作:クロエ・サベージ 訳:よしいかずみ 出版:BL出版
モーリー博士は研究チームと北極へ旅立ちました。
幻の巨大クラゲを探すためです。
けれど、どれだけ探しても巨大クラゲは見つかりません。
あれ?でもよく見ると・・・
あらすじ
モーリー博士は、クラゲの研究をしています。
モーリー博士の目標は、噂に聞いた幻の巨大クラゲを見つけることです。
博士は優秀な研究チームと、巨大クラゲを探しに行く準備を進めていました。
そして、ついに船に乗り北極へと冒険に出たのです。
北極圏まで来ると、イッカクの群れが出迎えてくれました。
いよいよ北の海での調査が始まり、計測をしたり、氷の下に潜ったり、巨大クラゲを探します。
それから何日も過ぎましたが、巨大クラゲは見つかりません。
代わりにシロイルカが近づいてきて、チームみんなの心を弾ませてくれます。
凍えるような吹雪の日にも巨大クラゲを探し続けます。
吹雪の中でもシャチは元気に泳ぎ回っています。
それからまた、何日も何週間も過ぎましたが、やっぱり巨大クラゲは見つかりません。
けれど、チームのみんなは諦めません。
一生懸命、丁寧に探せば巨大クラゲが見つかるはずと信じているからです。
さらにそれから1ヶ月、一生懸命調査しましたが、どうしても巨大クラゲは見つかりません。
さすがの研究チームも、だんだんと家が恋しくなってきて、巨大クラゲは作り話なんじゃないかと思うことも出てきました。
そんなある日、ついに希望が見えました。
クジラにとってごちそうになる、藻がたくさん増えていたのです。
モーリーは博士はすぐさま海へ潜り、藻がたくさん漂う場所を調査し始めました。
果たして、今度こそ幻の巨大クラゲを見つけることはできるのでしょうか・・・。

おしまい!
『まぼろしの巨大クラゲをさがして』の素敵なところ
- 美しく描き出された神秘的な北極の自然に見とれてしまう
- 実はすぐ近くに巨大クラゲがいるのに気付いていないヤキモキ感
- みんなの期待を裏切る最後の場面のにくい演出
美しく描き出された神秘的な北極の自然に見とれてしまう
この絵本の大きな魅力は、美しく描き出された北極の自然です。
北極の海に広がる光景は、どれも過酷で美しく神秘的なものばかり。
イッカクやシロクマ、ペンギンが当たり前のように近くにいて、シロイルカやシャチも遊びにきます。魅力的な生き物が出てくるたび子どもたちは、

アザラシにツノ生えてるよ!



シロイルカかわいい~♪触ってみたい!
と大喜び。北極ならではの生き物にワクワクしているようでした。
けれど、氷に閉ざされた大地や、険しい氷山、深く暗い海は見た目に美しくても過酷そのもの。



きれいだけど寒そうだよ・・・



こんなところで暮らせるのかな・・・?
と、子どもたちも研究チームのことが心配になってしまいます。
このワクワク感と心配が混在するのは、北極に広がる雰囲気がリアルに再現されているからなのでしょう。手つかずの自然が持つ美しさと厳しさが、絵の端々から伝わってくるのです。だからこそ、新天地を冒険するワクワク感だけじゃなく、研究チームが抱える悩みもリアルに感じ取れるのだと思います。
自然の厳しさの中、突如現れる生き物たちのかわいい姿や、夜空に広がる神秘的なオーロラ、凍えるような吹雪に心が疲弊していく研究チームなど、北極の魅力も厳しさも包み隠さず描き出されているところが、この絵本のとても素敵で目が釘付けになってしまうところです。
見ていると、自分の心も研究チームの1員として北極に行ってしまいますよ。
実はすぐ近くに巨大クラゲがいるのに気付いていないヤキモキ感
北極の厳しい自然環境の中、幻の巨大クラゲを探す研究チームは巨大クラゲを見つけることができません。ですが、実は研究チームの船の周りに巨大クラゲはいつもいるというのが、この絵本のとてもおもしろいところです。
よく見ると、北極圏を越えイッカクの出迎えを受けた頃からこっそり影が見えています。本格的に調査を始める頃には、隠す気もないほどはっきり姿を見せていて、子どもたちはとっくに巨大クラゲを見つけているのです。
でも、もちろん研究チームは気付いていません。
研究チームがシロイルカと戯れている時には、氷山の裏から研究チームを見ているし、
研究チームがシャチを見ている時は、船の底でシャチたちを撫でていて、
モーリー博士が決意を新たにオーロラを見上げている時、すぐ近くの海の中で巨大クラゲもオーロラを見上げています。
この研究チームと巨大クラゲのすれ違いに子どもたちは、



そこ!巨大クラゲいるいる!



何回も会ってるよ!お願い、気付いて~
と、ヤキモキが止まりません。
ページをめくるたび、



そこそこ!
と、研究チームに教えますが、もちろん気付いてもらえず頭を抱えてしまいます。
この、研究チームと子どもたちの視点の違いも、この絵本のとてもおもしろいところとなっています。
研究チームと巨大クラゲの歯車が噛み合うことを祈りながらのページめくりには、期待と不安が入り交じることでしょう。そして、この期待と不安が最後の場面の嬉しさへ繋がっていくのです。
みんなの期待を裏切る最後の場面のにくい演出
北極に来てから月日が経ち、研究チームの心も折れ始めた頃、大きなチャンスが訪れます。クラゲの好物である藻が大量繁殖したのです。
研究チームの姿からこれが最後にして最大のチャンスだという意気込みが伝わってきます。絵本の流れ的にも、巨大クラゲに合うにはここしかないという子どもの意気込みも伝わってきます。絵本の中でも絵本の外でも、ついに歯車が噛み合うという期待感がマックスです。
子どもたちも、ここ一番とばかり



目の前にいるよ!反対側!のぞいてみて!
とモーリー博士への言葉に力が入ります。だって、最後のチャンスですから、ハッピーエンドのためにここを逃すわけにはいきません。
・・・が、この期待感マックスの場面で無情にも裏切ってくるのが、この絵本のすごいところ。モーリー博士は愕然とし、子どもたちは唖然とします。1番の盛り上がりどころで肩透かしを食らうのです。
けれど、どんなに期待を抱いても、都合よく行かないときもあるという展開は、なんともこの絵本らしさも感じます。どんなに頑張っても思い通りにならないというのは、北極の自然をリアルに描き出したこの絵本にピッタリだと感じるのです。
ただ、結末の裏切りが1回だけではないという子どもたちと研究チームへの優しさも、この絵本のとても素敵でにくいところとなっているんです。
ぜひ、モーリー博士と子どもたちの表情がピッタリ重なってしまう、最後のページを見てみてくださいね。裏切られた分、嬉しさが何倍にも感じられると思いますよ。
二言まとめ
すぐ側に巨大クラゲがいるのに気付いていない研究チームへのヤキモキ感がおもしろい。
北極に広がる自然の美しさ、過酷さ、不思議さ、おもしろさ、そのすべてがありのままに描き出された絵本です。
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