作:ますだゆうこ 絵:たちもとみちこ 出版:文溪堂
タヌキくんは、短冊に「友だちが欲しい」と願い事を書きました。
しかし、強風で短冊が飛ばされてしまいます。
飛んでいった短冊は、隣のキツネ村に住むキコちゃんの元へ。
友だちの欲しかったキコちゃんは、短冊を読むとタヌキに化けタヌキ村へ出発したのでした。
あらすじ
七夕の日、タヌキ村に住むタヌキのポコくんは、短冊に願い事を書いていました。
タヌキ村にはポコくんと同じくらいの歳の子がいません。そこで一緒に遊べる友だちができるよう短冊に願い事を書きました。
ところが、突然の風でポコくんの短冊は空高く飛ばされてしまいます。飛んでいった短冊は山向こうのキツネ村へ。キツネ村に済むキツネのキコちゃんのおでこへくっつきました。
キコちゃんは短冊を読むと考えました。キコちゃんのうちには赤ちゃんが生まれたばかりで、お母さんがちっともキコちゃんのことをかまってくれなかいのです。キコちゃんも一緒に遊べる友だちがちょうどほしいと思っていました。
そこでキコちゃんは、タヌキ村へ行ってみることに。キツネでは友だちになってくれないかもしれないので、キコちゃんはタヌキに化けて、タヌキ村へ向かいました。
タヌキ村とキツネ村の間には大きな川があり橋もかかっていません。キコちゃんは石をぴょんぴょん飛び越え渡っていましたが、途中で足をすべらせてしまいました。
あわや川に落ちようかというところで、助けてくれたのは飛んできたカササギ。キコちゃんが事情を話すと、カササギは仲間を呼んでカササギの橋を作ってくれたのでした。
カササギの橋をわたり無事タヌキ村へ到着したキコちゃんは、さっそくポコくんの家を訪ねました。ポコくんの家では流しそうめんの真っ最中。キコちゃんはすぐにポコくんと仲良くなり、一緒に流しそうめんを食べおしゃべりしたのでした。
ところが、時間を忘れて遊んでいたら、辺りはすっかり夜になり、空には星がきらめいています。こんなに暗くなってはキツネ村に帰れません。キコちゃんはポコくんに自分がキツネでキツネ村からきたことを話すと、泣き出してしまいました。
キコちゃんの話を聞いたポコくんやタヌキ村のみんなは大喜び。キツネのキコちゃんを大歓迎してくれ、ポコくんのお母さんも今夜は泊まっていくよう言ってくれました。
でも、キコちゃんはお母さんが心配するかもと不安です。すると、またカササギが現れて事情をキコちゃんのお母さんに伝えてくれるというではありませんか。
こうしてポコくんとキコちゃんのおかげで、タヌキ村とキツネ村は仲良くなり、川にも橋がかけられました。橋の名前はカササギ橋。
2人は橋を渡っていつも楽しく遊んでいます。

おしまい!
『たなばたウキウキねがいごとの日!』の素敵なところ
- まるで織姫と彦星のようなキコちゃんとポコくんの出会い
- 物語絵本としても行事絵本としてもおもしろい物語
- 1冊で由来から七夕のお楽しみまでわかっちゃう
まるで織姫と彦星のようなキコちゃんとポコくんの出会い
この絵本のとてもおもしろいところ織姫と彦星がオマージュされた、キコちゃんとポコくんの出会いです。
キコちゃんとポコくんの出会いという物語自体はとても王道ものなのですが、随所に織姫と彦星がオマージュされているのが七夕絵本として、この絵本をとてもおもしろいものにしてくれています。
七夕の日に2人が会うこと
川を越えて会いに行くこと
カササギが橋になって助けてくれること
など、まさにやっていることが織姫なキコちゃん。川を渡るところがオマージュだと気付いた子は、

