作:木島始 レイアウト:梶山俊夫 出版:福音館書店
有名な絵巻『鳥獣人物戯画』がなんと絵本になりました。
水墨画で描かれた愛嬌たっぷりの生き物たちが、森の祭りを開きます。
でも、サルの悪知恵がきっかけで・・・。
あらすじ
今日は、森のお祭りが開かれる日。
ウサギやサルにカエルなど、色々な生き物たちがお祭り会場へと集まってきました。
たくさんの賞品も運び込まれます。
そして、いよいよ競技が開始。
弓矢を使った的当てでは、今まさにウサギが矢を射ろうとしているところ。
別の場所では、相撲の試合。
カエルとウサギが組み合っています。
いい勝負でしたが、勝ったのはカエル。
一等賞はカエルのものとなりました。
こうして、お祭りは幕を閉じる・・・と思いましたが、事件があったと帰ろうとするみんなを呼び止める声が。
なんと、一等賞を取ったカエルが、ひっくり返って死んでしまったというのです。
森のお祭りは、一転、悲しいお葬式に。
お経を読むのはサルのお坊さん。
お祭りでもらったご褒美を、みんなカエルにお供えした。
お供えしたご褒美は、全部サルのお坊さんが預かることに。
こうして、持ちきれないほどのご褒美を、イノシシやシカに運ばせての帰り道。
誰もいないと安心したサルは話し始めた。
あの事件の真相を・・・。
『かえるのごほうび』の素敵なところ
- 絵巻『鳥獣人物戯画』が絵本になった
- サルの悪知恵が起こした大事件
- 水墨画で描かれた愛嬌たっぷりの生き物たち
絵巻『鳥獣人物戯画』が絵本になった
この絵本のとてもおもしろいところは、有名な絵巻『鳥獣人物戯画』が絵本となっているところでしょう。
とても貴重な900年ほど前の美術品と絵本という、どう考えても結びつかなそうな2つが見事に融合しているのです。
しかも、美術品を紹介するような絵本ではないのもすごいところ。
見事に1つのおもしろい物語として、むしろ、この物語ありきで描かれたのではないかと思えるほど、物語絵本としておもしろいものになっているのです。
物語のおもしろさについては、またあとの項で触れるとして、もう1つ絵巻をもとにしたからこそのおもしろさがあります。
それは、元の絵巻との興味が連動するところ。
色々なグッズになっていたり、CMにも使われたりする『鳥獣人物戯画』の絵は、見たことがある子も多いものとなっています。
なので、「この絵見たことあるよ!」と言ってくる子もいたりします。
すると、元の絵を見たことがあることで、それがどんな物語なのかとより興味が持てるのです。
反対に知らない子が、この物語からその絵を知って、本当の『鳥獣人物戯画』に触れる機会があった時、本物の絵巻に対する興味が強くなることもあるでしょう。
本当の絵巻は、さらにたくさんの絵が描かれているので、この絵本の物語をもとに別の物語を想像するなんていう楽しみ方も生まれるかもしれません。
この、『鳥獣人物戯画』が驚くほどおもしろい物語になっていること、原典があるからこそのおもしろさや遊びがあるというところが、この絵本のとても特別で素敵なところです。
サルの悪知恵が起こした大事件
そんな『鳥獣人物戯画』の物語は、なんともサルらしいものになっていました。
『さるかにがっせん』を筆頭に、悪知恵を働かせがちなサル。
そんな古典的なサルの姿が、見事にこの絵本でも描かれます。
それがとてもわかりやすくおもしろい。
一等賞を取ったカエルが、死んでしまうことから始まるこの事件。
あまりに突然な出来事に、子どもたちも、
「え!?死んじゃったの!?」
「なんで!?」
「かわいそう・・・」
と、その場にいた生き物たちとまったく同じ反応を示します。
誰もサルを疑うことはなく、まさにミステリー。
腑に落ちない雰囲気のまま物語は進んでいくのです。
しかし、お葬式のお供え物をサルのお坊さんが預かるあたりから、若干怪しいにおいがしてきます。
そして、最後のネタばらしの場面。
油断したサルが口を滑らせ、すべてが明るみになってしまいます。
全部サルの仕業だとわかり、怒る動物たちと、子どもたち。
この、みんなで見事にサルに騙される流れがたまらなくおもしろいものとなっています。
まさにいっぱい食わされたを、絵に描いたような物語。
まあ、詰めの甘さもなんともサルらしいところなのですが・・・。
この、みんなでサルに騙される、わかりやすくも「してやられた!」と思わせられる、サルらしい物語ももまた、この絵本のとてもおもしろいところです。
水墨画で描かれた愛嬌たっぷりの生き物たち
さて、そんなこの絵本は、『鳥獣人物戯画』の絵が使われているということで、すべて水墨画で描かれます。
もちろん、カラフルな色はなく、すべて白黒です。
さらに言うと、描かれたのは900年ほど前という大昔。
なのに、そこで描かれる生き物たちの姿はどうでしょう?
そんな大昔に描かれたとは思えないほど、愛嬌がありキャラクター性があるのです。
サルの表情は、表情豊かな『おさるのジョージ』とほとんど変わらず、ウサギを投げ飛ばすカエルの得意げな顔と決め姿は、まさに絵本や漫画のよう。
特に、笑った時に、丸い目が弓なりになる表現などは、現代と全く同じ笑顔の表現技法です。
ほかの生き物たちも、踊ったり、腹を抱えて笑ったり、真剣に協議に挑んだりと、どれも躍動感に溢れ、表情豊か。
まさに、現代の漫画を見ているような気分になるのです。
それは、「水墨画」や「貴重な美術作品」と言う肩書からは想像もできないほど、とても身近で親しみ深いもの。
きっと、美術館で初めて出会っていたら、全然違う印象となったことでしょう。
この、物語と合わせて、愛嬌たっぷりの動物たちを目の前でじっくり見せてくれることで、『鳥獣人物戯画』に描かれた生き物たちの、肩ひじ張らない魅力をこれでもかと伝えてくれるところも、この絵本にしかない、とても素敵なところです。
二言まとめ
絵巻『鳥獣人物戯画』という美術作品が、驚くほどおもしろく親しみやすい絵本になった。
時代の変化を感じさせない、愛嬌たっぷりに生き生きと描かれた生き物たちに目を奪われ、サルにいっぱい食わされることに悔しさ感じる絵本です。
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