬉しそうだね♪」
「お馬さん力持ち!」
「噴水プール楽しそう!いいな~!」
と、明るく楽しいものへ。
ぜひ、この空気感が変化するおもしろさを、味わってみてください。
かわいくカラフルでシンボリックな、見ていて楽しいキャラクター
さて、この絵本には、もう一つ特徴的なところがあります。
それは、登場するキャラクターのデザインや色使い。
この絵本に登場するキャラクターは、どれもデフォルメされてかわいいというだけでなく、とてもシンボリックでわかりやすく描かれているのが特徴的です。
例えば、基本的に丸や四角などの、わかりやすいパーツで構成され、そこに王様ならヒゲと王冠、お姫様なら長い髪といったように、一目で誰かがわかる作りになっています。
これは、表情や動きにも同じことが言え、誰が見ても「笑っている」「眠っている」など、どんな表情かや何をしているところかが、驚くほどわかりやすく描かれているのです。
ただ、おもしろいのが王様の表情。
実は、王様の表情だけ、最後の場面をのぞき変わることはありません。
なのに、前半は悲しい顔に、後半は楽しそうな顔に見えてくるから不思議なもの。
王様には表情の変化がないからこそ、見ている人の気持ちが見事に投影され生き生きと目に映るのでしょう。
加えて、色使いの変化も見逃せないポイントです。
前半の結婚するまでは、背景が真っ黒で、孤独感がものすごく感じられます。
転じて、結婚後は、背景に色が着くだけじゃなく、子どもたちの色合いや、食べ物などの小物のカラフルさも加わり、とても賑やかに色づきます。
そこには、寂しさが微塵も感じられず、とても楽しそうな雰囲気。
一目見ただけで、直感的に空気感の変化が感じられるのです。
この、シンボリックなキャラクターや色使いによって、直感的に物語を感じられるのも、この絵本のとても素敵なところです。
だからこそ、まだ言葉で物語を理解するのが難しい子にも、わかりやすいのだと思います。
他にも、王様には「K」、お姫様には「Q」、兵隊には「J」という文字が入っていたり、子どもたちには1~10までの数字が入っているなど、見ていて楽しい要素も盛りだくさんなので、ぜひこのキャラクターたちをじっくり見てみてください。
二言まとめ
小さな体で大きなお城に住む孤独感と寂しさを、小さい子にもわかるよう見事に描き出した。
寂しさを感じた分だけ、後半の賑やかでカラフルで楽しい生活を心から嬉しく思える、優しくほっとできる絵本です。
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