作:やぎたみこ 出版:文溪堂
有名な妖怪の筆頭である天狗。
でも実は、鳥ならばみんな天狗になれることを知っていますか?
これはそんな、天狗を目指す鳥たちが通う学校のお話です。
あらすじ
ある日、天狗山のカラス天狗が、危ないところを町の人に助けられました。
そのカラス天狗が、町の人に恩返しをしたいと山の鳥たちに相談すると、鳥たちが天狗になって人助けをすることに決まりました。
そこで立派な天狗を育てるための学校が出来たのでした。
さて、人間の姉弟、ゆいちゃんとたっちゃんの家には、テンちゃんという言葉をしゃべれる利口なインコがいました。
いつものようにテンちゃんに言葉を教えて遊んでいると・・・。
天狗のような恰好をした変な鳥が窓から入ってきました。
その鳥は天狗山のカケス天狗だと言うのです。
カケス天狗はテンちゃんがしゃべるのを聞いて、天狗の学校に誘いに来たのでした。
ゆいちゃんとたっちゃんは大喜びで、テンちゃんを天狗にしてもらうよう頼みました。
テンちゃんは天狗の学校の、カケス組の生徒になって、毎朝天狗山に通うようになりました。
学校で勉強し、家ではゆいちゃんとたっちゃんに手伝ってもらい、しゃべる練習や、力をつける練習をしていきました。
そして、少したくましくなったテンちゃん。
いよいよ人助けの練習が始まりました。
飛んだ洗濯物をつかまえたり、ケンカを止めたり、重い荷物を運んだり、他の天狗たちと一緒に町の人の人助けをしていきます。
しかし、ある嵐の日、夕方になってもテンちゃんが家に帰ってきませんでした。
夜になって、カケス先生と保健室の鶴先生が、ケガをしたテンちゃんを家に送り届けに来ました。
雨の中、電柱にぶつかってしまったのです。
ゆいちゃんとたっちゃんは、テンちゃんを天狗にしたことを後悔しました。
さて、次の朝。
テンちゃんが目を覚ますと、カケス組のみんながお見舞いに来てくれました。
さらにタカ組やハト組など天狗の学校のみんなが次々にお見舞いに来てくれたのです。
賑やかなお見舞いが終わり、鳥たちも帰っていきました。
お父さんは新聞を広げ、子どもたちはテレビをつけます。
すると、そこには・・・。
『てんぐのがっこう』の素敵なところ
- 天狗の新しい解釈
- 小さな体で頑張るテンちゃんの姿
- 天狗になっても動きがしっかり鳥
天狗と言えば、鼻が長かったり、人型の妖怪のイメージが強いですが、この絵本にはそんな要素は全く出てきません。
鳥たちが知恵の帽子と、力の衣を身に着けて、知能や筋力を鍛えることで人助けをするのです。
妖力も神通力も出てこない。
鳥が鳥としての力を最大限に発揮して、人助けをするのです。
でも、そこにはなぜかしっかりとした天狗らしさを感じます。
天狗から「妖怪」という要素を抜いているのに、天狗の絵本としてしっかりまとまっているのです。
そんな立派な天狗になるために、テンちゃんは天狗の修行を頑張ります。
その体の小さいこと。
他の鳥たちに比べても、かなり小柄なテンちゃんですが、家で宿題をする姿はとても一生懸命で応援したくなります。
子どもたちからも「テンちゃん頑張ってるね!」「えらいね!」という言葉が出ます。
人助けをする時も、他の鳥たちと協力して精一杯頑張ります。
そして、その努力は大きな人助けへと繋がっていくのです。
そのかわいらしくも、力強い姿に、自分も頑張ろうと思えるのです。
さて、そんな天狗の学校の鳥たちですが、天狗の格好をして、たくさん人助けをする中でも、人間らしくなったりはしません。
鳥らしさを貫いていくのも、この絵本ならではの魅力だと思います。
人間の言葉がしゃべれる鳥は、インコやオウム、カケスなど現実世界でもしゃべれる鳥に限られます。
そのあたりは修行ではどうにもならない様子。
ペンギン天狗はもちろん飛べないので、ペリカン天狗の袋に入ってお見舞いに来ます。
飛び方、荷物の持ち方、コップの淵へのとまりかたもまさしく鳥。
あくまで、鳥の人助けで、鳥としての力を最大限に活かして人助けをするという信念が感じられるのです。
もしかしたら、その信念により、妖怪の天狗に寄せ過ぎなかったことで、この絵本の中での天狗の概念がしっかり独立したものになっていて、自然に感じれるのかもしれません。
天狗を題材にしつつも、これまでの天狗の絵本とは全く違う。
かわいらしく、たくましく、鳥らしい天狗たちの絵本です。
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