作:バレリー・ゴルバチョフ 訳:那須田淳 出版:ノルドズッド・ジャパン
雨で外へ遊びにいけないウサギの兄弟たち。
つまらないから、空想で雨が降っていない場所へ遊びにいきます。
砂漠・山・ジャングル・南極・・・
でも、1番ウサギたちのテンションが上がるのは?
あらすじ
森の中に、ウサギのお母さんと、5匹の兄妹が住んでいました。
今日の天気は雨。
子ウサギたちは、外に遊びに行くことができずうんざりしていました。
お母さんに文句を言っても、お昼ごはん作りに忙しく相手にしてもらえません。
そこで、子ウサギのニッキーがいいことを思いつきました。
みんなで砂漠に行こうと言うのです。
砂漠なら、いつもお日様が照っていて雨が降りません。
みんな砂漠に行ったところを想像してみましたが、お母さんにはとても無理だと言われ、他の兄妹にも文句をつけられてしまいます。
砂漠に反対されたニッキーは、山に登ろうと提案してみます。
みんな山に登ったところを想像してみましたが、やっぱりお母さんにはとても無理だと言われ、他の兄妹にも文句をつけられてしまいます。
今度はジャングルに行こうと行ってみますが、やっぱり反対。
南極もダメでした。
それでもニッキーは諦めません。
宇宙に行こうと言ってみますが、お母さんに「宇宙にも行かない」と言われてしまいます。
けれど、今度はみんなから文句は出ませんでした。
なぜなら、雨がやみ、宇宙ではなく野原へ散歩に行けることになったから。
ウサギの一家は、大喜びで水しぶきをあげながら走り回って大はしゃぎ。
すると、お母さんが空を見るよう子どもたちに言いました。
見上げた空には、きれいで大きな虹がかかっています。
ニッキーは虹を見るとあることを言いました。
ニッキーの言葉を聞いたみんなは・・・

おしまい!
『あめのひだいすき』の素敵なところ
- いろいろな場所へ出かける楽しい空想の旅
- みんなから順番に文句をつけられるコミカルな繰り返し
- 繰り返しの流れを断ち切る嬉しい結末
いろいろな場所へ出かける楽しい空想の旅
この絵本のなにより楽しいところは、空想の世界でいろいろな場所へ出かけられるところです。
雨が降り、外に遊びにいけずフラストレーションがたまる子ウサギの兄妹。外に遊びにけない不満を解消するため、兄妹の1匹ニッキーが、いいことを思いつくのです。
このニッキーが思いついたことが、「楽しそうなところに出かければいい」という、なんとも子どもらしい素敵な発想。子どもにとっては身近な場所でも、はるか遠い場所でも関係ありません。砂漠や山、ジャングルなど行ったらおもしろそうな場所が次々と出てきます。
しかも、言葉にしただけじゃなく、家族で実際に行った場面を見せてくれるからイメージがさらに広がります。
砂漠でラクダに乗ったり、
険しい崖だらけの山を登ったり、
ジャングルの、ワニやサルがいる川をボートで下ったり、
外で雨が降っていると忘れてしまうくらい、ワクワクする空想の世界が色鮮やかに描き出されるのです。
空想の世界に出かけた時ニッキーが、
「砂漠は、いつもお日様が照っていて、黄色い砂がたくさんあるんだよ。あそこなら雨も降らないしね」
「山はとても高くて、青い崖があるんだよ」
と、その世界を説明してくれるのも、より空想の世界へ入り込むのに一役買っていて、目と耳の両方から空想の世界を広げてくれます。
空想の世界が絵本の中に広がるたび、

