作:荒井良二 出版:偕成社
はっぴぃさんを知っていますか?
なんでも願いをかなえてくれるけど、誰も見たことがないはっぴぃさん。
そんなはっぴぃさんを探しに山のてっぺんへと向かいます。
あらすじ
ある早い朝、男の子がはっぴぃさんに会うために、出かけていきました。
けれど、男の子ははっぴぃさんに会ったことはありません。
同じ日に、女の子もはっぴぃさんに会うために、出かけていきました。
女の子もはっぴぃさんに会ったことはありません。
はっぴぃさんは、山の上の大きな石に時々来て、願い事を聞いてくれると言われています。
男の子は、なんでものろのろです。
山への道をのろのろと歩いていきます。
女の子は、なんでも慌てています。
バスにも慌てて乗りました。
山の入り口で、男の子が小さな川に見とれていると、川上から流されてきた靴が、男の子のおでこに当たりました。
それは女の子の靴でした。
バスから降りて慌てていた女の子は靴が脱げて、川に流されてしまったのです。
女の子は靴を拾い、そのままはいて、山を登っていきました。
男の子はのろのろ山を登っていきます。
女の子はどんどん山を登っていきます。
でも、途中で女の子が休んでいたので、男の子が追い抜きました。
でも、休憩が終わった女の子は、どんどん登って、男の子を追い抜きました。
森を抜けると、ついに山頂にある大きな石の前に着きました。
2人はその石を見て同時に叫びました。
それを聞いて、お互いにはっぴぃさんに会いに来たのだとわかりました。
大きな石の両端に、それぞれ男の子と女の子は座りました。
そして、願い事を始めました。
しばらくして、カタツムリとウサギが出てきました。
男の子はカタツムリを、女の子はウサギをはっぴぃさんだと思いました。
けれど、2匹ともすぐにいなくなりました。
またしばらくすると、ハトとリスがやってきました。
男の子はハトを、女の子はリスをはっぴぃさんだと思いました。
だけど、やっぱり2匹ともすぐにいなくなりました。
そこへ雨雲がやってきました。
2人は一緒に雨宿りをしました。
そして、お互いにはっぴぃさんが来たかを確認しあいました。
女の子は、男の子になにをお願いしたいのか聞きました。
男の子は、どうしたらのろのろじゃなくなるのか聞きたいのだと言いました。
男の子は、女の子に何をお願いしたいのか聞きました。
女の子は、どうしたら慌てなくなるのか聞きたいのだと答えました。
雨はやみ、太陽がそんな二人の様子を見ています。
女の子は男の子にあることを伝えました。
男の子も女の子にあることを伝えました。
いったいお互いになにを伝えあったのでしょう?
そして、はっぴぃさんに会うことはできたのでしょうか?
『はっぴぃさん』の素敵なところ
- 男の子と女の子それぞれの特徴的な道のり
- ハッとさせられる男の子と女の子お互いへの言葉
- 色々なことが想像させられるはっぴぃさんの正体や世界観
男の子と女の子それぞれの特徴的な道のり
この絵本のとてもおもしろいところは、男の子と女の子それぞれの、山頂への道のりが並行して描かれ、進んでいくことでしょう。
しかも、それが驚くほどに対照的。
男の子は、途中で花をめでたり、川を寝そべって眺めたりしながらのろのろと。
女の子は、余計なことには目もくれず、最短距離を慌てて進んでいくのです。
ただ、たまにお互いの道のりが交差するのがおもしろい。
川に流された靴が、男の子のおでこに当たったり、
お互いに追い抜いたり、追い抜かされたり、
その中で、お互いに「なんで山を登っているのだろう?」と相手のことが気になったり。
それが、最終的に山頂でぴったりと出会うのです。
このおもしろさはまさに群像劇ならではなもの。
ピタゴラスイッチのような、色々な要素が一つに集約するおもしろさが味わえます。
もちろん、山頂に着いた後も対照的で、お互いにはっぴぃさんだと思うものも違うし、座る場所も正反対です。
そんな2人が、雨によってついに一緒になります。
目的は同じなのに、ほとんどしゃべることもなかった2人。
見ているほうからすれば、「仲良くなればいいのに」と思い続けていたことでしょう。
それが、雨をきっかけに叶います。
孤独にはっぴぃさんを探していた2人が、互いの願い事を打ち明け、一緒にはっぴぃさんについて考えるのです。
これがなんともうれしいのが、この絵本の素敵なところ。
特に寂しさなどは感じさせない物語なのですが、2人が仲良く話しているのが妙にうれしい。
