作:スティーヴン・クレンスキー 絵:S.D.シンドラー 訳:こみやゆう 出版:好学社
毎年クリスマスにバタバタしてしまうサンタさん。
そんな仕事ぶりに、小人たちが不満を爆発させました。
そこである小人が、サンタさんの代わりになる機械を作り上げたのでした。
あらすじ
サンタさんは、毎年クリスマスが近づくと色々な準備をします。
急いでいるつもりではありますが、この時期はいつもバタバタしてしまいます。
サンタさんを手伝う小人たちの中には、「なんでもっと段取りよくできないんだ」と不満を言うものも出てきました。
ある年、マックルという小人が、こそこそとなにかを作り始めました。
そして、ついにそれが完成し、小人たちにお披露目する日がやってきたのです。
なんとそれは、宅配飛行船でした。
マックルは、小人たちにこの宅配飛行船は、サンタより速く、正確に、一晩で子どもたちの家を周り、プレゼントを配れるのだと説明しました。
小人たちは感心しましたが、まだ半信半疑です。
そこで、クリスマスの前にサンタさんと勝負をし、勝ったほうが今年のプレゼント配りをすることに決まりました。
サンタさんは、プレゼント配りには見た目以上に大切なことがあるのだと思いながらも、その勝負を受けることにしました。
最初の勝負は、どちらが早く出発できるか。
サンタさんはお風呂に入り、着替え、ブーツをはかないといけませんが、宅配飛行船にはそんなものは必要ないので、この勝負は宅配飛行船の勝ちとなりました。
次の勝負は、プレゼントの仕分けです。
大量のおもちゃの中から、子どもたちの手紙を見て必要なものを選んでいく仕事です。
宅配飛行船は、光のような速さで子どもたちの手紙を読み取り、プレゼントを選んでいきます。
一方のサンタさんは、手紙に書いてある通りのものではなく、その子に合わせたプレゼントを選んでいくので、作業がちっとも進みません。
この勝負も宅配飛行船の勝ちでした。
3番目の勝負はプレゼント配りです。
隣り合った同じつくりの家に、どちらが早くプレゼントを配れるかという勝負です。
どちらもものすごい速さでプレゼントを配り勝負は互角・・・に見えましたが、サンタさんはテーブルに置いてあるクッキーと牛乳を見つけると、食べ始めてしまいました。
その間に、宅配飛行船は煙突から出ていき、この勝負も宅配飛行船の勝ちとなりました。
こうして、勝負はマックルと宅配飛行船の勝ち。
小人たちも大喜びです。
けれど、この勝負を見届けていた郵便配達員のクララさんだけは、なにか間違っているような気がして小人たちに、
「サンタさんは、ただプレゼントを配っているだけじゃなく、もっと大事なことをしていると思うんだけど」
と、言いましたが、小人たちは聞く耳を持ちません。
今年のクリスマスは、宅配飛行船がプレゼントを配ることに決まったのでした。
日が短くなるに連れ、小人たちは忙しくなってきました。
宅配飛行船に、どんどんプレゼントを積み込んでいかなければならないからです。
ところが、いよいよ出発というときに、遠くから黒い雲が押し寄せてきました。
小人たちはマックルに、進路の変更を提案しましたが、マックルは変更できないと突っぱねました。
また、ほかの小人は、もっとプレゼントを積めるよう、飛行船の中を空けるようにいいました。
これも突っぱねようとしましたが、「サンタさんはそんなこと言わなかった」と言われ、苛立ちながら飛行船の中を空けました。
マックルは、これ以上小人たちからあれこれ言われたくなかったので、プレゼントが積み込み終わるやいなや、飛行船を発進させました。
けれど、急に進路を変更したからか、プレゼントを積みこみすぎたからか、飛行船は小人たちの頭の上をぐるぐると回り始めたではありませんか。
これではとてもプレゼントを配るどころではありません。
小人たちは急いでサンタさんの家へ向かいました。
今年のクリスマスはいったいどうなってしまうのでしょうか?
