作:レオ=レオ二 訳:谷川俊太郎 出版:好学社
家を大きくしたいちびカタツムリがいました。
そんなちびカタツムリに、お父さんは「せかいいちおおきなうち」の話を聞かせます。
家を大きくし過ぎた悲劇のお話を。
あらすじ
おいしそうなキャベツに、たくさんのカタツムリが住んでいました。
ある日、ちびカタツムリがお父さんに言いました。
「大人になったら、世界一大きな家が欲しい」と。
そんなちびカタツムリに、お父さんは「うどの大木」と言い、あるお話を始めました。
そのお話は、昔にちびカタツムリと同じくらいの子が、同じように「世界一大きな家が欲しい」と言ったところから始まりました。
そのちびカタツムリにも、お父さんは「うどの大木」と答え、邪魔にならないよう家は軽くしておくのだと伝えました。
けれど、そのちびカタツムリは聞きませんでした。
葉の影に隠れ、体を伸ばしたり縮めたりして、とうとう家を大きくする方法を見つけたのでした。
うちはどんどん大きくなり、他のカタツムリたちに世界一の家だと褒められました。
それでも、ちびカタツムリは家を大きくし、ついにメロンほどの大きさになりました。
おまけに、角飾りや、きれいな模様までくっつけました。
ちびカタツムリは鼻高々です。
ですが、ある日、住んでいたキャベツの葉っぱを全て食べ尽くした時のこと。
カタツムリたちは、他の葉っぱへと引っ越しをしていきます。
ところが、ちびカタツムリは、家が重すぎて動くことができません。
やがて、1人ぼっちで、食べるものもなく、やせ細ったちびカタツムリは消えてしまいました。
残った家も、少しづつ壊れていき、とうとう後には何も残りませんでした。
この話を聞き終わった後、ちびカタツムリの目は涙でいっぱいになっていました。
そして、自分の小さな家のことを思い出し、「小さくしとこう」と決めたのでした。
そうしてある日、身も心も軽く、ちびカタツムリは出かけました。
そこでちびカタツムリは・・・。
『せかいいちおおきなうち』の素敵なところ
- 現代と過去のちびカタツムリが交差する不思議な感覚
- カタツムリとは思えないほど大きく変化していく家への驚き
- 自分にちょうどいいものを持つ大切さ
現代と過去のちびカタツムリが交差する不思議な感覚
この絵本のとてもおもしろいところは、主人公のちびカタツムリと、お父さんの話に出てくる昔のちびカタツムリが物語を読み進めていくうちに、自然とリンクするところでしょう。
お父さんが昔の話を始めたというのは明確にわかり、違うちびカタツムリのお話だと言うのはしっかりわかるようになっています。
けれど、不思議なことに、昔のちびカタツムリの物語が進むにつれて、主人公のちびカタツムリがその悲しい物語を体験しているような感覚になってくるのです。
きっと、見た目が同じだったり、名前が同じなので、物語に入り込めば入り込むほど、知らず知らずのうちに同一化しているのでしょう。
昔話が終わり、ちびカタツムリが涙を浮かべる現在の場面に戻ってきた時、みんなハッとなり、昔話だったことを思い出したような表情をしていたのが印象的でした。
また、このリンクする没入感には、もう1つおもしろいところがあります。
それが、物語を聞いていた現在のちびカタツムリとの心のリンクです。
ちびカタツムリが物語を聞いて、目に涙を浮かべるほどの悲しさを感じたのは、物語の中のカタツムリと自分を重ね合わせ、自分の実体験のように感じたからでしょう。
その感覚は、まさに子どもたちが2人のちびカタツムリをリンクさせたのと同じ感覚と言えます。
つまり、現在のちびカタツムリと、昔のちびカタツムリ、そして子どもたちという3者の間でのリンクに繋がっているのです。
だからこそ、現在のちびカタツムリの物語にも、昔のちびカタツムリの物語にも、とても没入できるのでしょう。
子どもたちからも、
「死んじゃったのが、このちびカタツムリじゃなくてよかった~」
「そうだ!昔話してたんだった!」
「やっぱり、小さい方がいいよ!」
と、しっかりと物語に入り込んでいるのが感じられる言葉が。
