作:馬場のぼる 出版:こぐま社
みんな知っている昔話『ももたろう』。
でも、この桃太郎はものすごい面倒くさがり。
大体同じだけど、ちょっと違う。
そんな変わり昔話のおもしろさを、ぜひ味わってみてください。
あらすじ
昔々あるところに、じさまとばさまが暮らしていた。
じさまは山へ芝刈りに、ばさまは川へ洗濯に行った。
ばさまが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきた。
ばさまはその桃を家に持って帰り、じさまと食べることにした。
じさまが帰ってきたので、さっそく桃を切ってみると、なんと中から男の子の赤ん坊が出てきたではないか。
じさまとばさまは、その子を桃太郎を名づけ、育てていくと、ずんずん大きくなっていった。
ところが、立派な青年になった桃太郎は、毎日ゴロゴロ寝転がって、なんの仕事もしなかった。
近所の友だちが、芝刈りへ誘いに来たが、桃太郎はその誘いを断りゴロゴロ。
次の日も、友だちが誘いに来たが、やっぱり断りゴロゴロ。
また次の日も誘いに来たが断りゴロゴロ。
さすがにその次の日は、桃太郎も友だちと仕方なく山へ芝刈りに出かけた。
けれど、桃太郎は山へ着くなり寝転がってしまった。
やがて日が暮れる頃、芝刈りが終わった友だちが桃太郎を起こしにきた。
すると、突然松の木を一本引き抜いた桃太郎。
芝刈りが面倒くさかったので、芝を刈る代わりに松の木をそのまま持って帰ることにしたのだった。
松の木を持って帰った桃太郎を見て、じさまとばさまびっくり。
しかし、困ったことにこんな大きなもの置く場所がない。
面倒くさくなった桃太郎は、松の木を川に放り込み捨ててしまったのだった。
それを見ていたのが、通りかかった殿様。
その力を見て、桃太郎を呼び寄せた。
鬼が暴れて困っているから、鬼ヶ島へ行って退治してほしいというのだ。
さすがの桃太郎も、殿様の頼みでは断れない。
桃太郎は、ばさまのきびだんごを持たせてもらい、鬼退治に向かったのだった。
しばらく行くと、イヌがやってきて、桃太郎へどこに行くのか尋ねた。
鬼退治に行くと聞き、きびだんごをくれるならお供してくれるという。
桃太郎は、きびだんごをやり、イヌと一緒に行くことになった。
またしばらくいくと、サルがやってきた。
サルもきびだんごをもらい、一緒に行くことになった。
さらにキジが飛んできて、きびだんごをもらい、一緒に鬼ヶ島へ行くことに。
こうして、イヌ・サル・キジを連れ、船に乗りいよいよ鬼ヶ島へと上陸したのだった。
鬼ヶ島には、大きな鉄の門があったが、サルが中から鍵を開け、桃太郎は中に入ることができた。
桃太郎が大声で鬼を呼ぶと、金棒を振り回しながら出てくる鬼たち。
イヌは噛みつき、サルは引っかき、キジは突いて応戦する。
そしてついに鬼の大将が現れたのだった。
大きな金棒を振り上げ迫る鬼の大将。
しかし、桃太郎はその金棒をもぎ取ると、飴のように曲げ、鬼の大将を持ち上げてしまった。
そのまま、海へほうり込もうとすると、鬼大将は降参した。
心を入れ替えいい鬼になる約束をすると、鬼たちは宝物を桃太郎に差し出した。
桃太郎たちは、宝を持ってじさまとばさまのところへ帰っていったのだった。
めでたしめでたし
『ももたろう』の素敵なところ
- ものすごい面倒くさがりな桃太郎
- ほとんど同じでちょびっと違うおもしろさ
- 馬場のぼる節全開なセリフ回し
ものすごい面倒くさがりな桃太郎
この絵本のなによりおもしろいところは、桃太郎がものすごく面倒くさがりなところでしょう。
桃太郎っといえば、好青年で、まっすぐで、まさにヒーロー像にぴったりなイメージ。
ですが、この桃太郎は、大きくなっても鬼退治どころか、仕事もせずに寝てばかり。
友だちに3度誘われても、理由をつけて行かないのだから筋金入りです。
この、本家桃太郎とのギャップがなんともおもしろい。
けれど、ただのめんどうくさがりでもありません。
木を丸ごと引っこ抜くほどの力持ちなのです。
これには、それまであきれ顔だった子どもたちも「えー!?」とびっくり仰天。
めんどうくさがりと、ヒーロー的な力のギャップにも、おおいに驚かされるのです。
もちろん、桃太郎なので鬼退治にはいきますが、その理由も「殿様に言われたから断れない」という消極的なのも、この桃太郎らしさ抜群。
最初から最後まで、めんどうくさがり全開です。
この、本家桃太郎とは似ても似つかない、筋金入りの面倒くさがりっぷりが、この絵本のもっとも本家と違うおもしろいところです。
ほとんど同じでちょびっと違うおもしろさ
そんな面倒くさがりの桃太郎が主人公なら、さぞ話の展開も変わるかと思いきやそんなことはありません。
面倒くさがって、なかなか鬼退治に行かない以外は、いたって普通の桃太郎のお話なのです。
きびだんごと日本一の旗を持ち、イヌ・サル・キジにきびだんごをあげ仲間にし、鬼ヶ島でも定石通りサルに鍵を開けさせます。
ちょっと違うところと言えば、舟の中でイヌに漕がせて寝ていたり、鬼退治の時に刀を使わず怪力で退治することくらい。
ちゃんと桃太郎の昔話として進んでいくのです。
だからこそ、桃太郎の面倒くさがりなところが、とても特別に見えるのでしょう。
よく知っている、桃太郎という昔話の枠の中で起こる少しの変化。
少しの変化だからこそ、
「えー!桃太郎となんか違う」
「桃太郎寝ちゃうの!?」
「鬼退治行かないの!?」
と、比較してその違いを楽しむことができるのです。
この、「大体桃太郎だけど、なっか違う」という、変わり昔話ならではのおもしろさを存分に味わえるのも、この絵本のとてもおもしろいところです。
馬場のぼる節全開なセリフ回し
さて、そんな面倒くさがりの桃太郎の姿は、なんとも馬場のぼるさんが描くのにぴったり。
その絵の雰囲気から、『11ぴきのねこ』シリーズのような、のほほんとした雰囲気が伝わってきます。
その中でも特徴的なのが、物語の中に出てくるセリフ回し。
これがなんとも、馬場のぼる節全開なのです。
例えば、桃太郎が生まれる場面。
じさまとばさまは「あやややや」「うほほほほ」と驚きの声をあげます。
鬼が謝る場面では「うへえー」とひざまずくのです。
他にもあくびの「ふわぁーい」など、『11ぴきのねこ』を見たことがある人は、ピンとくるセリフ回しが登場します。
これが、その絵と相まって、馬場のぼるさんの絵本を見ていれば見ているほど、なんだか親近感が湧くのです。
この、馬場のぼる節全開な、知らなくてもおもしろいけれど、知っているとよりクスっとさせてくれる、絵やセリフ回しの他の絵本との共通点も、この絵本の他の桃太郎にはないおもしろいところです。
二言まとめ
とてもめんどうくさがりな桃太郎という、本家との大きすぎるギャップがおもしろい。
本家から、本当に少しだけ変えることで、桃太郎の本質的なおもしろさはそのままに、新たなおもしろさが加わった、変わり昔話です。
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