作:新美南吉 絵:鈴木靖将 出版:新樹社
緑と黄色の2匹のカエルがケンカを始めました。
けれどその途中、冷たい風が吹き、2匹はケンカを預け冬眠することに。
時が経ち、温かくなり起きだした2匹が顔を合わせると・・・。
あらすじ
緑のカエルと、黄色のカエルがばったりと出会いました。
しかし、出会い頭に、緑のカエルは、黄色のカエルを汚い色だとけなし、
黄色のカエルは、緑のカエルに自分の緑を美しいと思ってるんじゃないかと返しました。
当然、2匹のケンカが始まります。
緑のカエルはとびかかり、黄色のカエルは足で砂をかけます。
と、その時、寒い風が吹いてきて、2匹はもうすぐ冬が来ることに気が付きました。
ケンカをしている場合ではありません。
冬眠の準備をしなければならないのです。
そこで、2匹はケンカを春まで預け、土の中へと潜っていったのでした。
やがて、春になると、緑のカエルが起きだしました。
そして、黄色のカエルを起こします。
2匹ともケンカの約束は忘れていず、緑のカエルがケンカを再開しようとしましたが、黄色のカエルが先に体の土を落としてからにしようと提案。
2匹は、池に飛び込み土を洗い落とすことにしました。
水の中に入ると、2匹の体はきれいになり、とても気持ちの良い気分でした。
そして、池から上がると緑のカエルはびっくりしました。
なぜなら、黄色のカエルをよく見ると・・・。
『にひきのかえる』の素敵なところ
- 売り言葉に買い言葉な2匹のカエル
- 季節の変化が心地いいカエルならではな物語の展開
- 気持ちがすっきりすると、世界もすっきり見えてくる
売り言葉に買い言葉な2匹のカエル
この絵本のとても印象的なところは、まさに売り言葉に買い言葉な2匹のカエルのやり取りでしょう。
出会い頭に、相手のことをけなす緑のカエル。
それに負けじと嫌味で返す黄色のカエル。
これを聞いて、子どもたちはハラハラドキドキ。
「そんなこと言ったらケンカになっちゃうよ!」
「ひどい!」
と、一触即発の状況に気が気ではありません。
そしてもちろん大ゲンカに発展。
とびかかり、土をかけと、収拾がつかなくなってしまいます。
この、あまりにも性格も仲も悪い2匹のカエルの姿が、この絵本のとてもおもしろいところです。
この2匹の印象最悪な姿があるからこそ、冬眠したあとのケンカがどうなるのか気になるし、冬眠後の変化がとてもおもしろく感じられるのだと思います。
季節の変化が心地いいカエルならではな物語の展開
そんな、どちらかが倒れるまでケンカし続ける勢いの2匹。
ですが、寒い風が吹いてくることで、ケンカを一時中断します。
なぜなら、冬眠しなければならないから。
このあたりが、自然の流れに逆らえないカエルらしさ抜群でおもしろいところ。
ひとまず、ケンカを春まで預ける約束をして、2匹とも土の中に潜ります。
この土の中で気持ちよさそうに眠る姿が、なんともうらやましい。
地上で寒い風が吹いているのと対照的に、とても暖かくて柔らかそうな土の中。
そして、カエルや他の生き物たちがすやすや眠る気持ちよさそうな姿。
特に冬に読むと、その冷たさが身に染みて、すぐに布団にくるまりたくなってきます。
さらに素敵なのが春の描写です。
土の上がにぎやかになってきて、植物や色合いなどから、春に吹く暖かな空気が絵本の中から感じられるのです。
そこへ気持ちよさそうに起きだすカエル。
これらを見ていると、冬に読んでいても、春風がほほを撫でられたような心地よい感覚になります。
この、カエルの冬眠というおもしろい展開とともに、冬は土の中の温かさを、春は地上の温かさを感じられる、季節に応じた心地よさを感じられるところも、この絵本のとても素敵なところです。
気持ちがすっきりすると、世界もすっきり見えてくる
さて、そんな冬眠から目覚めたカエルたちですが、もちろんケンカのことは忘れていません。
緑のカエルはさっそくケンカの続きを始めようとします。
けれど、寝起きの黄色のカエルは、土を落としてからにしようと提案。
こうして、池へ飛び込むことに。
ここでの池の中で泳ぐ場面がなんとも気持ちよさそうで美しい。
深い青の中で、体を伸ばし、気持ちよさそうに泳ぐカエルたち。
「池には新しく湧き出て、ラムネのように清々しい水が、いっぱいにたたえられてありました。」
というなんとも爽やかな文章と相まって、こちらまで清々しいすっきりと気持ちにさせてくれる場面です。
カエルたちの表情も、先ほどまでの寝起きの顔とは違い、すっきり爽やか。
ただ、驚くのはここから。
そんな状態で、池から上がり相手の体を見てみると、冬に見た時とは全く違って見えたのです。
よく眠り、水浴びをしてすっきりした目で見る世界。
同じ自分の目で見ても、全然違って見えることがある不思議を、カエルたちの姿を通して伝わってくるのです。
この、気分によって、世界の見え方が180度変わってしまうおもしろさが感覚的に伝わってくるところも、この絵本のとても素敵なところです。
きっと、よく寝て、しっかりお風呂につかる。
これが、気持ちよく過ごす秘訣なのだと思います。
二言まとめ
ケンカをしている2匹のカエルの、冬眠前と冬眠後で、関わり方が180度変わるのがおもしろい。
ゆっくりと眠ることの大切さが、ひしひしと伝わってくる絵本です。
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