『しごとをなくしたサンタさん』の素敵なところ
- 機械に仕事を取られるというまさかの展開
- 仕事に対する人と機械の顕著な違い
- 最後はやっぱり・・・
機械に仕事を取られるというまさかの展開
この絵本のとてもおもしろいところは、サンタさんの仕事が機械に取られてしまうところでしょう。
サンタさんという、ファンタジーな世界観に、まさかの機械が入ってくるという意外性がたまらなくおもしろい。
しかも、サンタさんの仕事という、サンタさん以外には介入できない聖域に、踏み込んでくるというのだから驚かないわけがありません。
完成した宅配飛行船を目にした子どもたちの驚きっぷりは、およそ絵本の中の小人たちと同じ。
目を丸くして、
「こんなの作ったの!?」
「すっげー!」
と、驚きつつテンションが上がっていました。
ただ、「ほんとに、機械がサンタさんの代わりできるのかな?」と、まだ懐疑的です。
しかし、機械がサンタさんに勝ってしまうのだから驚きは止まりません。
しっかりと、予定通りに動作し、勝負に勝っていく機械を見て、その優秀さにさらに驚かされることでしょう。
そして、勝負は機械の圧勝で、本当に仕事を取られてしまうのです。
これには子どもたちも、
「サンタさん負けちゃったよ・・・」
「ほんとにサンタさんの仕事なくなっちゃうのかな?」
「うまくいくのかな?」
と、どこか複雑な心境。
この、機械が出てきただけでも驚きなのに、本当にサンタさんの仕事が取られてしまうという意外過ぎる展開が、この絵本のとてもおもしろいところです。
最初は、機械の登場にテンションが上がっていた子も、サンタさんが負けていくにつれ、まるで機械が悪役のように見えてくる心境の変化は、この絵本ならでは。
ぜひ、ほかの絵本ではなかなか味わえないおもしろさを楽しんでみてください。
仕事に対する人と機械の顕著な違い
こうして、サンタさんに勝負で勝っていく機械ですが、その勝負の中に人と機械の違いが見て取れるのも、この絵本のおもしろいところとなっています。
しかも、そこで、どちらが「いい」「悪い」という価値判断をしていないのが、素敵なところ。
プレゼントの仕分けでは、手紙を額面通り読み取り、すごい速さで仕分けする機械と、遅いけれどそれぞれの子に一番合ったものを選ぼうとするサンタさん。
プレゼント配りでは、クッキーに見向きもしない機械と、喜んでいただくサンタさん。
別に、効率のいいことは悪いことではないし、思いやりのために遅いことも悪いことではありません。
それぞれに一長一短な姿を見せてくれるのです。
ただ、残念な結果を招いたのは、機械化したことではなく、マックルが独りよがりになってしまったところ。
結局は、人と人との問題と言えるでしょう。
最初から、マックルとサンタさんが力を合わせていたら、今年のクリスマスはものすごく余裕のあるものになっていたでしょうから。
このように、「機械だから」というような先入観なく、サンタさんというファンタジーな世界に機械を組み込んでいるのも、この絵本のとてもすごいところとなっています。
きっと、これまで考えもしなかった、サンタさんと機械の協働の可能性が頭の中に広がっていくことでしょう。
サンタさんへの想像力がより楽しくなりますよね。
最後はやっぱり・・・
さて、そんな物語の最後に頼れるのはやっぱりあの人。
あの人が締めないことには、クリスマスの絵本は終われません。
この、しっかりと期待通り、あの人で締めてくれるのも、この絵本のクリスマス絵本らしい素敵なところです。
ただ、もっと素敵なところが、今年のクリスマスが終わった後に待っています。
それが、今年のクリスマスでの出来事を踏まえた改善策。
今年はサンタさん対機械となっていましたが、マックルもサンタさんも、今回の件を踏まえて少し丸くなったみたい。
この、今年のクリスマスが終わった後の、融和的で平和的なその後の変化もまた、この絵本ならではなとても素敵なところとなっているのです。
仕事的にも、プライベート的にも・・・。
ぜひ、この絵本でしか見られない、次世代のサンタさんの仕事場を確かめてみてください。
これまでとは全然違うサンタ像が見えてくると思いますよ。
二言まとめ
機械に仕事を取られるという、まさか過ぎる展開に驚きが止まらない。
機械にも人にもそれぞれのよさがあることが、ファンタジーなサンタさんの仕事を通して伝わってくる、クリスマス絵本です。
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