絵:もろかおり 文:武鹿悦子 構成:後路好章 出版:くもん出版
雨の中を色んな色のカッパを着た子どもたちが跳ね回ります。
「ぴっつんつん」と楽しい音を響かせながら。
水たまりに飛び込んで水しぶきを上げながら。
画面いっぱいの音と色に目も耳もとっても楽しい絵本です。
あらすじ
雨が降る中を、赤いカッパに赤い傘をさした子が「ぴっつんつん」と歩いてきます。
向こうからは、黄色いカッパに黄色い傘。
2人が嬉しそうに水たまりで遊んでいると、オレンジと水色の子もやってきました。
緑と紫の子も加わって、みんなで「じゃぶじゃぶ ばちゃばちゃ」水たまりで遊びます。
そのうちどんどん色が増え、雨の遊びは大人数に。
そんな中、黒いカッパと傘の子やってきました。
カラフルな子たちが、踊ったり傘を回したり、同じ遊びをする中で、黒い子だけはなんだか難しそうな顔をしています。
と、その時、黒い子がみんなを誘うと、嬉しそうにみんなついてきてくれました。
着いた場所はどろんこ広場。
「べちゃべちゃびちゃびちゃ」みんな夢中で遊ぶうち、体中泥まみれで真っ黒になりました。
これでは、誰がどの子かわかりません。
でも、みんなそっくりになったのが楽しくて、みんなで一緒に大笑い。
そこへ「ざあざあ ざんざか」降ってきた雨が・・・

おしまい!
『ぴっつんつん』の素敵なところ
- 心が弾み、一緒に言いたくなっちゃう「ぴっつんつん」
- 自分の好きな子がきっと見つかる全員違う色の子どもたち
- 絵を描いて遊んでいるような物語展開に自分も描きたくなってくる
心が弾み、一緒に言いたくなっちゃう「ぴっつんつん」
この絵本のとても楽しいところは、絵本全体に詰め込まれた「ぴっつんつん」という雨の音。
「ぴっつんつん」という音からは、ただ雨が降るだけでなく、雨が生き物のように踊り回っているように感じられるから楽しいのでしょう。
まるで、雨の日にたまに聞こえてくる「たん たたん たん たん」というような、リズミカルな雨音のように聞こえてきます。
しかも、この「ぴっつんつん」はバリエーションも豊富。
「つんつん ぴっつん ぴっつんつん」
「じゃぶじゃぶ ばちゃばちゃ ぴっつんつん」
「ぴっつん つつーん ぴっつんつん」
など、毎回違う「ぴっつんつん」を聞かせてくれます。
その心地よい音は歌を歌っているみたい。
リズミカルにテンポよく物語が進んでいきます。
しかも、音の雰囲気と絵や色の楽しさだけで十分完結しているので、言葉の意味がわからない小さな子でも感覚的に楽しめるのも素敵なところ。
音を聞いているだけで、好きな色を見つけるだけで、楽しそうな絵を見ているだけでとっても楽しいのです。
何回も読んでいるうち、子どもたちもいつの間にか「ぴっつんつん」を覚えていて、絵本を持ってくるだけで、

ぴっつんつん!
と嬉しそうに言うようになったり、読み手に合わせて、



つんつん!



