文:きむらゆういち 絵:田島征三 出版:偕成社
1人が好きなオオカミがいました。
ある日、そんなオオカミのもとにクマが現れ、狩りに誘ってきたではありませんか。
オオカミはクマの意図がわからずに、おっかなびっくり着いていきました。
けれど、一緒に色々なことをするうちに・・・。
あらすじ
1人でいるのが気楽で好きなオオカミがいました。
ある日、オオカミが獲物を探して歩いていると、目の前に大きくて強そうなクマが現れました。
クマは、一緒に獲物を探そうと、オオカミを誘ったのでした。
オオカミはクマの意図がわからず困惑。
そんなオオカミの気持ちなどお構いなしに、クマは獲物がいそうな場所を聞いてきます。
オオカミは用心して、獲物のいる場所を教えませんでした。
するとクマは、自分がいいところを知っていると、オオカミを連れて歩き出しました。
歩いてくるクマを見て逃げ出す森の動物達。
逃げる動物たちを見て、オオカミはカラスが「クマはなんでも食べる」と言っていたことを思い出しました。
オオカミは、自分のことを食べようとしているのかと疑い、急に恐ろしくなりました。
オオカミはクマに別れを告げトンネルへ逃げようとしましたが、なんとクマが行きたい道もオオカミと一緒の道。
オオカミのあとをクマがついてくる形になり、オオカミはトンネルの中で後ろから襲われないかヒヤヒヤしながら歩いていきました。
やっと、トンネルを抜けオオカミがクマを見ると、クマが石を投げつけてきたではありませんか。
オオカミがとっさに体を丸めると、その石は木の枝へ当たり、ぶらさがっていた蜂の巣が地面にどさり。
クマは、蜂の巣を半分に割り、オオカミに渡してくれたのでした。
食べてみると、クマの言う通り、とても甘くておいしかったので、オオカミはちょっと嬉しくなりました。
嬉しそうなオオカミを見て、クマもにっこり笑いました。
ハチミツを食べ終わり、また歩き出した2人。
ところが、クマが恐ろしい顔をしながら、低い唸り声をあげ始めたではありませんか。
しかも、片手を後ろに隠し、棒でも持っているようなかっこうで、オオカミのあとをついてきます。
オオカミはまた恐ろしくなって、クマを気にしながら歩いていると・・・
目の前の崖に気づかず、足を滑らせてしまいました。
なんとか崖のふちに手をかけましたが、目の前には迫ってくるクマの姿が。
最悪の結末を覚悟したオオカミ。
けれど、駆けつけたクマは、手を差し伸べて、オオカミを引き上げてくれました。
オオカミがクマにお礼を言うと、クマは気にせず「川で魚を獲ろう」とオオカミを誘いました。
オオカミは、クマのことがますますわからなくなりましたが、クマに付き合ってみようという気持ちになったのでした。
川に着くと、力を合わせて魚を獲り始めます。
オオカミが魚を追い、追われた魚をクマが獲るという捕まえ方で大量の魚が獲れました。
2人でやると、あっという間にたくさんの魚が獲れたのです。
2人は川原で、獲れたての魚を食べました。
でも、オオカミには気にあっていることがあります。
そう、クマがハチミツを食べて以来、片手をずっと隠していること。
オオカミは思い切ってクマに聞いてみることにしました。
クマはしばらく黙っていましたが、やがて小さな声でその理由を話し始めました。
クマが片手を隠していた理由とは一体何だったのでしょう?
それを聞いたオオカミの反応は・・・?

おしまい!
『オオカミのともだち』の素敵なところ
- 得体のしれないクマに対するドキドキと揺れ動く気持ち
- 色々なことを体験する中で仲良くなっていくオオカミとクマ
- 思わず笑ってしまう、クマが片手を隠していたわけ
得体のしれないクマに対するドキドキと揺れ動く気持ち
この絵本の目が離せないところは、正体がまったくわからないクマと過ごす時間でしょう。
体が大きく、見た目がかなり怖いクマ。
毛も逆立ち、腕も太くとっても強そうです。
さらに、初対面でもグイグイ来る性格が合わさって、まるで『ドラえもん』に出てくるジャイアンのような印象を受けることでしょう。
そんなクマが、急に「獲物を獲りにいこう」と誘ってくるのだから、警戒するのが当たり前。

オオカミのこと食べようとしてるのかな?