とても大切で幸せな出会いが起こったのだと、直感的に伝わってきます。
この、対照的で特徴的だった2人の道のりが、山頂で1つになるというまるでパズルのピースがはまったようなすっきり感と、そこから感じられる幸せ感が、この絵本のとてもおもしろいところです。
ハッとさせられる男の子と女の子お互いへの言葉
そんな2人は、大きな石の上で、お互いの願い事を打ち明けます。
男の子は、のろのろじゃなくなる方法を。
女の子は、慌てない方法を。
けれど、それぞれが違う方向で解決してしまったのです。
それが、考え方の転換です。
男の子は女の子の「慌てる」をほかの言い方で、女の子は男の子の「のろのろ」をほかの言い方で言い換えました。
それは、お互いの心に見事に刺さるものでした。
自分の短所だと思っていたものを、長所として言い換えられた2人。
その時の言葉と、すがすがしい2人の反応が、この絵本の本当に素敵なところ。
はっぴぃさんにお願いしなくても、とても単純な方法で解決できてしまいました。
けれど、これは1人では難しいこと。
はっぴぃさんを探しに来たからこそ起こった出会いが、このことに気付かせてくれたのです。
この、はっぴぃさんに頼らずに、同じ目的を持った者同士の何気ない一言で、願い事が叶ってしまう物語の結末も、この絵本のとてもとても素敵なところです。
色々なことが想像させられるはっぴぃさんの正体や世界観
さて、こうしてお互いに話をしたことで、願い事が叶った2人。
目に見えてはっぴぃさんに会うことはありませんでした。
けれど、はっぴぃさんがいないのかというと、ここには色々な考え方が出てくるでしょう。
そんな語られないけれど気になることが、随所にみられるのもこの絵本のおもしろいところとなっています。
気になるところの1つ目はもちろんはっぴぃさん。
神様なのか?はたまた全く違う存在なのか、すべてが謎に包まれています。
その中で、物語の中には、太陽が2人の話を聞いていたり、一緒に笑っている描写があります。
また、太陽を見ているうちに、はっぴぃさんに会えたように思い、太陽へたくさん願い事をする場面も出てきます。
これを見て、
「太陽がはっぴぃさんだったんじゃない!?」
と、想像する子や、
「でも、太陽はなにも言ってないし、願い事も叶えてないよ」
と、言う子もいるなど、はっぴぃさんへの解釈は様々。
2人を近づけるきっかけをくれた雨雲かもしれないし、
目には見えないけれど近くにいて、2人を出会わせてくれた神様みたいなものかもしれないし、
幸せを感じる心かもしれません。
そのどれもを肯定も否定もしないのが、この絵本のなんともおもしろいところ。
絵本の中のはっぴぃさんと同様に、その正体はだれにもわからないのです。
ただ、確実に言えることは山を降りていく2人が幸せそうなこと。
はっぴぃさんを探し、ハッピーになったことだけはみんなの共通認識です。
もう1つの気になるところは、その世界観にあります。
物語自体や、男の子と女の子は本当に平和そのもの。
願い事もとても生活感あふれるものとなっていて、物語だけ見れば気になるところはありません。
けれど、その街並みや背景には、戦争の痕跡が色濃く見られるのです。
街の中には、当たり前のように戦車がいて、崩れたような家も散見されます。
見返しは、黒と灰色で描かれた街並みが描かれますが、たくさんの戦車や黒煙が描かれ、物語の平和さと正反対の、まさに戦時下のような雰囲気なのです。
もし、願い事が平和などであれば繋がるのですが、その願い事ものろのろと慌てることを治したいという、とても戦争とは関係のなさそうなもの。
このギャップが、ものすごく気になるのです。
もしかしたら、それぞれ敵対している街から来ていて、互いの違った考え方や生活様式の融和を表しているのかと想像したり・・・。
そこまで考えが飛躍してしまうほどの、ものすごいアンバランスさを抱えています。
この、はっぴぃさんの正体や、世界観の謎など、まったく語られない、気になりすぎる部分があるのも、この絵本の特徴的なところです。
本当に色々な想像ができると思うので、ぜひご自分の目で確かめてみてください。
二言まとめ
男の子と女の子が、目的地は一緒なのに、全然違う道のりをたまに交差しながら並行して進んでいくのが、群像劇のようでおもしろい。
そんな2人が出会うことで、思いもよらない形で願い事が叶ってしまう、さり気ない一言にハッとさせられる絵本です。
コメント