作:田島征三 デザイン設計:塩澤文男 出版:ポプラ社
ひとり気ままに海を行く海賊がいた。
ある日、海賊は人魚を見つけ恋に落ちた。
人魚に気持ちを伝えるため、海賊船は出航する。
あらすじ
海の上に海賊船が浮かんでいる。
その海賊船に乗っているのは、たった一人の海賊。
手下はいなかった。
なので、のんびり昼寝をし、波と戯れ、友だちのタコと触れ合い、トビウオの群れを見守った。
海のものはほとんど海賊の友だちだった。
けれど、戦うときもある。
島を泳ぎ回って島人を苦しめるイノシシがいたのだ。
イノシシに勝利して、その肉をたらふく食べた晩。
真夜中に、海の中から金色に輝くものが飛び出して、月に向かっていくのを見つけた。
そして、舳先で人魚が泣いているのを見た。
海賊は人魚に一目ぼれしてしまった。
人魚はすぐに目の前から消えてしまったが、人魚のことが忘れられず、海の中へ探しに出かけた。
でも、どこにも見つからない。
どれだけ深く潜っても。
海賊は探している中で、病気になった魚たちを見つけた。
海賊は人魚が心配になり探し続けた。
こうして、ついに海賊は人魚を見つけることができた。
浅瀬で。
人魚は静かに座っている。
海賊は人魚のそばに座り、黙って一緒に海藻サラダを食べた。
海賊は毎日人魚のもとにやってきた。
人魚は時々泣いていた。
そんな日々が続くうち、海賊と人魚は仲良くなった。
人魚の足元には、月に向かって飛んでいた金色に輝くものが落ちていた。
それは、人魚のウロコだったのだ。
海賊はウロコを拾って持ち帰り、海賊船に張り付けた。
そんなある日。
浅瀬が工事で埋め立てられてしまった。
人魚は再び姿を隠し、海賊は探しに行く。
海賊が探していると、タコが人魚から海賊にあてた手紙を持ってきてくれた。
その手紙によると、海の毒が人魚の体を痛めてしまい、あとウロコが3枚落ちたら死んでしまうという。
海鳥が、海賊に毒を流している船の居場所を教えてくれ、海賊は戦いを挑んだ。
けれど、海賊はたちまち追われる身になってしまい、依然助けた島に逃げ込み、かくまわれることになった。
その夜、海の中から月へ飛ぶ、人魚のウロコを見つけた。
すぐそばに人魚がいるとわかった海賊は、すぐに海へ潜ると・・・。
海賊と人魚の再開は叶うのでしょうか?
『海賊』の素敵なところ
- 自由気ままな海賊らしからぬ海賊
- 愛しの人魚を探す、笑いと不穏さが交互に来る大冒険
- 衝撃的で不思議で想像が広がる2人の結末
自由気ままな海賊らしからぬ海賊
この絵本を見て、まず驚くところは、海賊らしからぬ海賊の暮らしぶりでしょう。
見た目は、眼帯に、片手にフックがついていて、片足は木の棒と、まさにフック船長を彷彿とさせるくらい、荒々しい海賊です。
なのに、手下は誰もいず、やることと言えば、昼寝や海の友だちと戯れるばかり。
しかも、その友だちの多いこと。
海鳥、魚、タコ、スナメリ、イルカと、海にいるものはほとんど友だちなのです。
そして、そんな暮らしの中で、海賊の表情は優しくて穏やかそのもの。
子どもたちも、
「この海賊、怖くないのかな?」
「優しい海賊なのかも」
と、怖いという海賊へのイメージが、どんどんゆるんでいきます。
でも、海賊なので戦うことだってもちろんあります。
ただ、それも島人のためや、人魚のためなど、全部誰かのための戦い。
まるでヒーローのような海賊のかっこいい姿に、子どもたちもすっかり海賊に魅了されてしまいます。
しかも、優しくかっこいいだけでなくおもしろい。
友だちの魚でも、あくびをしている時に口の中へ飛び込んできたら、仕方なく食べてしまったり、
海賊の左足を食べたサメが右足もねだりに来ると、「あげないよ!」と陽気にあしらったり、
人魚に一目ぼれしたあと、海賊船中を跳び回り「にんぎょ~」「大好きだよ~」「どこにいるの~」と叫んだり・・・。