きっと、いいクマさんなんだよ!
と、子どもたちも意見が割れ、まさにオオカミの疑心暗鬼と同じ状態。
見事に気持ちがシンクロしていました。
さらに、クマと過ごす時間は、楽しいような不安なような、心が揺れ動く出来事が続きます。
勝手に後ろから着いてきたかと思ったら、石を投げてきたり
でも、その石はハチミツを獲るためで、半分分けてくれたり
ハチミツで安心したら、ものすごい顔で近づいてきたり
まさに、信じていいのか疑っていいのかが、ジェットコースターのように上下するからたまりません。
子どもたちも、



やっぱり怖いクマなのかな?



友だちになりたいんだよ!
と、何かあるごとに気持ちが揺れ動かされっぱなしです。
この、終始クマの行動が気になって、「いいクマなのか?」「悪いクマなのか?」と、目が離せないドキドキ感がこの絵本のとても心かき乱されるおもしろいところです。
色々なことを体験する中で仲良くなっていくオオカミとクマ
オオカミと子どもたちが、クマに対して疑心暗鬼になるこの絵本。
ですが、2人で過ごす時間が長くなり、様々な体験をしていくことで、徐々にクマのことがわかってきて、オオカミの心もほぐれていきます。
一番最初のきっかけはハチミツを一緒に食べたことで、初めて2人とも笑顔になります。
中でも大きなきっかけは、崖から落ちそうになったところを助けてくれたこと。
ここでクマのことを面倒くさがっていたオオカミの心に、「ちょっとなら付き合ってみるか」という変化が起こります。
さらに、一緒に魚を捕まえる体験は、2人だからできること。
いつも1人でいるオオカミには、すごくキラキラとした体験だったことでしょう。
おそらくクマにとっても。
この、一つ一つの体験を積み重ねていく中で、オオカミの気持ちが変化しほぐれていくのも、この絵本の素敵なところです。
崖から助けてくれた当たりから、子どもたちも、



やっぱりいいクマだったんだよ!



優しいクマさんさんだったね!
と、一安心。
この気持ちの変化はまさにオオカミの心の変化と連動していて、この絵本への没入感に繋がっているようでした。
思わず笑ってしまう、クマが片手を隠していたわけ
そんな、仲良くなっていくオオカミとクマの体験で、決定的だったのが最後の場面。
オオカミがクマの隠し事を思い切って聞く場面です。
ここで明かされた秘密は、なんともかわいくおちゃめなもので、オオカミも子どもたちも大笑い。
クマも恥ずかしそうに笑います。
けれど、この一緒に笑う体験が、友だちになるうえでとても大切なことが伝わってきます。
気兼ねなく大笑いできる関係性。
一緒にいて楽しいという気持ち。
この明るい気持ちが思い切り描き出されているのが、この最後の場面なのです。
でも、この秘密を聞き出せたのには、
オオカミが「聞いても大丈夫」と思えるくらいクマを信用できたこと
クマが「言っても大丈夫」と思えるくらいオオカミを信用できたこと
この互いの信用があったからこそ、最後の場面に繋がったのでしょう。
この、色々な体験を通して少しずつ築いてきた互いの信用が、最後の場面で花開き、気兼ねのない大笑いというこれ以上ない爽やかな気持ちのよさを味あわせてくれるのも、この絵本のとてもとても素敵なところです。
これまでたくさんドキドキしてきたからこそ、この結末に突き抜けるような開放感と嬉しさを感じることができますよ。
二言まとめ
1人が好きなオオカミが恐ろしそうなクマに誘われるという、疑心暗鬼のドキドキ感に少しも目が離せない。
色々な体験をする中で、少しずつ友だちになっていく姿に嬉しさと心地よさを味わえる素敵な出会いの絵本です。
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