作:羽尻利門 出版:世界文化社
おじいちゃんの家で過ごすGW。
こどもの日のお祭りへ連れて行ってもらうことになりました。
空いっぱいのこいのぼりに大興奮です。
でも、さらにその上を泳いでいるものが・・・
あらすじ
お兄ちゃんのケンゴと妹のサナエは、ゴールデンウィークに家族でおじいちゃんの家へ向かっていました。
おじいちゃんの家に着くと、おじいちゃん、おばあちゃんがケンゴとサナエを嬉しそうに迎えてくれました。
家にはこいのぼりを立ててくれています。
さっそく、ケンゴとサナエは、おじいちゃんと川遊びに来ました。
2人とも、水を跳ね上げ大はしゃぎです。
ケンゴとサナエが川から上がると、川の中にコイを見つけました。
コイは川の段差を上がろうと、一生懸命泳いでいます。
おじいちゃんは、コイたちが卵を産む場所を探すために移動しているのだ教えてくれました。
2人は、コイを応援しました。
すると、ついにコイが段差を登ることに成功し、2人は大興奮。
おじいちゃんはコイが段差を登る姿を見て、「コイの滝登りだなあ」と唸りました。
2人がコイの滝登りについて聞くと、おじいちゃんが説明してくれました。
中国の昔話で、大きな滝を登ったコイが、竜になったというのです。
そして、こどもの日にこいのぼりを上げるのは、このコイのように、「子どもたちがたくましく育つように」という願いが込められているのだと。
夜ご飯は、ケンゴとサナエの大好物、手巻き寿司です。
手巻き寿司を食べながら、おじいちゃんは2人に、明日のこどもの日、地域の新しいお祭りに行こうかとたずねました。
2人はすぐに行きたいと答え、明日はお祭りにいくことが決まりました。
次の日、ケンゴたちは、車で山道を進んでいきます。
そして、いくつかのトンネルを抜けると、急に視界が開けました。
目の前に現れたのは・・・
大きな川の上を泳ぐ、空いっぱいのこいのぼりでした。
ケンゴとサナエは初めて見る光景にびっくり仰天です。
川原では屋台が並び、たくさんの人がお祭りを楽しんでいます。
その中に舟を見つけたケンゴ。
さっそくみんなで舟に乗ってみることになりました。
船頭さんが船を漕ぎ、たくさんのこいのぼりの下を通っていきます。
とその時、気持ちのよい風が頬をなでていきました。
思わずケンゴが空を見上げると、そこにはこいのぼりのさらに上を泳ぐ、龍の姿をした雲が。
龍を見たケンゴが、
「おじいちゃんの言った通りだ!」
と言うと、おじいちゃんは胸を張っていましたが、その表情は少し驚いた様子なのでした。

