著:ユヴァル・ノア・ハラリ 訳:柴田裕之 出版:河出書房新社
人類はこれまでに戦争・飢饉・疫病という、史上で猛威を振るった脅威を克服した。
そして、この先何を求め、何を成そうとするのだろう?
著者ユヴァル・ノア・ハラリは予測する。
「人類は神になろうとするのではないか」と。
本書は前作『サピエンス全史』で見てきた現代までの歴史から、未来に目を向け、サピエンスがどんな未来を歩んでいくかを予想する。
もちろん、そこにはユヴァル・ノア・ハラリ特有の、歴史を元にした上での現実味ある理由付けと、人を惹きつけて離さない語り口は健在である。
- 『サピエンス全史』が面白かった人
- 歴史が好きな人
- シンギュラリティやAIに興味や不安のある人
- 新しい視点を取り入れたい人
こんな人はぜひ手に取ってみてもらいたいと思う。
『ホモ・デウス』のすご過ぎるところ
本書ではSFの世界かのような未来予測がなされます。
脳や肉体のアップグレード、全てのモノを繋いだインターネットなど、まるで小説のような内容が出てきます。
しかし、これを夢物語で終わらせないのが著者ユヴァル・ノア・ハラリのすご過ぎるところなのです。
すごくないところが全くないので、語りきることは出来ませんが、その中でもすご過ぎると思ったポイントに絞って紹介し、本書の魅力を少しでも伝えていけたらと思います。
そのポイントとは、
- 歴史に基づいた精緻で現実的過ぎる未来予測
- テクノロジーへの「意識」という武器
- 未来を変えるための可能性
の三つです。
では、詳しく見ていきましょう。
歴史に基づいた精緻で現実的過ぎる未来予測
まずは本書の根幹となる未来予測についてです。
大まかに言うと、
人間の知能はよりデータ化、AI化されていく。
同時に、裕福な層は自分の肉体そのものをアップグレードし、非死を手に入れるなど動物としての人間を捨て、神に近づいていく。
それは生物工学、サイボーグ工学、非有機的生命工学の発達により可能になり、生命をデザインするという神の技を手に入れることを意味する。
というものです。
これだけを聞くと、物凄く突飛で信じがたい話でしょう。
しかし、本書で示される過去~現在の歴史から示される根拠を見ると、それは現実味を帯びてきます。
例えば、疫病と医学です。
過去、医学の研究により、コレラなど多くの疫病を根絶・克服してきました。
現在では健康維持や健康増進という、「病気の人」ではなく「健康な人」への医療が発展してきています。
では、その結果全員のベースが健康になったら、医療はなにを目指し始めるのでしょうか。
歴史的な人類の思考パターンから考えると、「よりよい肉体」を求めることになりそうなのです。
衰えたパーツを交換し寿命を延ばす。
そもそも老化しないようにする。
そうして、遺伝子の操作などをしていくと、老いでは死なない非死へとアップグレードされることも夢ではなさそうなのです。
現在ですら、遺伝子操作などは実用的な技術となっています。
遺伝子の解析も進んでいます。
今の技術から見ても、これは夢物語ではないのです。
どうでしょうか?
この例はかなりざっくりと説明したものですが、この説明ですら非死というものが現実味を帯びて聞こえたのではないでしょうか。
本書で述べられる未来予測はこのように、これまでの歴史・現在の技術という土台をもとに考察されています。
そこで出てくる具体例は、どれも説得力のあるものばかりです。
きっと、どんな未来予測の本よりも身近なこととして感じられるのではないでしょうか。
テクノロジーへの「意識」という武器
これだけ理路整然と未来を予測されてしまうと、現実味があり過ぎて不安にもなります。
それもそのはずです。
知能はデータ化、AI化され、それに従った方が効率よく平和に進む。
アップグレードされた一握りの人類と、AIだけで世界が機能するようになってしまう。
など、テクノロジーに多くの人間が従い、飲み込まれる未来が根拠立てて示されてしまうのですから。
では、「そこに希望はないのか?」というと、そうではありません。
本書でそのキーワードを握っているのは「意識」です。
実はこれだけ人体のアルゴリズム解析が進む中、「意識」がどこから来て、どのように発生しているのかなどは、まだまだ謎だらけのブラックボックスなのです。
そして、この「意識」というものが非常に重要なものなのだと著者は言います。
なぜなら、科学は人間がどう行動するかを選べないからです。
科学は強力な武器ですが、それを戦争に使うのか、平和のために使うのかなど、どう使うかを決めるのは人間の側なのです。
そして、その決定に大きく関わってくるのは「意識」です。
「意識」があるからこそ、AIとは違い、人間を完全にデータ化することも出来ません。
それは、人間がデータ化されてしまったり、テクノロジーに飲み込まれてしまわないようにする、最後の砦であり、人間ならではの武器なのです。
同時に、それは「意識」という武器をしっかり握っていないと、簡単にテクノロジーの波に飲み込まれ、データの一部へと組み込まれてしまうことも意味しています。
本書ではそんな「意識」という光り輝く武器があることに、気付かせてくれるのです。
未来を変えるための可能性
本書では「人類がこれまでとは全く違う局面を迎えることになる」という予測と、その局面をしっかりと歩むための武器となりうる「意識」について述べられてきました。
そして、本書の中で著者が最も伝えたいのがこの「未来を変えるための可能性」という部分なのです。
著者がしているのは「予言」ではなく「予測」です。
この未来へ楽観も悲観もしていません。
過去~現在に基づいた客観的考察なのです。
そこにはもちろん変化させていく余地があるし、よりよく変化させていく必要があります。
しかし、ただ流されるままに生きていたら、予測通りの未来に飲み込まれてしまうのです。
そこで著者ユヴァル・ノア・ハラリが解くのは、歴史を学ぶことの必要性です。
著者は言います。
「歴史を学ぶ最高の理由がここにある。すなわち、未来を予測するのではなく、過去から自らを開放し、他の様々な運命を想像するためだ。」と。
過去から学び、考え、選択肢を増やしていく。
その中で、よりよいと思えるものを考えだし、選び取っていく。
そうすることで、未来を変えられること。
そうすることでしか、未来は変えていけないことが伝わってきます。
著者は求めます。
一人一人が学び、考え、行動することを。
それによって、よりよい未来へ進んでいけることを。
そして、大切なのは「今」の行動であることを。
まとめ
本書には様々なエッセンスが非常に多く盛り込まれています。
現在のテクノロジー事情、未来ではどんな変化が起こっていくのか、そこに至る道筋、まだブラックボックスである「意識」、未来への向き合い方。
そのどれもが、精緻な考察に基づいた、濃く、深い内容になっていて、本当に多くのことを考えさえれられ、学べる内容となっています。
最後に述べておきたいのは、本書も著者特有の、読みやすく、魅力的過ぎる文章で書かれているということ。
テクノロジーや、歴史に関して、あまりわからない人でも興味深く、おもしろく読めるものになっています。
ぜひ、気になる要素が一つでもあった人は、気軽の手に取って読んでみて欲しい一冊です。
世界の見方が大きく変わるかもしれません。
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