雨は降らないけど暑そうだよ・・・



崖から落ちそう、怖いー



ぼくはジャングルがいい!
と、子どもたちもウサギたちと一緒に空想の世界に入り込んでいました。
果ては地球から飛び出して宇宙まで行ってしまうのだから、子どもの想像力は広がりだしたら止まりません。すっかり雨のことなど忘れ、空想の世界に夢中です。
この、どんどん広がる空想の世界で、地球上から宇宙まで様々な場所を旅する楽しさを味わえるのが、この絵本のとても素敵でおもしろいところです。
みんなから順番に文句をつけられるコミカルな繰り返し
こうして、ニッキーの提案で様々な場所に出かけるのですが、全部文句をつけられて元の世界に引き戻されてしまいます。この文句をつけられる言葉と流れが、毎回同じ繰り返しになっているのもこの絵本のたまらなくおもしろいところとなっています。
空想のページが終わると、
- 家の中に場面は移り、お母さんに「あらあらとても無理よ」と言われる。
- お母さんの言葉に対し、ナタンは「いい考えだと思うけど」と加勢。
- 他の兄妹ノラ、ネリー、ネッドは「砂漠は暑すぎるわ」「そうよ、水だってないし」「それに、迷子になってしまうかも」と反対。
- みんなの意見を聞き、ネッキーが次の空想を考える。
という繰り返しで物語は進んでいきます。この繰り返しは最後の宇宙まで例外なく進み、反対する理由だけは変わるものの、お母さんの言葉やナタンの加勢、ネッドの「迷子になってしまうかも」はまったく変わらず進みます。
この繰り返しには子どもたちも、



またダメなの~?



文句ばっかり~
と呆れつつも楽しそう。文句のリズミカルさと、めげないニッキー、さり気なく加勢してくれるナタンの言葉が、否定的な雰囲気ではなく、コミカルな雰囲気を作り出しているからでしょう。文句を言われているのになんだか楽しいんですよね。
繰り返しのおかげで次の流れがわかることもあり、「やっぱりダメか~」というお約束なおもしろさや、「次はどこに行くんだろう?」というワクワク感も味わえます。
この、二ッキーの空想に対して文句を言われ、次の空想を考えるというコミカルな繰り返しも、この絵本の大きな魅力です。
繰り返しの流れを断ち切る嬉しい結末
さて、繰り返しで進んできたこの絵本ですが、最後は空想ではなく本当に出かけるという結末を迎えます。この本当に出かけられる時のサプライズ感や、出かけた後のやり取りが、繰り返しを踏まえたものになっているのも、この絵本のおもしろいところとなっています。
宇宙の空想が終わり、いつも通りお母さんに行かないと言われてしまいますが、これまでの「あら、あら、とても無理よ」ではありません。「いいえ、宇宙にも行かないわ」とやっぱり否定の言葉ですが、「これからみんなで、野原に散歩に行くんだから」と、まさかの言葉に続くのです。
これまでの繰り返しがあったからこそ、ものすごいサプライズになっていて、子ウサギたちだけじゃなく、



晴れた!やったー!



ほんとに出かけられる!
と子どもたちも、本当に雨が上がったかのように大喜び。すっかりウサギ一家の一員となっていました。
さらにおもしろいのが、出かけた後はまた繰り返しをなぞる形になっているところ。でも、今度は肯定的な言葉ばかり出てきます。ネッドも「それに、ここなら迷子にならないよ」と納得です。
中でも印象的なのは最後に出てくるニッキーの言葉。これまで色んな空想の世界に誘ってきたニッキーが、現実と空想の間にある素敵な場所に誘ってくれます。
ニッキーの言葉に対する、お母さんの反応もとても素敵で、「無理」を繰り返していたお母さんが、どれだけニッキーの豊かな想像力を大切にしていたか伝わってくるのです。
なんだか、散歩に出かけたお母さんの姿を見ていると、誰よりも外に出て思いきり遊びたかったのは、お母さんだったのかもと思えてくるんですよね。こんなに遊び心があるお母さんだからこそ、「無理よ」と言いながらもニッキーの空想をずっと聞いていてくれたのかもしれません。
この、ずっと続いてきた繰り返しがあるからこその、繰り返しと違うサプライズや、繰り返しと流れが同じなのに肯定的になっているという変化のおもしろさを感じられるのも、この絵本のとても素敵で楽しいところです。
二言まとめ
雨で外に行けない分、空想の世界で砂漠から宇宙までいろいろなところに出かける旅がおもしろい。
繰り返しの安心感とワクワク感、流れを崩す驚きまで、繰り返しのおもしろさを最大限に使い描かれた雨の日絵本です。
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