作:シゲリカツヒコ 出版:KADOKAWA
跳べると楽しくて、何回でも跳んでしまう縄跳び。
しかし、跳べるようになるまではとっても大変。
そんな苦労を真剣に、面白く、楽しく、壮大なスケールで描いたお話です。
あらすじ
縄跳びが苦手なケンタは、校庭で大縄の練習をしていました。
クラス対抗大縄跳び大会が近いのでみんなで練習しているのです。
ケンタはすぐに縄に引っかかるので、リーダーのツヨシに怒られてばかりでした。
ツヨシは放課後も練習すると言っていましたが、ケンタはさぼるため、チャイムが鳴ると同時に駆け出しました。
走っていたケンタは公園横の曲がり角で、自転車とぶつかりそうになりました。
自転車に乗っていたのは、不思議な仮面を被った二人の男。
その一人がけがをしてしまったようでした。
男はケンタに「縄跳びは出来るか?」と聞きました。
ケンタは「回すだけなら」と答えます。
それを聞くと、オレンジ色の縄の先をケンタに握らせ、そのまま引っ張っていってしまいました。
着いたところはお年寄りがたくさんいる公園でした。
男はお年寄りに向かって縄を回し始めます。
すると、信じられないことに腰の曲がったお年寄りたちが軽やかにジャンプしたではありませんか。
男が言うには、この縄は絶対に引っかからない縄なのだそうです。
次に向かったのは広い畑でした。
農家の人がみんなで大きなカブを引っ張りますが中々抜けません。
そこで縄跳びを回してみると・・・。
大きなカブが抜けました。
他の野菜も一緒に抜けました。
農家の人は収穫の手間が省けて大喜びです。
さらに着いたのは、渋滞中の高速道路。
トラックの故障で、車が詰まってしまっています。
そこで縄を回すと、トラックがジャンプ。
ジャンプしたタイミングに合わせて、トラックの下を車が通っていきました。
その後も、色々なところで縄を回していきますが、誰も引っ掛かりません。
そして、最後に辿り着いたのは、クラスのみんなが大縄を練習している公園でした。
男は「もうタイミングはわかるな」とケンタを促します。
ケンタは大縄を跳べるようになっているのでしょうか。
『なわとびょ~ん』の素敵なところ
- 「せーのっ」「はっ!」という跳ぶときの掛け声と予想外の絵
- 写実的な絵とコミカルな出来事のギャップ
- ケンタの努力が実を結ぶ
この絵本の大きな魅力の一つが、不思議な縄を回した時に起こる予想外のジャンプでしょう。
「せーのっ」の掛け声とともに勢いよくページをめくると、「はっ!」とダイナミックにジャンプ!
公園をうろうろしていた腰の曲がったお年寄りたちが、綺麗に一列に並び、見事なフォームでジャンプ!
大きなカブは宇宙船かと思う勢いで、土から出てジャンプ!おまけに顔までついていて、気持ちよさそうなことこの上なし!
トラックはその重量を感じさせない浮遊感で、まるで無重力にいるような不思議な感覚。
などなど、「せーのっ」の後、ジャンプするのはわかっていても、その跳び方が真剣なのに予想外過ぎて面白いのです。
見ている子どもたちも、跳ぶタイミングがわかってくると、
「はっ!」と一緒に声を上げ、その後に笑い転げたり、驚いたりと大忙し。
この展開をさらに面白くしているのが、写実的な絵にあると思います。
どう考えても真面目な展開になりそうな、本物そっくりの絵。
もちろん、絵本の中の人々は真面目なのです。
急に縄が来るので、必死に跳んでいるのです。
そりゃ、表情も真面目で真剣になります。
でも、だからこそ見ている方は面白いのだから不思議なもの。
真剣で必死感でスケールも壮大!
しかし、跳んでいるのは縄跳びという、シュールなギャップがたまりません。
だけど、この物語はただ面白いだけでは終わりません。
縄を回すことを通して、ケンタの成長をしっかりと描き出しているのです。
特にケンタとツヨシが一騎打ちになる場面でそれは現れます。
その決着には、これまでのケンタの努力と経験がしっかり形となって描かれるのです。
その描かれ方がまた、予想外で面白くも、きちんとケンタの力として描かれているのもとても素敵だと思う所。
予想外でシュールな展開の連続に笑いが絶えないこの絵本。
ですが、その中に努力の大切さがしっかり込められた、自分も跳びたくなる一冊です。
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