作:トミー・ウンゲラー 訳:中野完二 出版:文化出版局
ある日、夫人のもとにプレゼントが届きました。
その中身はなんと大蛇。
そんな大蛇を、本当の子どものように愛情深く育てていくと・・・。
あらすじ
昔、フランスの小さな町に、ルイーズ・ボドという名前の夫人が住んでいました。
ボドさんにはブラジルで爬虫類の研究をしている一人息子が。
ある日、その息子からボドさんへ誕生日のプレゼントが届けられました。
ボドさんがその箱を開けるとびっくり。
中には大きなヘビが入っていたのです。
ボドさんは、すぐに動物園へ行き、そのヘビが毒蛇ではないか調べてみるると、ボア・コンストリクターという、毒のない大蛇の仲間でした。
そこで、ボドさんはヘビにクリクターという名前をつけ、家で世話をすることにしました。
ボドさんは、クリクターを子どものようにかわいかがり、ミルクを飲ませ、ヤシの木を飾り、毛糸の服を編み、長いベッドを用意して、大切に育てていきました。
クリクターもボドさんに懐き、どんどん大きくなっていきました。
ある日、ボドさんはクリクターを学校へ連れていくことにしました。
ボドさんは、田舎で学校の先生をしていたからです。
すると、クリクターは自分の体で、アルファベットや数字を覚え、子どもたちとも仲良しに。
色々な手伝いや人助けもしてくれました。
そんなある晩、ボドさんの家に泥棒が押し入りました。
ボドさんは縛り上げられ声も上げられません。
そこへ、物音を聞いて起きてきたクリクターが。
一体どうなってしまうのでしょうか?
ボドさんの運命やいかに・・・。
『へびのクリクター』の素敵なところ
- イヌのようにかわいい大蛇
- ヘビとは思えない頭の良さとヘビだからこその頼りがい
- 最初から最後まで、とても幸せな物語
イヌのようにかわいい大蛇
この絵本のおもしろいところは、大蛇がイヌのようにかわいく見えることでしょう。
大蛇と言えば、どちらかというと恐ろしいイメージですが、クリクターは違います。
ボドさんの温かなお世話のおかげか、ものすごく人懐っこくてかわいいのです。
ボドさんに抱っこされてミルクを飲ませてもらっている姿は、イヌというより人間の赤ちゃんのよう。
ヤシの木を持ってきてくれた時は、しっぽを振って喜ぶし、
首輪をつけて、一緒に散歩へも出かけます。
雪の中だって、ボドさんに編んでもらったセーターを着て、這いまわります。
もう、その姿はヘビというよりイヌ。
その優し気な表情も相まって、ものすごくかわいく見えてくるのです。
この、最初はボドさん同様、驚き怖がっていたヘビが、大切に育てていくうちにとてもかわいく見えてくるおもしろさが、この絵本の素敵なところ。
いつの間にか、クリクターのことを大好きになっていることでしょう。
ヘビとは思えない頭の良さとヘビだからこその頼りがい
こうして、すくすく大きく育ったクリクターは、ある日学校に行くことになります。
ここでの新たな一面も、見ている人に驚きを与えてくれるところです。
なんと、クリクターはあっという間にアルファベットや数字を覚えてしまうのです。
しかも、形だけではありません。
「Sは簡単。ヘビという意味のスネークのSだもん」
「Eはエレファント、つまりゾウってわけ」
「2は両方の手の2」
「3は3匹の子ブタの3」
というように、意味までしっかりと理解しているクリクター。
これには子どもたちも、
「すごい!英語になってる!」
「お勉強わかるんだ!」
「クリクター頭いい!」
と、驚きと称賛の声。
これまでペットという扱いだったのが、一気に自分たちと同列な存在になったようでした。
もちろん、頭がいいだけでなく、優しさもあわせ持っていて、みんなと遊び、みんなを助けてくれるクリクターへ、さらに愛着が湧いていきます。
ただ、クリクターの魅力は、ヘビらしからぬ優しさや頭の良さだけではありません。
ヘビらしい、その強さと頼りがいも、大きな魅力となっています。
それが発揮されるのは、泥棒が押し入る最後の場面。
ここで、ボドさんのピンチを見たクリクターの行動に、クリクターが大蛇であったことを思い出させてくれるのです。
この、優しさと強さを兼ね備えた、溢れんばかりのクリクターの魅力と輝きもまた、この絵本の素敵なところ。
読み進めるほどに、どんどんクリクターの新たな魅力に気付いていくことでしょう。
最初から最後まで、とても幸せな物語
それだけ、魅力的なクリクターと、愛情を注いでくれるボドさんの関係性。
ここまで見てきたら、きっとクリクターもボドさんも大好きになって、2人の幸福を願っていることと思います。
その願いに、見事に、きれいに応えてくれるハッピーエンドも、この絵本の素敵なところと言えるでしょう。
最初から最後の場面まで、しっかりと成長するクリクターと、絆を深めていく2人という、とても平和で幸せな光景を見続けることができます。
ですが、最後の場面で泥棒が押し入るという緊急事態に遭遇してしまいます。
ただ、その急展開の後も、しっかりと幸せで平和なハッピーエンドになっています。
なんなら、この事件のおかげで、さらにクリクターの名が世間に広がって行くほど。
その広がった名が、子どもがすぐにそのすごさをわかる形で、描き出されているのもおもしろいところで、
「えー!」
「すごっ!」
「○○まで作ったの!?」
と、そのすごさはストレートに子どもたちに伝わっている様でした。
ただ、クリクターとボドさんの幸せな暮らしに変化はなく、最初の頃と同じように平和で幸せそうな2人。
最初から最後まで、驚きはありつつも、クリクターとボド夫人の平和で幸せそうな姿がずっと続く安心感も、この絵本のとても素敵で幸せなところでしょう。
読み終わった後、子どもたちが穏やかな顔で「おもしろかった・・・」と、心の底から感じているように言っているのが、とても印象的な絵本でした。
二言まとめ
クリクターのヘビらしからぬ頭の良さと、ヘビらしい力強さに驚きと好感度アップが止まらない。
最初から最後まで揺らぐことがない、クリクターとボド夫人の愛情たっぷりの絆に、心の底から安心して見ることができる絵本です。
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