作:軽部武宏 出版:偕成社
これはぼくだけの秘密。
ある場所で、ある事をするとすごいことが起こるんです。
絶対に、秘密だからね・・・。
あらすじ
これは男の子だけの秘密です。
でも、それをあなただけに特別に教えてくれるみたいです。
秘密だからね。
ある小屋の周りを、缶ぽっくりで歩くと・・・
馬が飛び出してくるんだよ。
秘密だからね。
ある倒木を乗り越えたところで、草笛を吹くと・・・
動物たちの電車がやってくるんだよ。
秘密だからね。
ある池のほとりで、カメに電話をかけると・・・
水の中にある不思議なお城に連れて行ってくれるんだ。
秘密だからね。
階段を上ったところで、地面に花の絵を描くと・・・
たくさんのチョウチョが集まってくるんだよ。
秘密だからね。
林の奥の木の根元にあるブザーを鳴らすと・・・
いったいなにが起こるのでしょう?
そして、次はどんな秘密を教えてくれるのでしょう?
『ひみつだからね』の素敵なところ
- 夢のあるたくさんの秘密
- 「秘密だからね」という、思わず声を潜めたくなる決まり文句の繰り返し
- 自分の秘密も考えたくなる、教えたくなる
夢のあるたくさんの秘密
この絵本のとてもおもしろいところは、まるで夢のような秘密の数々でしょう。
男の子が君だけに教えてくれる、大切な秘密。
それは、どれも不思議で驚くものだけど、どこか本当にありそうなリアリティのあるものばかり。
見ていると、驚きつつも試してみたくなってきます。
男の子の秘密を聞きながら、
「あの公園の池で電話したら来るかも」
「あの階段の上ならチョウチョ来るかな?」
など、その場面を見て、自分の知っている場所が、頭に浮かぶ子どもたち。
きっと、男の子が秘密を教えてくれる場所のどれもが、子どもがよく遊ぶような場所だからなのでしょう。
子どもたちの、遊び場のイメージに、すんなりと男の子の秘密が溶け込んでいるようでした。
また、不思議のラインナップが、おもしろいものから、不気味なもの、少し怖いもの、きれいなものまで幅広いのもおもしろいところ。
きれいなチョウチョに囲まれ、「きれ~い♪」となる場面から、
ガイコツの海賊があらわれ、ドキドキする場面まで、
子どもたちの感情をいろんな方向に揺さぶってくれます。
この、ありえなさそうで、本当に起こりそうな、絶妙かつバリエーション豊富な、楽しい秘密の数々が、この絵本のとてもおもしろく素敵なところです。
「秘密だからね」という、思わず声を潜めたくなる決まり文句の繰り返し
そんな、様々な秘密を知ることができるこの絵本ですが、秘密を教えてもらう前に、必ず決まり文句が入ります。
それが、
「ひみつだからね」
という言葉。
秘密を聞いて盛り上がっていた子も、この言葉を聞いた瞬間、身を乗り出して、息をひそめるからおもしろい。
まさに、耳元で秘密を打ち明けられる時のような姿勢になるのです。
これはもう、この言葉の持つ魔力としか言いようがないでしょう。
この言葉を聞いた途端、「次はどんなことが起こるのだろう?」とワクワクが止まりません。
この、絵本を見ているのに、まるで友だちとコショコショ話をしているような、秘密基地を案内してもらっているような、本当に秘密を共有している時の特別な心地よい嬉しさのようなものを感じられるのも、この絵本のとても特別なところです。
ぜひ、読んだ後は、「この絵本を見ていない人には秘密だからね」と念を押してみてください。
子どもたちそれぞれの、秘密に対するスタンスを見ることができておもしろいですよ。
自分の秘密も考えたくなる、教えたくなる
さて、そんな秘密をたくさん教えてくれるこの絵本ですが、物語の最後はおもしろい言葉で締めくくられます。
それが、
「君の秘密の場所はどんなところ?今度は君が教えてよ」
というもの。
これまで、秘密を教えてもらい驚いたり楽しんだりしていた子どもたちですが、今度は自分の秘密について考えさせられます。
この自分の秘密を考えることで、「秘密」という言葉をより深く感じることができるのも、この絵本のおもしろいところです。
年齢にもよりますが、年少・年中くらいだと、「そんなのないよ」ということも多いでしょう。
そんな時、遊びの中で子どもたちだけで作っている秘密基地や、公園でのよく遊んでいる隠れ場所の話をしてみると、
「あ~!確かに!」
と、自分にも秘密の場所があることに気付かされたりします。
すると、この絵本の「秘密」に対する解像度が一気に上がるのです。
また、ここで「秘密の場所」と聞いてくれるのも、大切なポイント。
「秘密」だと範囲が大きくなりすぎて、なかなか思いつきませんが「秘密の場所」と狭めてくれることで、思いつきやすくなるし、聞きやすくもなるのです。
この、たくさんの秘密を教えてもらった後に、自分の秘密の場所について考えることで、「秘密」のおもしろさをより深く感じることができるのも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
男の子に教えてもらう、不思議でありえなさそうなのに、妙にリアリティのある秘密がワクワクしておもしろい。
本当の友だちに、こっそり秘密を教えてもらっている時のような特別感を味わえる、秘密の絵本です。
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