天の川を渡ってるみたい!
と思わず感動していました。はっきり説明しないオマージュだからこその発見するおもしろさと言えますね。
カササギが橋になってくれる場面なども、七夕について知っている子が見たらかなりオマージュとしておもしろいなど、七夕のことを知れば知るほどより深くこの絵本を楽しめるというのがなんともにくい作りです。
この、キコちゃんとポコくんがまるで織姫と彦星に見えてくる七夕のオマージュ盛り沢山な出会いの物語が、この絵本のとても素敵でおもしろいところです。
物語絵本としても行事絵本としてもおもしろい物語
キコちゃんとポコくんを織姫と彦星に見立てた出会いの物語ですが、物語絵本としてのおもしろさと行事絵本としてのおもしろさのバランスが非常にいいのも、この絵本のすごいところとなっています。
まず、この絵本の物語は七夕要素がなくてもとてもおもしろいよく出来たものとなっています。
最初のポコくんとキコちゃんの動機付けからしっかりしていて、ポコくんは同年代の友だちが村にいない、キコちゃんは赤ちゃんが生まれお母さんが構ってくれないと、どうしても友だちを作りたい理由があります。理由があるから短冊も書くし、川を渡ってでも会いに行きたいのです。
しっかりとバックボーンがあるからこそポコくんとキコちゃんに感情移入できるのでしょう。



危ないよ~大丈夫かな・・・



鳥さんが助けてくれた!よかったー!



ポコくんに会えたよ!
と、キコちゃんがタヌキ村へ向かう姿を見て、心配したり応援したり喜んだりと大忙しの子どもたちでした。
出会ったあとの展開もおもしろく、キコちゃんが帰れなくなったり、キツネの変化が解けてしまったりと目が離せない展開が続きます。
そんな目が離せない展開の中で、特に印象的だったのが最後の場面。川に橋がかけられキツネ村とタヌキ村の交流が始まるという、その後の様子まで描かれて終わるという大満足の終わり方。キコちゃんとポコくんだけじゃなく世界がいい方向に進んで終わるというなんともスッキリしたものになっているのです。
これだけ完成した物語に、七夕の要素を絡めているのだから行事絵本としておもしろくならないはずがありません。短冊に願いを描くこと、天の川を渡る大変さ、カササギの助け、会いたい人に会える嬉しさなど、七夕にやることや込められた思いが、物語を通して直感的にわかるようになっています。
物語を見終わった後、



天の川にもずっと橋がかかってたらいいのにね
という、子どもの言葉がとても印象的でした。
この、とても完成度が高い物語の中で七夕に込められた思いを体験することで、短冊や織姫・彦星、天の川など、七夕という行事が身近に感じられるようになるところも、この絵本のとても素敵なところです。
1冊で由来から七夕のお楽しみまでわかっちゃう
物語の中や物語が終わった後、七夕図鑑のようなページが用意されているのも、この絵本の嬉しいところです。
- 七夕伝説
- 織姫星のベガや彦星のアルタイルという実在の星と星座にまつわる話
- 七夕の由来
という行事絵本として基本的な部分だけでなく、
- 折り紙で作る織姫彦星
- 笹に飾る折り紙の七夕飾り
という制作。さらには、
- 七夕そうめん
- 短冊サラダ
- 七夕デザート
という楽しい行事メニューまで載っているのです。
七夕について詳しくなった伝えられるようになるだけでなく、七夕の日を思い切り楽しむ工夫までわかってしまう、まさにこの絵本1冊で七夕にやりたいことが網羅されている絵本と言えます。七夕のことがすべてわかる上に、読み聞かせの物語としておもしろいのだからお得すぎますね。
この、行事の由来などだけでなく、遊びや料理まで七夕のことがまるっと1冊でわかってしまう図鑑まで載っているところも、この絵本のとても素敵で役に立つお得なところです。
小さい子にももちろんわかりやすくていいですが、大きい子の絵本を見ながら自分で作ってみる説明書としてもオススメですよ。
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