どれもコミカルでおもしろいのです。
この、怖い海賊を絵に描いたような見た目とは裏腹に、優しく、かっこよく、おもしろい、魅力的な海賊の姿が、この絵本のとてもおもしろいところです。
愛しの人魚を探す、笑いと不穏さが交互に来る大冒険
そんな海賊は、ある日、人魚と出会います。
そして、その美しさに一目ぼれ。
人魚が泣いている姿を思い出し、いてもたってもいられず海へと飛び込んでいくのです。
この人魚探しも、この絵本の大きな見どころの1つ。
海の深くに潜っていき、人魚を探していきます。
その中で、タコの頭を叩き「昼寝の邪魔するな」と言われたり、
魚に聞いて「しらん」と言われたりと、探す様子がまるで漫画のようにコミカル。
子どもたちも思わずクスリとさせられます。
でも、しばらく行くと、病気の魚を発見。
その姿は、体が溶けだしているゾンビのようで、ものすごく不気味。
骨になっているものもいます。
人魚が心配になり急ぐ海賊。
でも、ここからはまたコミカルで、
追いかけてくるサメに「ついてくるな!カマボコにするぞ!」と追い返したり、
「あいしてる~」と叫んだり、
さらには、あんなに深いところを探していたのに、浅瀬で人魚を発見したり。
こんな風に、笑いと不穏さが交互に来るので、おもしろさとドキドキ感が、ずっと続いていくのです。
しかも、不穏さがしっかりと伏線になっているからよりおもしろい。
この、基本的にコミカルだけれど、要所要所でギュッと締まるシリアスさも、この絵本のとても見ごたえのあるところだと思います。
笑いの中に常に潜んでいる、油断できないこの絵本ならではの感覚を、ぜひ味わってみてください。
衝撃的で不思議で想像が広がる2人の結末
こうして2人は無事再会し、仲良くなっていきますが、突如別れが訪れます。
浅瀬が埋め立てられてしまったのです。
さらに、人魚の体が毒に侵され、先が長くないこともわかります。
そして、毒を流している船に戦いを挑む海賊。
ここから環境的な話になるのかと思いや、そんなことはありません。
なにせ、ひとりぼっちの海賊にそんな力はないのです。
船の船員が、すぐに通報し、警備の船がやってきて追われる身に。
このあたりが、ものすごく現実的でシビア。
あくまで、海賊と人魚の個人的な話に終始します。
だからこそ、とてもおもしろいのですが・・・。
逃げ込んだ島で、かくまわれる海賊。
そこで、海賊はウロコが飛ぶのを見つけ、人魚のもとへ向かいます。
ここで衝撃的な人魚の姿を見つけ、さらに衝撃的な場面でこの絵本は終わります。
でも、ここでいろんな疑問が浮かびます。
「なんで、ウロコは月に向かって飛んでいたのか?」
「手紙には3枚のウロコが剥がれたら死んでしまうと書かれていたけど、月に飛んだのは2枚だった」
「人魚がどうなったかは明確に言及されていない」
など、実はわからないことがたくさんあるのです。
そして、謎が多いからこそ、色々な想像ができておもしろい。
これらを組み合わせると、その結末が救いのないバッドエンドから、救われるハッピーエンドまで、様々に想像できてしまいます。
この、一見悲劇に見える結末ですが、散りばめられた様々な要素によって、バッドエンドからハッピーエンドまで、様々なグラデーションを持つ物語を想像できるところも、この絵本のとてもとても素敵なところです。
みんさんの海賊と人魚はどんな結末を迎えるのでしょうか?
ぜひ、見終わった後に語り合ってみてください。
二言まとめ
見た目とは裏腹に、とてもコミカルな海賊と人魚の出会いがとても素敵で心温まりクスリと笑える。
一見悲劇的な結末が、想像力と読解力次第でハッピーエンドなるかもしれない、余白のたっぷりとある優しい恋の絵本です。
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