【絵本】走れ!みかんのかわ(4歳~)

絵本

作:吉田戦車 出版:河出書房新社

ある日、みかんの実が皮から抜け出し、出て行ってしまいました。

外は危険がいっぱいです。

みかんの皮は無事に実を見つけることができるのでしょうか?

あらすじ

あるところに、みかんが暮らしていました。

しかし、ある朝、目が覚めると、みかんの実がいなくなっているではありませんか。

みかんは、前にみかんの実が、外に出て遊びたいと言っていたことを思い出しました。

外の世界は危険がいっぱい。

みかんの皮は実を探すため、走り出しました。

走っていくと、りんごに会いました。

でも、りんごくんはみかんの実を見ていないみたいです。

また、しばらく行くと、今度はピーナッツくんに出会いました。

よく見ると、ピーナッツくんも殻が割れ、豆がいなくなっています。

話を聞くと、ピーナッツくんの豆たちも、外の世界を見てくるといって、殻を割って出て行ってしまったそう。

2人は手分けして、実と豆を探すことにしました。

みかんの皮がさらに走っていくと、バナナの皮に会いました。

けれど、バナナの皮は元気がなくしなしな。

今にも死んでしまいそうです。

バナナの皮の話では、実がいないと、皮はしなびて土にかえってしまうとのこと。

バナナが実に逃げられてから1週間が経っていたので、こんなにもしなびていたのです。

みかんの皮は、バナナの皮を励まし、みかんとバナナとピーナッツの実を探すために、また走り出しました。

走る途中、ウマやサルを見かけるとび、食べられてしまっていることが脳裏をよぎります。

と、その時、かすかに「たすけて~」という、みかんの実たちの声が。

その声のもとに急いで行ってみると・・・。

みかんの皮は無事に、実たちを見つけることができるのでしょうか?

『走れ!みかんのかわ』の素敵なところ

  • みかんの皮という意外過ぎる主人公
  • 色々な逃げ方をされている皮たち
  • 驚きと常識が右往左往するおもしろすぎる結末

みかんの皮という意外過ぎる主人公

この絵本のなによりおもしろいところは、主人公がみかんじゃなく、みかんの皮というところでしょう。

もう、その興味の引き方はすごいもので、

「みかんじゃなくて皮!?」

「(表紙の絵を見て)これは皮じゃないけど」

「どんなお話なんだろう!?」

と、このタイトルだけで、ワクワクが止まりません。

そして、物語が始まると、見事に実から逃げられて、本当にみかんの皮に。

「そういうことか!」

「皮って走れるの?」

「足みたいに使って走るんじゃない?」

と、みかんの皮が走り出したことに、これまた大盛り上がりです。

しかも、キャラクターの呼称がそのまんまなのもおもしろく、

みかんの皮は実のことを「みー!」と呼び、

実は皮のことを「かわー!」と呼びます。

皮が実を探すというファンタジー感と、あくまで実と皮という呼称の現実感という組み合わせが、ギャグマンガのような絶妙なおもしろさを醸し出しているのです。

この、みかんの皮が主人公だという意外性と、それをふんだんに生かした、常に笑いを誘うギャグ漫画のような楽しい雰囲気が、この絵本のとてもおもしろいところです。

色々な逃げ方をされている皮たち

そんなみかんの皮ですが、実を探す道中で、いろいろな皮たちに出会います。

ここも、子どもたちがとても盛り上がるポイントです。

まっぷたつに割れている、ピーナッツの皮を見た瞬間、

「ピーナッツも逃げられてる!」

と、叫ぶ子どもたち。

みかん以外にも実に逃げられたものがいたことに、驚きを隠せません。

しかも、その見事な割れっぷりに、

「まっぷたつになってるよ!」

「大丈夫なのかな?」

と、心配の声も。

さらに、しなしなになったバナナの皮との出会い。

元気なピーナッツの皮との違いに、なにが起きたのかと身を乗り出して聞き入ります。

そこで、明らかになる、皮にとっての実の大切さは衝撃的。

実がいなくなって1週間経つと、おじいさんのようにしなしなになってしまうことが発覚するのです。

ここで、一気に実を探す真剣度が高まります。

子どもたちの没入感も高まります。

この、ほかの皮たちと出会うことで、皮にとっての実の大切さが身に染みてわかり、実を探すことへの没入感が増していくのも、この絵本のおもしろいところです。

驚きと常識が右往左往するおもしろすぎる結末

さて、そんな実を探す皮のもとに、「たすけて~」という声が届きます。

そこで、実を手にしていたのは、意外なような意外じゃないような絶妙な人物でした。

けれど、その絶望感は確かなもの。

「絶対、食べるじゃん!」

と、思わず突っ込んでしまうほど、みかんの実を食べそうなことこの上ない見た目をしているのです。

しかし、その人物がみかんの皮を見て、とった行動はとても意外なものでした。

さらにおもしろいのは、その理由がものすごく常識的。

きっと、誰もが一度は言われたことがある理由でしょう。

ただ、この場面でそのセリフが出てくるとはという、驚きとおもしろさがこの絵本のすごいところです。

でも、その常識的な展開から、実を持っていた人物も驚くようなことが起こります。

そりゃその人物も「すごいみかんだ!」と叫んでしまうのも納得です。

この、驚きと常識の間を右往左往する、絶妙な緩急のある結末も、この絵本のおもしろいところです。

まるで、ジェットコースターのようで、驚きと笑いも右往左往。

見終わったとき、自然と「あーおもしろかった!」と言ってしまうことでしょう。

二言まとめ

みかんではなく、みかんの皮が主人公というだけで、すでにおもしろい。

実と皮と食べ物の特徴をフルに活かしきった物語に、右往左往する驚きと笑いがおもしろすぎる絵本です。

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