【絵本】だいくとおにろく(5歳~)

絵本

文:飯島敏子 絵:狩野富貴子 出版:ひかりのくに

昔々、鬼が大工の代わりに橋を作った。

その代償は、大工の目玉。

許してもらうには、鬼の名前を当てなければいけないが・・・。

あらすじ

ある村に、とても流れの速い川があった。

あまりに流れが速すぎて、何度橋をかけてもすぐに流されてしまう。

困った村人たちは、会議を開き、ここらで一番偉い大工のよきちへ橋をかけてもらうことにした。

よきちはその話を聞いて、快く引き受けた。

だが、川を見てみると、思っていたより流れが速く、自分では橋をかけられそうになかった。

よきちが困っていると、突然、川の中からでかい泡が浮かんできて、目の前に大きな鬼が現れた。

その鬼は、人間にはこの川に橋はかけられないと言う。

さらに、よきちの目玉を差し出せば、代わりに橋をかけてやると言った。

困ったよきちは、返事もろくにせず逃げ出してしまった。

翌日、よきちが川へ行ってみると、なんと橋が半分で来ていた。

さらにその翌日には、橋が完全に出来上がっているではないか。

あまりの橋の立派さに、よきちが感心していると、目の前に鬼が現れ、目玉をよこせと言ってきた。

よきちが嫌がると、鬼は自分の名前を当てられれば勘弁してくれると言う。

もちろん、鬼の名前など知らないよきちは、困ってまた逃げ出してしまった。

よきちがあちこちふらふらと歩いているうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。

そんな時、よきちは一軒の家を見つけた。

その家の中からは、母親が赤ん坊を寝かしつける子守唄が聞こえてくる。

よきちが子守唄を聞いていると、なんとその中に「おにろく」という言葉が出てきたではないか。

よきちはすぐに、それが鬼の名前だと気が付いた。

翌日、よきちは川へ行って、鬼を呼んだ。

川から出てきた鬼は、さっそくよきちに自分の名前を問いかけた。

さあ、本当によきちは鬼の名前を当てることができるのでしょうか?

『だいくとおにろく』の素敵なところ

  • 大工と鬼のハラハラドキドキのやり取り
  • どこかかわいさや愛嬌のある鬼
  • 漢字へ自然と興味が向く作り

大工と鬼のハラハラドキドキのやり取り

この絵本のおもしろいところは、なんといっても大工と鬼の緊張感あるやり取りでしょう。

橋をかける代わりに、目玉を要求してくる恐ろしい鬼。

しかも、お願いしていないのに、橋がかかってしまい、後に引けなくなる焦り。

名前を当てるか目玉を取られるかという極限のクイズ。

などなど、鬼とのやり取りは、常に目玉を取られる緊張感と隣り合わせです。

これが本当におもしろく、子どもたちはハラハラドキドキ。

「どうなってしまうのか・・・」

「目玉とられちゃう!」

「ぼくがやっつけてやる!」

と、身を寄せ合ったり、手で目を覆ったり、応戦しようとしながら、全身で緊張感を楽しみます。

特に、最後の鬼の名前を当てるための問答は、大工の作戦もありとても痛快。

これまでの緊張感が、一気に解放される爽快感はたまりません。

大工の放つ最後の「おにろくだあ!」の一言が、まるで必殺技を放つ決め台詞の如く聞こえてくることでしょう。

この、鬼という強大すぎる相手との緊張感たっぷりのやり取りと、そこからの逆転劇の痛快さが、この絵本のとてもおもしろいところです。

どこかかわいさや愛嬌のある鬼

そんな強大な鬼なのですが、やり取りは恐ろしいものの、その見た目は怖くないというより、むしろかわいい。

見た目だけじゃなく、その仕草もけっこう愛嬌があったりします。

それも、この絵本の特徴的なところと言えるでしょう。

恐怖の対象として鬼が描かれる時、基本的には恐ろしく、いかめしく、おどろおどろしく描かれる鬼。

『だいくとおにろく』の他の絵本でも、そういう鬼が大部分です。

そんな中、この鬼はなんとも言えない人間味を備えています。

そのつぶらな瞳や、しもぶくれのかわいい顔。

なにより表情が豊かでまるで子どものように笑います。

子どもたちも、この鬼の姿を見て、

「なんか、かわいい鬼だね」

「優しそうな鬼だ」

と、予想外の怖くなさやかわいさに、驚いている様子。

そのため、小さい子も怖がらず見ることができます。

また、鬼退治などをしない、この絵本の性質ともよく合っていて、全体的にマイルドな仕上がりにしてくれます。

特に、最後の名前を当てられる場面などは、この絵本ならではのなんとも平和な雰囲気に。

頭を描きながらバツが悪そうに川の中へ帰っていく鬼の姿はどこか憎めない、「また会ってもいいかもな」と思えるものになっています。

この、安心感を持って読み進めることができる、どこかかわいく、友だちにもなれそうな鬼の姿もこの絵本のとても素敵で特徴的なところです。

漢字へ自然と興味が向く作り

さて、この絵本にはもう1つ特徴的なところがあります。

それが、「一年生のおはなし」と題されているように、小学1年生に向けて作られていること。

もちろん、読み聞かせであれば、鬼のかわいさとあいまって、幅広い年齢に読めますが、自分で読むものとしては1年生へ向けて作られています。

中でも特徴的なのは、漢字への導入や興味付けを意識した作りでしょう。

この絵本の本文は、小学1年生で習うものは漢字にルビを振って書かれており、おそらく文章選びもそれを意識しています。

なので、読み進めていくと、自然に漢字が目に入るようになっています。

さらに、物語が始まる前には、1年生で習う漢字の一覧が載っていて、その中で絵本の中に出てくる漢字は白抜きでピックアップされていたり、

物語が終わった後には、7つの漢字の書き方がわかりやすく載っています。

こんな風に、子どもが自然に漢字へ興味を持ち、実際に読んだり書いたりしてみようと思える作りになっているのです。

実際に、年長組に読んだ時は、この漢字の一覧表に興味津々。

「あ!漢字だ!」

「これ知ってるよ!」

「小学校で教えてもらうやつ!」

と、嬉しそうな子どもたち。

やっぱり、小学校での憧れの1つになっている様子です。

この、物語を通じて、自分から漢字へ興味を持つきっかけや、その興味をさらに他の漢字へと広げていきやすい作りになっているところも、この絵本の素敵でおもしろいところです。

二言まとめ

大工と鬼の、目玉と名前をめぐる、緊張感たっぷりのやり取りにハラハラドキドキさせられる。

物語を楽しむ中で、自然と漢字への興味が膨らんでくる作りになっている、昔話絵本です。

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