文:舟崎克彦 絵:二俣英五郎 出版:教育画劇
織姫と彦星の七夕伝説を描いた絵本。
織姫と彦星が働くなった理由や七夕に再会できるようにした理由が、なんとも人間味豊かに描かれます。
人間臭い織姫・彦星・天帝に感情移入してしまう七夕絵本です。
あらすじ
大昔の中国のお話です。
星の世界の王様である天帝に、織姫という娘がおりました。織姫は天帝の言いつけで、来る日も来る日もはたを織って暮らしていました。その働きぶりは、紙を結ったり化粧をする暇もありません。天帝はある日、見た目を気にする暇もなく仕事をする織姫をかわいそうに思い、お婿さんをもらってやることにしました。
天帝がお婿さんに選んだのは、天の川のほとりで牛飼いの若者でした。織姫と牛飼いは出会ってすぐに互いのことを好きになりました。
ところが2人は一緒に暮らすようになると、天帝のことなどすっかり気にしなくなりました。織姫ははたを織らずに着飾ってばかり。牛飼いは牛の世話をしないのでついには牛が病気になってしまいました。天帝はたまりかね2人をたしなめましたが、まったく聞く耳を持ちません。
ついに怒った天帝は、2人を無理やり引き離してしまいました。
引き離されたあと、織姫は部屋のこもって泣いてばかり。はたを織ることもなく天帝の服はどんどんみすぼらしくなっていきました。牛飼いも家にこもりきりで、面倒を見てもらえない牛は今にも死にそうです。
天帝は困り果てた結果、しっかりと働くことを条件に年に一度会えるようにすることを約束しました。すると、織姫と牛飼いは心を入れ替えせっせと働くように。天帝の服は立派に戻り、牛たちも元気を取り戻したのでした。
やがて、待ちに待った再開できる日が訪れました。しかし、天の川が邪魔をして2人は会うことができません。2人が困っていると、どこからか飛んできたカササギの群れ。なんと、カササギたちが連なって天の川に橋をかけてくれたではありませんか。
2人はこうして、年に1度7月7日にカササギの橋を渡り、互いの思いを確かめ合っているのです。

めでたしめでたし!
『たなばたものがたり』の素敵なところ
- 七夕伝説がとてもわかりやすく描かれている
- 人間味溢れる登場人物たちに感情移入してしまう
- 最後までハラハラさせてくれる見応えある物語
七夕伝説がとてもわかりやすく描かれている
この絵本は中国から伝わる織姫と彦星の七夕伝説について描かれた絵本です。七夕の由来を知るのにピッタリな絵本ということですね。
七夕伝説は天帝や機織り、牛飼いの仕事など子どもに馴染みのない言葉や仕事が出てくる物語。言葉を説明するために物語が止まりがちなのですが、この絵本では物語の中で自然に説明されているので、進行を邪魔せず自然と頭に入ってくるのがすごいところです。
天帝であれば「星の世界の王様」とズバリな説明
はた織りの仕事は「はたを織って世にも美しい服を作り続けています」と「服を作る仕事」なのがわかります。
こんな風に、「天帝ってなに?」「はた織りってなに?」と聞かなくても、物語がわかるようになっているのです。
言葉がすんなり理解できることで物語に入り込め、七夕がどういう由来を持つのか物語を思いきり楽しみながらわかるのがこの絵本のとても素敵なところです。
人間味溢れる登場人物たちに感情移入してしまう
この絵本の大きな特徴に、登場人物の人間臭さがあります。
多くの七夕伝説では織姫も牛飼いも昔話らしいわかりやすい人物として描かれがち。特に織姫と牛飼いが遊んで暮らすようになった場面では、会えなくすることによってすぐに心を入れ替えるものが多いでしょう。
しかし、この絵本は一味違います。天帝に会えなくされると、傷心のあまり仕事が手につかなくなり引きこもってしまうのです。なんと、人間らしいのでしょう。そりゃ、最愛の相手と突然引き裂かれたらすぐに心なんて入れ替えられません。
子どもたちも、まさかのより仕事をしなくなるという展開に、

ええ!?仕事しないじゃん!



牛さんかわいそう・・・
と、衝撃を受けていました。と、同時に、



会えないと寂しいもんね



ちゃんと天帝の話を聞いておけばよかったのに
と同情したり、反省を促したりと、七夕伝説では見たことのない反応をしていたのが印象的でした。
ここでおもしろいのが、天帝もまた人間臭いところなのです。怒りのあまり2人を引き離したものの前よりさらに仕事をしなくなるというまさかの自体。織姫が仕事をしないことで、自分の服がみすぼらしくなっていくという実害まで出てきます。
多くの七夕伝説では天帝が、2人を憐れんだり褒美として年に1度の逢瀬を認めますがこの絵本では真逆の理由。なんとか仕事をさせるための動機づけとして逢瀬を認めるのだから、なんとも威厳がありません。
けれど、恋するあまり仕事が手につかなくなったり、仕事をしてもらうために天帝という存在でありながら譲歩するなど、人間関係ってそう簡単にはうまくいかないよなぁと思わせられる人間臭さが、ものすごく感情移入させてくれるのです。
昔話や行事の由来はどうしても登場人物の人間味が薄くなりがちですが、この絵本では人間味溢れる人物描写で見事に行事の由来の持つ弱点を克服しています。
この、他の七夕伝説よりも濃厚な人間関係を描き出し、先が気になる物語のおもしろさを十二分に味わえるところもこの絵本のとてもユニークなところです。
表情が加わるとより人間臭さが倍増するので、ぜひ絵本を開いて見てみてください。
最後までハラハラさせてくれる見応えある物語
この絵本の見どころは年に1度会えるようになっても、まだ終わりません。7月7日になり天の川のほとりへ行ったものの天の川を渡ることができないというハプニングが待っています。この最後の場面までハラハラする見せ場を持ってくるのも、この絵本が物語としてとてもおもしろいところです。
天の川を渡れず困り果てる2人。子どもたちも、



船とかないの?



天帝が会わせてくれるんじゃないの?
と予想外の展開に困ります。その困った様子はまさに織姫と牛飼いのようで、見事に感情移入しているのがわかります。
ここで2人を助けてくれるのがカササギたち。連なって橋になってくれるのです。このピンチを助けてくれたカササギに子どもたちも大盛りあがり。



鳥さんが橋になった!



会えたよかった~
と嬉しそう。見事にハラハラドキドキさせられているようでした。
この、7月7日になったのにすんなり会うことができないという、最後までハラハラドキドキさせられる展開のおもしろさもこの絵本のとても素敵なところです。
この絵本を見ていると物語がおもしろすぎて、行事の由来がオマケなのではと思わせられる魅力がありますよ。
二言まとめ
七夕伝説の絵本とは思えないほど、人間味溢れる登場人物たちの言動に思いきり感情移入させられる。
とてもわかりやすく七夕の由来を伝えてくれつつ、物語としてのおもしろさを存分に味あわせてくれる七夕絵本です。
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