作:マーカス・フィスター 訳:谷川俊太郎 出版:講談社
仲間外れにされていた小さなカラス。
ある日、月まで飛べたら仲間に入れてやると言われます。
小さなカラスは、小さな羽で力いっぱい飛び立つと・・・。
あらすじ
あるところに、3羽の年を取った渡りガラスが、木の枝に止まっていた。
3羽は退屈しており、その中の1羽が「ここではなにも起こった試しがない」と嘆きの声をあげた。
それを聞いた、渡りガラスは、銀の翼のちびガラスのことを思い出したが、ほかの2羽は覚えていないようだった。
そこで、その年寄りガラスは、昔話を始めたのだった。
年寄りガラスの群れの卵はみな孵ったが、1つだけ中々孵らない卵があった。
少しして、その卵も割れたが、中から出てきたのはとてもちっぽけなカラスだった。
当時の年寄りガラスたちは、巣のそばに集まり、ちびガラスを見ると、そのみすぼらしさと小ささを笑った。
そして、次第に仲間外れにするようになった。
ちびガラスもやがて飛べるようになり、すぐに群れの中で飛ぶのが一番うまくなった。
ちびガラスは飛べるようになったことで、仲間に入れてもらえるかと思ったが、年寄りガラスたちはこう言った。
「月まで飛んで行って帰ってきたら遊んでやる」と。
もちろん、そんなことができたものはこれまで誰もいなかった。
意地悪をするために言ったのだ。
その晩、年寄りガラスは、ちびガラスが月をじっと見つめていることに気付いた。
と、突然、ちびガラスは飛び立った。
どんどん空へ昇っていくちびガラス。
それを見ながら、年寄りガラスは眠りについた。
年寄りガラスは夢の中で、ちびガラスが月まで飛んでいくのを見た。
月まで飛んだカラスの羽は、月そのもののように、銀色に輝いていた。
しかし、それからちびガラスは真っ逆さまに落ちてきた。
あわやというところで、銀の羽が風を捉えた。
そこで、鳥寄りガラスは目を覚ました。
翌日、年寄りガラスたちは、生け垣に横たわったちびガラスを見つけた。
みんなちびガラスが死んでしまったのではないかと心配した。
月へ飛び立つ光景を目にした年寄りガラスは特に。
けれど、ちびガラスは目を開けた。
そして、「ダメだった」と口にした。
誰にもその言葉の意味がわからなかったが、年寄りガラスだけはその意味がわかったのだった。
ただ、ちびガラスの羽をよく見てみると・・・。
『ちいさなつきがらす』の素敵なところ
- 小さいけれど誰よりも勇敢なちびガラス
- 光り輝く美しい月と羽
- 夢だったのか現実だったのか色々な捉え方ができる結末
小さいけれど誰よりも勇敢なちびガラス
この絵本でとてもワクワクするところは、誰もできないし、やろうともしなかったことを、ちびガラスがやってのけることでしょう。
それは、月まで飛んで戻ってくるという、どう聞いても無謀な挑戦。
それをこんなに小さなカラスが成し遂げようとするのです。
月を見上げていたちびガラスが、意を決して飛び立つ様は、
「飛んだよ!」
「本当に月まで飛べそう!」
「がんばれ!」
と、子どもたちの目を釘付けに。
思わず自分の体にも力が入ってしまいます。
月に向かって飛んでいる時の万能感はなんとも言えない気持ちよさがあり、どこまででも飛んでいけるような気持ちにさせられるのです。
しかも、それまで仲間外れにされていた弱々しいちびガラスが、それを成し遂げようとするのだからなおさら爽快に感じることでしょう。
この、ちびガラスが本当に月まで飛ぼうと、ぐんぐん空を昇っていく姿に、ワクワクとしたロマンを感じさせてくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。
光り輝く美しい月と羽
こうして、月へと飛んで行ったちびガラスは、ついに月へとたどり着きます。
そして、月の明かりに照らされたちびガラスの羽は、美しい銀色に輝き始めました。
この月と羽の銀色が、本当にキラキラと反射する素材で描かれているからたまりません。
見上げる小さな月が銀色に輝いているところから、ページをめくった瞬間に、大きな月と広げた羽のきらめきが、目に飛び込んでくるのです。
その美しさと言ったら、
「羽が光ってる!」
「きれい・・・」
「(羽が)お月様と一緒になった!」
と、子どもたちをうっとりさせるのに十二分なほど。
これは、この反射する素材を使ったからこその、イメージだけでは味わえない感動と言えるでしょう。
この、1番盛り上がる場面で、本当に月と羽を輝かせるという、シンプルに「美しい」と思える演出を入れてくるのも、この絵本のとても素敵で特徴的なところです。
夢だったのか現実だったのか色々な捉え方ができる結末
さて、そんな月へとちびガラスがたどり着く物語ですが、実は本当にたどり着いたのかはわかりません。
このお話は年寄りガラスが見たものを、ほかのカラスに伝える形式で描かれており、年寄りガラスが見たものしか語られないのです。
その中で、ちびガラスが月へ飛び立ったのは見ましたが、それを見送った後は眠ってしまい、ちびガラスが月へたどり着いたのを見たのは、夢の中だったのです。
なので、実際に見たのは、月に飛び立ったところと、落ちて横たわっているちびガラスの姿だけ。
本当に月までたどり着いたかは誰にもわからないのです。
でも、ここがこの絵本のとてもおもしろく、色々な想像で物語を補完できるところとなっています。
その想像を特に膨らませてくれるのが最後の場面。
輝きを失い、黒に戻った羽ですが、とても小さな変化がありました。
これが、完全に夢ではなかったことを暗示させてくれるのです。
それを見たうえで、ちびガラスの「ダメだった」という言葉を聞くと、
「月までたどり着いたけど落ちてしまった」
「月の近くまで飛んだけどたどり着けなかった」
など、色々な意味にとることができるのです。
さらには、年寄りガラスの見たものが、夢だと思っていたけれど、本当は見ていたのかもしれないとも。
ただ、1つだけ確実の言えることは、羽の変化からなにかを成し遂げたのだろうということ。
そして、その変化の演出が、この絵本らしいとてもおもしろく美しいものになっているということです。
この、なにが起こったのか確かなことはわからないけれど、羽の変化からなにかを成し遂げたことは伝わってくる、自然とその空白を想像したくなる構成も、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
仲間外れにされていたちびガラスが、月まで飛ぶという偉業によって他のカラスを見返すさまに、とてもワクワクさせられる。
本当にキラキラと銀色に輝く月と羽の美しさに、思わず見とれてしまう演出も美しい絵本です。
コメント