作:ルイス・ボルフガンク・ノイパー 絵:エッダ・ラインル 訳:かしわぎみつ 出版:佑学社
カラフルな世界が嫌いなネコがいました。
ネコが好きなのは色が少なくなる夜でした。
そんなある日、眼の前に色のないゾウが現れます。
ゾウに連れられ、色のない国へ行ったネコは・・・。
あらすじ
子ネコのリリが住む世界は色で溢れかえっていました。でも、リリは色がたくさんあるこの世界が気に入りません。リリが好きなのは夜でした。夜はなにもかもが青・茶色・黒になってしまうからです。
ある夜、いつものように家の屋根へ登り、色のない国へ行きたいとため息をついていた時のことです。突然目の前に色のないゾウが現れたではりませんか。ゾウは、リリに色のない世界に本当に行きたいのかたずねました。もちろん、行きたいと答えるリリ。リリの答えを聞いて、ゾウはそのまま待つよう伝えると、どこかへ行ってしまいました。
しばらくすると、ゾウは白い小さなインディアンを連れて戻ってきました。インディアンはリリが魔法の力を信じるのなら色のない国へ連れて行ってくれると言います。リリはすぐさまひれ伏して信じることを伝えました。
リリの返事を聞き、インディアンは信じて色のない国へ飛び込むのだと伝えると、思いきり色のない国へ飛び込みました。リリも飛び込むと自分の色を色の国へ残し、体の色がどんどん消えて真っ白になっていきます。
色のない国に着くと、インディアンが色のない国にいられるのは1日だけだと教えてくれました。気に入ればずっといてもいいことも。色のない国を見回すと、本当にすべてのもの色がありませんでした。
リリは白い野原で色のないシマウマに出会いました。シマウマは色の国に帰れることを涙を流し喜んでいます。リリは涙を流すシマウマを見て、なんだか色の国へ帰りたくなりました。すると、リリの家にある色とりどりのものが目に浮かんできます。
そして、きれいな色の暖炉のそばで丸くなって眠れると思うと嬉しくなったのでした。

おしまい!
『いろのないくにへいったねこ』の素敵なところ
- 色のない国へ行くという不思議な体験
- 色がない絵の不思議な感覚
- 身の回りにあふれる色がいつもより鮮やかに見えてくる
色のない国へ行くという不思議な体験
この絵本のなによりおもしろいところは、色のない国へ行くという世にも奇妙な体験です。
普通は色があったほうがいいと思うものですが、リリは反対に色が好きではありません。色の少なくなる夜のほうが好きだという変わったネコです。そんな色が嫌いなリリの言葉に子どもたちも、

え~、色があったほうがきれいじゃん!



色がなかったらつまんないよ!
と、反論していました。そもそも色のない世界というのが想像もつきません。
しかし、色のないゾウが現れたから大変です。鉛筆で描かれたデッサン画のような色がない線だけのゾウ。ここまでの絵とはまったく違う異質なゾウの姿に、リリはもちろん子どもたちも驚きます。同時に色のない国がどういうものかという実感も。



変なの~



なんか消えちゃいそうだよ
と言いながらも興味津々の子どもたち。俄然、色のない国への興味が湧いてきます。
さらに色のないインディアンも登場し、いよいよ色のない国へと出発します。この色のない国へ行く場面での、リリの色が消えていく場面は必見。元々色のないゾウやインディアンと違い、色のあるリリから色がなくなっていくというのはかなり衝撃的です。



半分だけ色がなくなっちゃった!



なんか違うネコみたい!
とリリの変化に子どもたちも大盛り上がり。まさにびっくり仰天していました。
色のない国はとても奇妙な国で、これまでの描き込まれた世界とは違い、色はもちろん背景もありません。なんなら輪郭線すらかすれていて、すぐにでも消えてしまいそうな儚さすら感じます。なんとも味気ない光景に、リリとともに色の国が恋しくなってしまいます。
この、色がないという想像もできない世界を、実際に色のない国へ行き奇妙な感覚を味わうという、世にも奇妙な体験をできるのが、この絵本のとてもユニークなところです。
やっぱり、色があったものから色が消えていく様子は衝撃的ですね。
色がない絵の不思議な感覚
色のない世界という不思議な感覚を味わえるこの絵本。その色がない不思議さやおもしろさをより実感できるよう、様々な工夫がされています。
色のない国のおもしろさを感じさせる工夫の中でも1番印象的なものが対比です。
色がある普通の絵本だったのが、ページをめくった途端見開きで背景がなくなりデッサン画のゾウが出てくる
左ページに背景なしのゾウとインディアン、右のページに背景もありしっかり色付けされされたリリ
というように、色のある・なしによる対比がうまく使われていて、色のない国の色のなさが際立って見えるのです。
特におもしろいのが色の国と色のない国の境目が描かれる場面。左ページが色の国、右ページが白紙の色のない国になっており、見開きの中心が境界線です。
インディアンは境界線上に姿が描かれ、色のない国へ境界線を飛び越える
リリは左ページに下半身、右ページに上半身と、境界線を越えるに連れて色が消えデッサン画になっていく
色のないものと色があるもの、それぞれの色のない国に飛び込む変化がよく表現されていておもしろいのです。
リリなんか、デッサン画になることで顔パーツの輪郭や毛並みがくっきり描かれていることもあり、まるで違うネコみたいに見えてきます。色を消すことで普段は色の下に隠れている下絵が見えるというのも、遊び心のある工夫ですね。
この、ページめくりや左右のページの使い方で色の国と色のない国の対比を見せて、2つの国の違いをよりおもしろく際立たせているのも、この絵本のとても素敵で楽しいところです。
身の回りにあふれる色がいつもより鮮やかに見えてくる
色のない国の味気なさを味わい、やっぱり色があった方がいいと思うリリ。このリリの気持ちと子どもたちの気持ちがシンクロするのも、この絵本のおもしろいところです。
実際に色のない国を見てみると、色があるだけでどれだけ世界が美しく魅力的なものになっているかを実感します。すると、絵本の中だけでなく、自分の世界にある色へも自然と興味や目線が向いてきます。これまで当たり前に見ていたものに対しても、



このブロックに色がなかったら消防車作れないね



クレヨンの色がなかったらお絵描き楽しくないよ
と、色がなかった時のことを思わず想像してしまうのです。
もし、「色がなかったとしたら」という前提があるだけで、身の回りの色がいつもより鮮やかにカラフルに見えてくるからおもしろい。自分の周囲をじっくりと観察したり深く考えるきっかけになってくれます。
この、色のない国を体験することにより、色のある世界がより鮮明に見えるようになるのも、この絵本のとてもおもしろいところです。
見終わった後に、鉛筆で色のないお絵描きをしてみてもおもしろいかもしれませんね。色がないことで見分けることや掻き分けることが難しくなること、色がないからこその工夫など、いつものお絵描きとは違う気付きへ繋がることでしょう。
二言まとめ
色のない国へ飛び込むことで、ネコから色が失われるという場面が衝撃的で印象深い。
色のない国の味気なさを体験することで、色があるありがたさを実感できる色の絵本です。
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