作:大島妙子 出版:小学館
足の速さが自慢のとびのすけ。
ある日、おとっつぁんが病に倒れてしまいました。
その薬をもらうため、とびのすけは駆け出します。
でも、目的地はおばけの国!?
あらすじ
とびのすけは、足が速くて気の優しい男の子。
泣き虫なのがたまにきず。
とびのすけのおとっつぁんは大工さんをしていて、おっかさんは針仕事をしていました。
そんなある日、おとっつぁんが病で寝込んでしまいました。
その病には普通の薬がまったく効きませんでした。
悩んだおっかさんは、意を決してとびのすけを呼びました。
おっかさんは、とびのすけにあるところから薬をもらってくるよう頼みました。
そのあるところとは、おばけの国にある薬屋「かいうんどう」。
なんと、おっかさんはろくろっくびで、「かいうんどう」はおっかさんの実家だったのです。
それを聞いて驚いたとびのすけでしたが、すぐにかいうんどうへ向かって走り出しました。
とびのすけが走っていると、夜の闇が濃くなって、あたりに霧が立ち込めてきました。
そして、遠くに見えてきたのが・・・おばけかいどう。
その門の前には門番の赤鬼と青鬼がいて、とびのすけを止めました。
けれど、とびのすけがろくろっくびの息子だと名乗ったとたん、とびのすけの首がにょろっと伸びろくろっくびの姿に。
それを見た鬼たちは、とびのすけをおばけと認め、門を通してくれたのでした。
おばけかいどうの中はおばけだらけ。
とびのすけは、急いでかいうんどうを探しますが見当たりません。
と、その時、目の前に大きな壁が現れ、とびのすけはぶつかって跳ね飛ばされてしまいました。
さらに、その衝撃で下駄が割れてしまい泣き出すとびのすけ。
ぶつかった壁は、見上げるほど大きなぬりかべさむらいでした。
怒ったぬりかべさむらいは、泣いているとびのすけを踏みつぶそうと足を振り上げます。
ところが突然、無数のカエルがぬりかべさむらいの体中に飛びついたからたまりません。
カエルの苦手なぬりかべさむらいは、そのまま逃げていきました。
助けてくれたのはガマの親分さん。
子どもに手を出そうとしたのが許せず、助けてくれたのでした。
ガマの親分さんは、とびのすけの話を聞くと思わず涙が。
2匹のカエルに妖術をかけ、カエルの下駄「がまげた」にして、とびのすけにはかせてくれました。
がまげたはとても速く、どんどん前へと進んでいきます。
道中、ほかのおばけたちも、たびのすけに協力してくれ、どんどん進むとびのすけ。
そしてついにかいうんどうが見えてきました。
しかし、かいうんどうがあるのは、大きな川の先。
その川はすごい濁流で、とても渡れそうにありません。
困り果てるとびのすけ。
とびのすけはかいうんどうにたどり着けるのでしょうか?
果たして、おとっつぁんの病気を治すことはできるのでしょうか?
『すっとびこぞう!ーおばけかいどうおつかいどうちゅう』の素敵なところ
- あっと驚くおっかさんととびのすけの正体
- おばけの国のハラハラドキドキな冒険譚
- この物語は、ゆめかうつつか・・・
あっと驚くおっかさんととびのすけの正体
この絵本で、まず驚かされるのは、おっかさんととびのすけが、実はろくろっくびだったということでしょう。
表紙やタイトルでオバケの絵本だということは察していますが、まさか2人ともオバケなのは予想外。
これには子どもたちも、
「えー!お母さんがオバケだったの!?」
「とびのすけもオバケなのかな?」
「やっぱり、とびのすけもろくろっくびなんだ!」
と、心底驚いている様子でした。
さらに、おっかさんが正体を明かす時のホラーな演出も見もので、夜にとびのすけを手招きする時の目が怖すぎる。
とても明るい雰囲気から、あの世へでも連れていかれるのではないかという、ホラーな雰囲気への一転にゾクッとすることでしょう。
そこから一気にオバケ絵本へと変化していくのです。
この、人間だと信じて見ていたら、おっかさんもとびのすけもオバケだったという、あっと驚く2人の正体が、この絵本のとてもおもしろいところです。
おばけの国のハラハラドキドキな冒険譚
こうして、おっかさんの正体を知り、オバケの国へ行く決意をしたとびのすけ。
おばけかいどうへと入っていきます。
そこでの、オバケ初心者とびのすけと、オバケの国のオバケたちによる、ハラハラドキドキの大冒険も、この絵本のとても魅力的なところとなっています。
オバケの国の入り口を守る赤鬼と青鬼を見て「鬼がいるけど入れるのかな?」とドキドキ。
ぬりかべさむらいに踏みつぶされそうになり「つぶされちゃうー!」とハラハラ。
がまげたでピョンピョン走る姿を見て「楽しそう!これなららくちんだね!」とワクワク。
ほかにも、自分たちのよく知ったオバケたちが、助けてくれたり応援してくれたりと、オバケ好きにはたまらない、おばけかいどうの大冒険。
「あ!天狗が応援してくれてる!」
「アマビエもいるよ!」
「あそこ!イッタンモメンだ!」
と、大盛り上がり。
この、オバケが盛りだくさんかつ、そのオバケたちとのハラハラドキドキの大冒険もまた、この絵本のとてもおもしろいところです。
特に、最後の川の場面での、オバケの特性を活かした、圧巻な画は必見。
大人気のオバケということもあり、歓声がわくほどだったので、ぜひ、確かめてみてください。
この物語は、ゆめかうつつか・・・
さて、そんなこんなで大冒険を終え、家に帰ってきたとびのすけ。
ですが、「ただいまー」と帰るわけではなく、家で目を覚ますのです。
目の前には、すでに薬を飲んで回復しつつあるおとっつぁん。
とびのすけがおばけかいどうで、体験したことは夢だったのでしょうか?
そんな、なんとも言えない空気が漂います。
子どもたちも、
「あれ?夢だったのかな?」
「本当は、オバケじゃなくて人間?」
と、混乱するとびのすけと同じ感覚になっていました。
けれど、その真偽は語られませんが、予想はできるようにしてくれているのがとても素敵でにくい演出。
それを見て、
「あれきっとがまげただよ!」
「現実だったんだ!」
と、推理をし、それが当たっていると確信してぱっと顔を輝かせる子どもたち。
しっかりと真実に言及しないからこその、存在があやふやなオバケらしいおもしろい結末となっているのです。
この、ゆめかうつつか、そのはざまにいるような感覚になりつつも、「きっと、現実だ」と確信できる、最後の場面のおもしろさも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
ろくろっくびのとびのすけの、ハラハラドキドキかつ、人情あふれるオバケの国での大冒険がおもしろい。
オバケたちの特徴を活かした手助けに、目を離す暇もない、楽しいオバケ絵本です。
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