作:藤本ともひこ 出版:WAVE出版
あるところに、怪獣の子どもがいました。
でも、その子は怪獣にあるまじき、おりこうさんな怪獣でした。
そんな子を見かねて、両親は怪獣を人間の保育園に預けることに決めたのでした。
あらすじ
あるところに、怪獣の子どもがいました。
怪獣の子が静かに絵本を読んでいると、お母さんから「ビルでも壊してきなさい」と叱られてしまいました。
部屋を片付けていると、お父さんから「もっと散らかしなさい」叱られます。
靴を右左揃えていると、「怪獣は靴なんかはかないの!」と言われてしまいます。
両親が、いくらいっても怪獣の子は、怪獣らしくなりませんでした。
そこで、「こんな怪獣みたことない」と泣き出した両親は、怪獣の子を人間の保育園に預けることに決めたのです。
そこには小さな怪獣がたくさんいました。
どろんこ怪獣に、散らかし怪獣、積み木を壊すぶっ壊し怪獣まで。
怪獣の子はそれを見て「こんな怪獣みたことない」と思いました。
でも、この怪獣たちは暴れるだけでなく、転んだ時に心配してくれたりと、ちょっぴり優しいのです。
怪獣の子はみんなのことが大好きになり、みんなも怪獣の子が大好きになりました。
そして、あっという間に卒園式がやってきて・・・。
さて、卒園した怪獣の子は、どんなふうに成長したのでしょう?
『こんなかいじゅうみたことない』の素敵なところ
- 怪獣と人間の立場が真逆なおもしろさ
- 怪獣が保育園で学んだこと
- 色々な意味を持つ「こんなかいじゅうみたことない」
怪獣と人間の立場が真逆なおもしろさ
この絵本のなによりおもしろいところは、怪獣と人間の固定観念を打ち砕いてくれるところでしょう。
怪獣は、暴れん坊で色々なものを壊すという、ゴジラのようなイメージだと思いますが、この絵本の怪獣の子は違います。
絵本が好きで、片づけをきちんとし、積み木だって上手に積んで遊ぶのです。
そんな怪獣の子を預ける先は、まさかの人間の保育園。
そして、確かに言われてみると、普段子どもたちがやっていることは、まさに怪獣がやっていることに見えてきます。
走り回り、ケンカをし、大泣きする。
特に作った積み木をぶっ壊す姿なんか、怪獣がビルを壊す姿と瓜二つ。
この、人間の子って実は怪獣みたいだということに、気づかせてくれるのが、この絵本のとてもおもしろいところです。
絵本を見ている時は多くの子が、
「こんなことしないよ!」
「怪獣じゃないよ!」
と言ってくると思います。
そんな子には、ぜひ日常生活の中で怪獣みたいにしている時に「あ!小さい怪獣だ!」と言ってみてください。
きっと、その時に、この絵本の本当のおもしろさに気付くと思いますよ。
怪獣が保育園で学んだこと
こうして、人間の保育園で遊び始めた怪獣ですが、その暴れっぷりに驚いただけでなく、あることにも気付きます。
それが、子どもたちの優しさ。
転んで泣いている子にすぐ気付き、「いたいのいたいのとんでけ」とおまじないをかけてくれたりするのです。
この絵本の中では、この場面だけですが、
「優しいね~♪」
「ケンカを止めてくれたりもするよね」
「お片付け手伝ったりもする」
など、ほかの優しい場面も一緒に連想されていました。
小さな怪獣たちの、優しく温かい姿に、心がほっこりしてきます。
この、人間の子どもたちの怪獣らしさだけでなく、時折見せる優しい姿を自然に描き出しているのも、この絵本のとても大きな魅力です。
怪獣と子どもたちが遊ぶ姿からは、楽しいだけじゃなく、暖かで優しい人と人との関りの素敵さを、強く感じられると思いますよ。
ぜひ、こうした関わりの中で育った怪獣の子が、卒園後どんな姿になったのかも確かめてみてください。
きっと、素敵な怪獣に成長した姿が見られることでしょう。
色々な意味を持つ「こんなかいじゅうみたことない」
さて、そんな物語の中で、何度も出てくる言葉があります。
それは「こんなかいじゅうみたことない」。
おもしろいのは、この言葉が場面ごとに、意味が違って聞こえることです。
最初に出てくるのは、両親がおりこうな怪獣の子に絶望する場面。
ここでは「悲しみ」が感じられると思います。
次に出てくるのは、怪獣の子が保育園で子どもたちの暴れっぷりを見る場面。
ここでは「驚き」が感じられることでしょう。
最後に出てくるのは、この絵本の最後のページ。
ここでは、「感心」を感じられるのではないでしょうか。
どれも驚きの表現なのですが、そこには違う感情やニュアンスが込められています。
これらの機微を、物語の中で自然と「こんなかいじゅうみたことない」という言葉から感じられるのも、この絵本のとてもおもしろいところとなっています。
同じ言葉でも、使う場面によって全然違う意味に聞こえる、言葉遊びのようなおもしろさ。
言い方によって「正」にも「不」にもなる、言葉の複雑さを、子どもたちと感じてみてください。
二言まとめ
怪獣らしくない怪獣の子と、怪獣そっくりな人間の子どもとの関りがとてもおもしろくて、心温まる。
普段は遠い存在の怪獣と自分の共通点に、気付いてしまう怪獣絵本です。
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