おしまい!
『そらいっぱいのこいのぼり』の素敵なところ
- 心から歓迎され、たくさん褒めてくれるおじいちゃんの家ならではな温かみ
- コイの滝登り伝説と目の前のこいのぼりが繋がる物語
- 自分がケンゴやサナエになってしまうリアルな絵本の中の世界
心から歓迎され、たくさん褒めてくれるおじいちゃんの家ならではな温かみ
この絵本のとても素敵なところは、本当におじいちゃんの家に来たような楽しさや温かさを感じるところです。
この絵本で描かれる、おじいちゃんとおばあちゃんは、ただのシチュエーションではありません。
その一挙手一投足から、田舎で孫が来るのを楽しみにしているおじいちゃん、おばあちゃんというのが伝わってくるのです。
それは、
孫が到着した時に頭を撫でたり、抱きしめたりしながら「また大きくなったねぇ」という言葉
田舎に着いてすぐに、孫を川遊びに連れて行ってくれる姿
手巻き寿司を巻く孫を見て「去年より上手になったねえ」と小さなことも褒めてくれるところ
などの、細かな言葉や仕草など、絵本のそこかしこから伝わってきます。
その言葉や仕草は、孫が遊びにきて喜ぶおじいちゃん、おばあちゃんそのもので、とてもとてもリアルです。
きっと、このおじいちゃん、おばあちゃんの微笑みや、スキンシップ、優しい言葉を見聞きしていると、自分のおじいちゃん、おばあちゃんの顔や声が頭に浮かんでくることでしょう。
そんなおじいちゃん、おばあちゃんの温かさに加えて、田舎ならではの楽しみまであるのだから、おじいちゃん、おばあちゃんの家は最強です。
豊かな自然、きれいな川、都会では立てられない大きなこいのぼり、賑やかなお祭りなど、楽しくて特別なことが目白押し。
休んでいる暇なんてありません。
この、おじいちゃんの家ならではな、心から歓迎されている楽しく温かい感覚を、本当にそこにいるようなリアルさで味わえるのが、この絵本のとても素敵なところです。
コイの滝登り伝説と目の前のこいのぼりが繋がる物語
この絵本のもう1つ重要なのが、こどもの日の行事絵本としても、わかりやすくおもしろいものになっているというところです。
この絵本では、こどもの日がこいのぼりに注目して説明されています。
中でも、こいのぼりの由来に関する説明が、抜群にわかりやすく想像しやすいものになっています。
そのわかりやすさの秘訣は、実際に川でコイが段差を登るところを見せてくれるから。
いきなりコイの滝登り伝説の話をされてもピンとこない子もいますが、実際にコイが川を泳いでいる姿を見たあとであれば話は別。
コイが一生懸命段差を登る姿の延長線上に、コイの滝登りを想像できます。
すると、自然にコイの滝登りのすごさや、滝を登りきった結果竜になること、こいのぼりに込められた願いが腑に落ちるのです。
この、実物の川で泳ぐコイから、想像上の伝説へ繋げるのは、3歳くらいの子にぴったりな手法。
この絵本が無理なく見れる3歳くらいの年齢の子が、楽しく詳しくこいのぼりの由来を知るのにこれほどちょうどいい絵本はないでしょう。
さらにおもしろいのはコイの滝登り伝説が、昔の伝説のまま終わらないところです。
最後の場面で、空に泳ぐこいのぼりを見上げると、こいのぼりのもっと上に竜の形の雲が見えます。
この竜雲の、本物の竜と言われても、ただの雲だと言われても、どちらも信じられる絶妙なラインなのが素敵なところ。
形は雲と思えないほど竜で、輪郭もしっかりとあり角だって生えています。
けれど、その材質は完全に雲。
風に吹かれたらすぐに散ってしまいそうなほど軽くふわふわしています。
こどもの日のこいのぼりに誘われて竜が来たのか?
こいのぼりの1匹が竜になったのか?
川を泳いでいたコイが竜になったのか?
はたまた、ただの雲なのか?
様々な想像が頭に浮かんでくることでしょう。
その竜雲の答えは1人ずつ違い、お互いの考えを伝え合うのもおもしろい。
この、本物のコイと地続きにコイの滝登り伝説を理解させてくれ、その竜が雲として目の前に現れるという神秘的な体験で、伝説と現実を繋げてくれるところも、この絵本のとても素敵でおもしろいところです。
番外編として、こどもの日にちなんだひらがな探しや、ケンゴとサナエの名前に込められた秘密など、小さなネタも満載なので、ぜひ作者のあとがきも見てみてくださいね。
自分がケンゴやサナエになってしまうリアルな絵本の中の世界
さて、そんなおじいちゃんの家で過ごす、特別で楽しいゴールデンウィーク。
そこでの日々や出来事が、本当に目の前で起こっているようなリアルさと没入感も、この絵本の素敵なところです。
このリアルさは、その絵のリアルさから来ている部分大きいのでしょう。
表紙の絵からもわかるように、この絵本は景色やこいのぼり、川原の小石一つ一つまで、とてもリアルに描き出されています。
おじいちゃんの家が遠くに見えてきた遠景などは、本当に自分がその場所に立ちおじいちゃんの家や山並みを眺めているような錯覚を覚えるほど。
田舎に来た時の開放感を味わえます。
川原はきらめき、そこにいるコイは本当に動いているようにさえ見えます。
子どもたちが、

がんばれー!



もうちょっと!
と、思わず応援する姿はまるでケンゴとサナエのよう。
実際にそこにいるかのような臨場感です。
手巻き寿司を食べる場面も、なんの具材が置いてあるかまでよくわかり、手巻き寿司の楽しさが伝わってきます。
中でもすごいのが、車で山道を行く場面。
山道ならではの鬱蒼とした中にトンネルがあり、そこを車で進む光景を目にしていると、自分が体験した車窓からの景色が思い浮かび、車に揺られている気分になるのです。
そんなリアルな景色に、登場人物たちのリアルな仕草や言葉が重なります。
抱きしめてくれるおじいちゃんやおばあちゃん。
おじいちゃん、おばあちゃんなら言ってくれそうな言葉。
孫とおじいちゃんたちが手巻き寿司を食べる様子を、スマホで撮影するお父さん。
もう、絵本の中で人々が生きているようなのです。
この、景色と人々のリアルさから、本当に自分がおじいちゃんの家に来たような感覚になれるところも、この絵本のとてもとても素敵なところです。
二言まとめ
こいのぼりの由来や願いを、本物のコイの姿を通してわかりやすく伝えてくれる。
竜の形をした雲とこいのぼりが一緒に空を泳ぐという神秘的な体験で、コイの滝登り伝説と現代のこいのぼりを繋げてくれるこいのぼり絵本です。
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