ぴっつんつん♪
と一緒に言ってくれるのも、子どもと大人が一緒に心地よいリズムを共有できる、素敵なところですね。
さらに、この「ぴっつんつん」という音を深読みしてみるのもおもしろい。
この絵本では、雨が黒で描かれます。
その雨の黒と色が一緒な黒い子ども。
でも、黒い子がやってきた頃に、他の子どもは踊り始めているのです。
これまで「ぴっつん つつん ぴっつんつん」と水たまりで遊んでいた子が、
「たんたん たたん たん たたん」と「ぴっつんつん」じゃない遊びを始めます。
もしかしたら、雨の化身のような黒い子は、それが気に入らなかったのかも?
と、「ぴっつんつん」が決まり文句になっていることで、「ぴっつんつん」がない部分にも想像が膨らんだりします。
この、楽しさ、心地よさ、奥深さなどがすべて詰め込まれた「ぴっつんつん」という魅力的な雨の歌が、この絵本の聞いていても読んでいても楽しい、素敵なところです。
自分の好きな子がきっと見つかる全員違う色の子どもたち
この絵本の音と並ぶ特徴的なところが色です。
登場する子どもは同じ色のカッパと傘を身につけていて、子どもごとにその色が違います。
最初は、6人くらいだった子どもがどんどん増え、30人くらいになりますが誰一人として同じ色の子はいません。
ぱっと見は、青、赤、黄色、オレンジ、紫、緑なのですが、よく見るとそれぞれ色合いが違う別の色。
青なら紺色に近いものから水色まで、
紫なら黒に近いものから薄紫まで、
よーく見ると色の違いに気付きます。
始めは、



ぼくは青い子がいい!



私は可愛い赤の子!
と大きな枠で好きな色の子探しを楽しみます。
ですが、色の系統ごとに整列して踊りだす場面を見ると、色への認識が変化。



みんな色がちょっと違う!



この紫の子がいいな~
と並ぶことによって、色のグラデーションに気付かされるのです。
すると、より細かな好きな子探しが始まり、より詳しく自分の好きな色が見つかります。
もちろん、黒い子も魅力的。
黒いどろんこで、みんなが黒くなる場面からは、どんな色も塗りつぶせる黒ならではの美しさや力強さを味あわせてくれることでしょう。
絵本の中で降り続ける雨も、黒だからこそ他の色の鮮やかさが際立っていますしね。
コントラストの美しさも、黒の大きな魅力ということなのでしょう。
この、同じ色のように見えるけど実は違うグラデーションを見て、「自分の好きな色」をより詳しく見つけられるところもこの絵本のとてもおもしろいところです。
絵を描いて遊んでいるような物語展開に自分も描きたくなってくる
さて、こうしてたくさんの色の子たちが一緒に遊ぶ楽しい物語。
この色とりどりの楽しい物語を見ていると、自分も絵を描きたくなってくるのです。
きっと絵を描きたくなるのは、この絵本がまるで絵を描いて遊んでいるように見えるからなのでしょう。
点々と雨が降る様子は子どもが点々を描いたあと「あめ ざーざー」と名付けるようだし、
雨の中、色の子どもが現れる様子は、自分が名付けた雨から想像が広がっていく場面が頭に浮かび、
色の子どもが増えていく様子は「今度は、青にしよ~」と、色んな色を順番に使いたがっているみたい、
みんなが真っ黒になるところなんかは、自分が描いた絵を「まっくろー!」と楽しそうに塗りつぶす子どもの遊びのように見えてきます。
傘を回した時のぐるぐるも、子どものなぐり書きのようで見ている子たちは体がウズウズ。
実際に、手が動いてしまう子もいました。
この、子どもたちに親近感が湧く絵の描き方や広がり方が、子どもたちの感性を刺激して、自分も絵を描きたくなってくるうずうず感を味わえるのも、この絵本のとても素敵なところです。
ぜひ、見たあとは絵を描いてみてください。
クレヨンでもいいし、たくさんの色が揃った色鉛筆もオススメです。
絵本の中の子どもたちから、グラデーションのおもしろさに気付いた子どもたちは、いつもより色を見分ける目が鋭くなっているはず。
いつもは気付かなかった色が見つかるかもしれないし、いつも以上に想像の世界が広がるかもしれませんよ。
二言まとめ
「ぴっつんつん」という楽しい音と、カッパと傘のきれいな色のグラデーションで、見ても聞いてもとっても楽しい。
楽しい音を一緒に言いたくなってくる、好きな色を探したくなってくる、見ているだけじゃ終われない雨と音と色の絵本です。
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