かしのきホテル(4歳~)

絵本

作:久保喬 駒宮録郎 出版:フレーベル館

太い幹に大きな体のかしの木。

そこは鳥や虫たちのホテルでした。

そんなホテルを中心に、自然のサイクルを感じることが出来る絵本です。

あらすじ

ここは森のかしのきホテル。

その大きくて高く、葉も茂っているホテルには色々な生き物が住んでいました。

みんなただ泊めてもらっていますが、汚い身なりの鳥や虫が来ると嫌がる者たちもいます。

でも、かしのきはどんなお客も区別しないで泊めるのです。

ある時、タマムシのお嬢さんの側の部屋に、ミノムシが入ってきました。

タマムシは「身なりの汚い人が来た」と嫌がりました。

その隣のセミの音楽家も嫌がりました。

かしのきが仲裁しますが、タマムシとセミは出ていくことに決めました。

綺麗で新しい、かばのきホテル、くりのきホテル、もみじホテルがいいと聞いていたからです。

その騒ぎを聞いたムクドリとメジロも引っ越しました。

さらにフクロウのメガネ屋さん。

それに続いて、暮らしていたみんなが引っ越してしまいました。

残ったのはアリだけでした。

新しいホテルは賑やかになりました。

どの木も若くて、綺麗です。

ある夕方、天気予報で嵐が来ると知らされて、鳥も虫も慌ててホテルへ逃げ込みました。

しかし、嵐に吹かれて新しいホテルはみな、大揺れです。

枝も折れたりしています。

困ってしまった客たちに、呼びかける声がありました。

それは大きな強いくすのきでした。

「こちらへおいで」と呼びかけています。

嵐が過ぎた次の日、他のホテルがダメになったみんなが戻ってきました。

かしのきは何も言わずに戻ってきたものを泊めてあげました。

安心したのも束の間。

朝になって虫たちが弱ってきました。

冬が近づき、寒くなってきたのです。

嵐の次は寒さ。

果たして虫たちとホテルはどうなるのでしょうか。

『かしのきホテル』の素敵なところ

  • 物語を通して感じる自然のサイクル
  • 見ていてうっとりするような色使いと質感
  • 読んだ後、木の違いに興味が出る

この絵本のすごいところは、物語の中に夏や秋~冬を越し、春を待つという、自然のサイクルが物凄く自然に落とし込まれている所だと思います。

多くの鳥や虫が、冬を越す拠り所となるかしのきをホテルに見立て物語は進みます。

他の木に行ってみたりもしますが、冬を越すためにはしっかりとしたかしのきが必要です。

また、虫は寒くなると幹の部屋には住んでいられません。

そこでの移動や、空いた部屋への来客など、全てが自然の流れと結びついているのです。

ホテルというわかりやすいものに見立てたことで、この自然のサイクルが子どもにも無理なく感じられるようになっているのが素敵です。

この描かれる生き物や自然をより魅力的にしているのが、絵にあります。

繊細な色使いと陰影表現で、とても立体感のある生き物たち。

特に虫たちは見惚れるほど美しく、タマムシの輝き、セミのガラス細工のような羽、カブトムシの立体感など、いつまでも見ていたくなるほどです。

もちろん、かしのきの古いけれどどっしりした感じや、若いホテルの細身で綺麗な対比も、しっかりとわかりやすく表現されています。

さて、この絵本ではかしのきを中心に、かばのき、くりのき、もみじも出てきます。

その中で、冬を越すのがかしのきなのにも理由があります。

冬でも葉が落ちず、どっしりといつも通りあるかしのき。

対して、葉が落ちて冬はまるで眠ったようになる他の木たち。

この違いも描かれていて、普段当たり前のように見ている気に興味が湧くのも素敵なところ。

読み終わった後子どもたちから、

「かしのきって強いね!」

「あの公園に大きい木あるからかしのきかも」

といった声も出て、かしのき探しや、本当に葉っぱが落ちていないかの観察に繋がりました。

木と生き物のわかりやすく面白い物語を通して、実際の自然のサイクルに触れることが出来る。

物語と科学が程よく混ざり合った自然への興味が広がる絵本です。

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