この、現在から昔、昔から現在へのスムーズな物語の移行によって、頭の中で両者がリンクする不思議な感覚と、深い没入感が味わえるのが、この絵本のとてもおもしろいところです。
カタツムリとは思えないほど大きく変化していく家への驚き
そんな不思議な感覚を味わえるお父さんの昔話ですが、その内容自体も驚きに満ちたものになっているのも、この絵本の楽しいところです。
それは、ちびカタツムリが、自分の家をどんどん大きくしていく物語。
まず、大きくする方法からおもしろく、たくさん食べたりするわけではありません。
体を揺すったり伸ばしたりしていく中で、家を大きくする謎の方法を発見するのです。
ここで、子どもたちはまずびっくり。
「そんなので、大きくなるの!?」
「本当に大きくなってる!」
と、大騒ぎです。
その後も、しっぽをプルプル振ったり、押したり引っ張ったりでどんどん変化していく家。
まるで魔法のような、なにかの装置を扱うような家を大きくする方法にビックリしない訳がありません。
もちろん、大きくする方法だけでなく、大きくなっていく家にも驚きとワクワクが詰っています。
その大きさだけでも、メロンと同じくらいになっていく家。
ちびカタツムリの本体は大きさが変わらないので、そのアンバランスさがさらに目をひきます。
「こんなに大きくなったの!?」
「重そうじゃない?」
「キャベツよりと同じくらいになってるじゃん!」
と、子どもたちからも驚きの声。
ですが、ここで終わらないのがこの絵本のおもしろいところ。
さらに角飾りをつけ始め、そこにカラフルな色や模様までつけ始めるのです。
角でトゲトゲな姿は、カタツムリというよりむしろ怪獣。
色や模様は、もはやアート作品みたいです。
もちろん子どもたちも、これは予想外。
「えー!そんなことできるの!?」
「もう、カタツムリじゃないみたい!」
「絵の具で塗ったみたいできれいだね!」
と、さすがに予想の斜め上を行く変化だったようです。
ただ、明るく盛り上がれるのはここまでです。
家が重すぎて動けなくなったカタツムリは、違うキャベツに引っ越しできず、そのまま消えてしまいます。
その後に残った家が崩れ落ちていく様からは、「むなしい」の一言しか出てきません。
あんなに立派にしても、足かせになり、何も後に残らない物悲しさだけが漂って終わるのです。
「死んじゃったの・・・?」
「家を大きくし過ぎるから・・・」
「悲しい・・・」
と、さっきまでの賑やかな驚きとは正反対の、悲しい驚きが場を包み込みました。
この、家が大きく変化していくことや、悲しすぎる結末など、驚きに満ちた昔話の内容も、この絵本のとてもおもしろいところとなっています。
自分にちょうどいいものを持つ大切さ
さて、現在と昔が行き来するこの絵本ですが、驚くほど悲しい結末を迎える昔話と、その話を聞いた現在のちびカタツムリの姿から、自分にとってちょうどいいものを持つ大切さが伝わってきます。
分不相応なものを持ち、身動きができなくなった昔のちびカタツムリに対して、それを教訓に家は小さなままにしておこうと決めた現在のちびカタツムリ。
終盤の場面で、身軽な体で森へ出かけていきます。
そこでは、たくさんの美しいものや心地よいものが、ちびカタツムリを待っていました。
そして、そこで出会ったものはどれも、分不相応なものを持たず身軽だったからこそ出会え、感じ取れたのだと思うものばかり。
とても清々しく、爽やかな気分が味わえる場面となっています。
このちびカタツムリの姿からは、持ちすぎることが足かせになることや、身軽だからこそ見えるものがあることを感じさせてくれます。
この、昔と現在のちびカタツムリの姿を通して、自分にあったものを持つことの大切さが、とても自然に爽やかに伝わってくるところも、この絵本のとてもとても素敵なところです。
二言まとめ
どんどん大きく派手に変化していく家と、その悲しすぎる結末に驚きが止まらない。
昔話と現在のちびカタツムリの姿から、自分に合ったものを持つ大切さ、をそよ風のような爽やかさで伝えてくれる絵本です。
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