文:澤口たまみ 絵:あべ弘士 出版:福音館書店
ある日、ミツバチが花の蜜を吸いに行きました。
すると、草の間にカマキリが揺れています。
危ないことはわかっていても、カマキリが気になるミツバチ。
毎日様子を見ていると、カマキリが脱皮をはじめて・・・。
あらすじ
ある日、ミツバチが巣から初めて外に出て、野原の上を散歩していました。
すると、草花に紛れて、なにか揺れているものがあります。
ミツバチが気になって、揺れているものに近づこうとすると、クマバチおばさんが止めました。
その揺れているものはカマキリで、近づくと大変なことになると言うのです。
ミツバチが花の影に隠れよく見てみると、確かにカマキリは草のように揺れながら、目玉を動かしカマを磨いて獲物を待っているようです。
そこに、チョウチョがひらひらと飛んできました。
チョウチョは気づかずにカマキリの近くに飛んでいきます。
と、その時、カマキリはチョウチョを睨み、狙いを定めてカマを伸ばしました。
チョウチョは捕まってしまったのでした。
クマバチおばさんは、花の蜜を吸うときには周りに気をつけるよう、もう一度ミツバチに言い聞かせました。
次の日、ミツバチは蜜を吸いに野原へやってきました。
ちゃんと、蜜を吸う前にカマキリに気をつけます。
すると、カマキリは花の茎に逆さにとまっていました。
それに、少しも動きません。
ミツバチはカマキリが眠っているのだと思い、安心して蜜を吸いました。
また次の日、いつもより朝早くミツバチは野原に出かけました。
野原おりた露の雫を飲むためです。
野原では、カマキリが体に露の雫をつけ、昨日と同じかっこうでとまっていました。
少しも動かないカマキリをミツバチは不思議に思ったミツバチ。
つい近づいていったそのとたん、カマキリの体が震え、ついていた雫が落ちました。
ミツバチはビックリです。
そこへ、クマバチおばさんがやってきて、ミツバチを叱りました。
けれど、ミツバチは昨日からカマキリが変なのだと、クマバチおばさんに訴えます。
ちょうどその時、カマキリの背中の皮が裂け始めたではありませんか。
そして、背中から新しい背中が盛り上がり頭が出てきました。
驚いているミツバチに、クマバチおばさんが教えてくれました。
カマキリの体が大きくなり窮屈になったから、皮を脱いでいるのだと。
それからカマキリは、長い触角を引き出し、カマを抜き出し、足とお腹も皮から出すと、小さかった羽がふわっとふくらんできました。
体がすべて皮から出ると、カマキリは体の向きを変え、頭を上にして動かなくなりました。
すると、段々とクシャクシャで小さかった羽が伸びていき、長くて立派な羽に。
皮を脱いだばかりのカマキリの体は、淡い緑色をして透き通っており、このまま消えてしまうのではと、ミツバチは心配になってしまいました。
クマバチおばさんが向こうの野原に行ってしまったあとも、ミツバチはカマキリを見守り続けました。
すると、カマキリの体の色が少しずつ少しずつ・・・
脱皮したてのカマキリさんは、いったいどんな風になるのでしょう?

おしまい!
『カマキリさんどうしたの』の素敵なところ
- カマキリの不思議さに興味津々なミツバチ目線の物語
- カマキリが脱皮する神秘的な姿
- カマキリとミツバチの変わらない関係性
カマキリの不思議さに興味津々なミツバチ目線の物語
この絵本のとても特徴的なところは、カマキリの生態をミツバチの目線で観察するというところです。
巣から初めて出たミツバチは、カマキリを見るのも初めて。
危うく捕まりそうになりますが、クマバチおばさんのおかげで助かります。
クマバチおばさんにカマキリのことを教えてもらうと、ミツバチはカマキリにすっかり夢中。
とても怖い相手のはずなのに、その存在が気になって仕方ありません。
そして、このミツバチの目線というのが、まさに子どもの興味津々な目線そのものとなっているのです。
公園で見かけたカマキリの、目やカマが恐ろしくて触れないけど、気になってずっと追いかけてしまう。
そんな怖さと興味が入り混じった視点と、ミツバチの視点が重なります。
だからこそ、子どもたちもミツバチの中に入ったかのように、この物語を楽しんでいるのでしょう。

チョウチョさん危ない!



なんで動かないんだろう?死んじゃったのかな・・・
と、カマキリを観察する様子は、まさにミツバチとシンクロしていました。
この、ミツバチの目線でカマキリの生態を見ることで、ミツバチと子どもたちの目線と気持ちが重なり、カマキリへの興味と臨場感をより高めてくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。
カマキリが脱皮する神秘的な姿
そんな、恐ろしくも興味深いカマキリですが、一番の見所はカマキリの脱皮です。
逆さになったカマキリの背中が裂け、そこから少しずつ新しい体が現れます。
その脱皮する様子は、本当に目の前で脱皮しているかのように丁寧でリアル。
背中、頭、触角、カマ、足、お腹・・・と、少しずつ少しずつ時間をかけて出てきます。
そのカマキリがまるで生まれ変わるような姿は、まさに神秘的。
透き通った体の色や、広がっていく羽とあいまって、天使のような美しささえ感じさせてくれます。
皮から出てきたあとに、羽を広げるため体の向きを変えるなど、細かなところまで描き出されていて、カマキリの一挙手一投足に目を話すことができません。
そして、最終的にとても大きく強そうになったカマキリの姿に感動を覚えることでしょう。
子どもたちも、



うわっ!おっきい!



めっちゃ強そう!



かっこいいね!
と、その最初とは見違えた姿に大興奮。
草に紛れて揺れる姿は、最初の場面とは比べ物にならないくらい堂々としていて、なぜか自分のことのようにテンションがあがること間違いなしです。
この、丁寧に描き出された神秘的で美しいカマキリが脱皮する姿と、脱皮が終わり大きく強そうな姿の両方に目を奪われてしまうのも、この絵本のとても素敵で感動するところです。
カマキリとミツバチの変わらない関係性
さて、そんな脱皮を果たしたカマキリと、脱皮を見届けたミツバチ。
なんとも濃密な時間を過ごしましたが、カマキリとミツバチの関係性はまったく変わらないのも、この絵本の素敵なところ。
カマキリは捕食者で、ミツバチは捕食される者という、自然界の厳しい構図は変わりません。
しかも、あれだけカマキリに夢中だったミツバチも、脱皮が終わるとけっこうドライなところがおもしろい。
「さあ、私も花の蜜を飲みに行こうっと。カマキリさんのいないところにね。」
と、クマバチおばさんがいる花畑に飛んでいきます。
この自然界での関係性がまったく変わらないドライな結末が、この物語に強いリアリティを与えてくれます。
だからこそ、カマキリが恐ろしくも興味深い存在でいられるのでしょう。
この、最後までカマキリとミツバチの関係性が変わらないことで、カマキリの無情で強そうな捕食者ならではの魅力がより際立っているのも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
ミツバチの目線から、間近で見るカマキリの脱皮が、神秘的で美しく、力強い。
カマキリの恐ろしくも興味深い魅力を存分に見せつけてくれる、カマキリに近づいてはいけないことがよくわかる絵本です。
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