作・絵:レベッカ・コッブ 訳:長友恵子 出版:フレーベル館
庭に空いている小さな穴。
そこには何が住んでいるのだろう。
みんなはカエルとか、トロールとかドラゴンだとか言うけれど・・・。
本当は誰の穴?
あらすじ
庭の桜の木の側に、小さな穴を見つけた。
男の子が犬とボール遊びをしていた時に、ボールがその穴に入ってしまった。
穴の中を覗き込んでも何も見えない。
穴に手を入れても男の子の手では届かなかったので、ママに手伝ってもらった。
だけど、ママの手も届かなかった。
ママは「ネズミの家に繋がっているかもね」と言った。
でも、パパは「中にはカエルがいっぱいいるかもしれない」と言う。
お姉ちゃんは「トロールが住んでいて、食べ物をもっていかないと食べられちゃうよ」と言っていた。
友だちに穴を見せたら、みんな違うことを言っている。
リス、ヘビ、ハリネズミ・・・。
だけど、一番の友だちはドラゴンの住処だと言う。
その子の家の庭でドラゴンを飼っているからわかるんだそうだ。
おじいちゃんとおばあちゃんにドラゴンの話をしても信じてくれなかった。
おばあちゃんは「モグラかもしれない」。
おじいちゃんは「アナグマだろう」と言っていた。
男の子の犬はいつも穴を見張っている。
誰が住んでいるのか知っているのかもしれない。
男の子はずっと穴の中から誰かが出てくるのを待っている。
一体誰が住んでいるのだろう?
『あなのなかには・・・』の素敵なところ
- 穴の中への夢と空想が広がっていく
- 落としたボールで遊ぶ穴の中のかわいい生き物たち
- 相手のことをゆっくり待つ、ゆったりとした優しさ
庭に空いた謎の穴。
謎だからこそ、何が住んでいるか気になるし、想像力も膨らみます。
その穴の大きさに合った現実的な予想から、段々とスケールが大きくなり、トロールに果てはドラゴンまで想像の翼は広がっていきます。
それに伴い、子どもたちの想像力の翼も広がっていくのが素敵なところ。
「もしかしたら、恐竜が住んでいるかもしれないよ!」
「でも、大きすぎたら出てこれないかも」
など、色々な意見が出てきます。
さて、絵本の中ではそんな生き物たちが穴の中で暮らしている一コマも描かれます。
そこには落としたボールがちゃんとあるのもおもしろいところです。
ネズミの家では転がってきたボールで家具が壊れている。
カエルの家では大勢のカエルがボールを追って遊んでいる。
トロールはフォークにさして食べようとしている。
ドラゴンは宝と一緒に大切に守っている。
というように、ちゃんとボールを使っているのです。
そして、その姿がとってもかわいい。
この生き物たちのかわいさや愛くるしさは、この絵本の大きな魅力の一つです。
そんな色々な想像が膨らむ男の子ですが、穴を掘り返したり、無理やり調べようとしたりはしません。
男の子がすることは、犬と一緒にただ待つこと。
自分の家の庭を選んでくれたことに感謝しながら、いつか出会える日を夢見てゆっくりと待つのです。
そこにはゆったりとした優しさが広がっています。
この優しさは絵本全体に広がっていて、この絵本ならではの空気感を作り出しています。
あるがままに想像し、あるがままに受け入れる。
そんな空気感。
それがこの絵本の一番魅力的なところなのかもしれません。
たった一つの小さな穴を通して、想像力が無限に広がっていく。
楽しく、かわいく、優しさに満ちた絵本です。
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