丘のうえのいっぽんの木に(4歳~)

絵本

作:今森光彦 出版:童心社

春先に現れるオオムラサキの幼虫。

その生涯が美しい影絵で描かれます。

さあ、丘のうえに生えた一本の木を見ていきましょう。

あらすじ

田んぼに囲まれた小さな丘の上に、エノキの木が一本生えていました。

丘に春がやってくると、オオムラサキの幼虫が葉っぱの影から顔を出します。

幼虫はエノキの木を登り、柔らかい葉っぱを食べて、どんどん大きくなっていきます。

油断していると、カメムシに食べられてしまうので、葉っぱの影に隠れながら。

やがて、丸々太った幼虫は、葉っぱの裏にぶら下がり、皮を脱いでサナギになります。

しばらくじっとしていたある日、ついにサナギから出てくる日がやってきました。

葉っぱにしがみつき、柔らかな羽を伸ばしていきます。

羽が固くなると、オオムラサキは力強く羽ばたきました。

飛んでいるうち、メスのオオムラサキと出会い、二頭はエノキを離れ、クヌギに樹液を吸いに行きます。

そして、夏の暑い日。

オオムラサキのメスはエノキに卵を植え付けると力尽き、地面へ落ちていきました。

薄緑色に光る卵は、数日経つと黒くなり、中から幼虫が出てきます。

北風が吹いてくるころ、幼虫は木を降りて、エノキの下の落ち葉へと姿を消します。

温かい落ち葉の下で、寒い冬を越すのです。

春になり、たくさんの生き物たちとの再会を心待ちに・・・。

『丘のうえのいっぽんの木に』の素敵なところ

  • 繊細で美しい生き物たちの影
  • とっても可愛く生き生きと描かれる幼虫
  • オオムラサキとともにエノキにも焦点の当てられた一年間

この絵本は白と黒だけで描かれます。

木や生き物たちはどれも影絵で描かれ、そのシルエットの美しさが際立ちます。

蝶に蜂、鳥や卵、そのどれもが躍動的で、繊細で、美しいのです。

特に、羽の模様などは特に際立っていて、白黒でシンプルになった分、その細かな美しさをより純粋に楽しめるように感じます。

また、絵本の最後にオオムラサキとエノキの一年間が写真で載っているのも素敵なポイントです。

本物が見てみたいと思った時に、その知的欲求を満たしてくれます。

さて、メインで描かれるオオムラサキの幼虫。

これが物凄くかわいい。

もちろん、デフォルメされているわけでもなく、過度にかわいくしゃべったりするわけではありません。

でも、自然の厳しさの中で、ひたむきに一生懸命生きる姿や、時々しゃべるさり気ない言葉が、とても応援したくなるのです。

虫が苦手な子もいつのまにか「がんばれー!」と応援していたり、「葉っぱ食べてる、かわいい~」とにやけていたり。

すっかりみんなのアイドルになってしまいました。

しかし、この絵本はオオムラサキを中心としていますが、それだけではありません。

タイトルからもわかる通り、エノキもまた主人公なのです。

オオムラサキが見る景色を中心に、エノキに現れる虫や鳥たちも大切に描かれます。

エノキの根元で冬を越すカエルやテントウムシ。

葉っぱが緑になるころ飛んでくるフクロウ。

秋の実りにやってくるアトリ。

一年間のエノキに訪れる生き物たちも生き生きと描かれることで、どれだけエノキが生き物たちにとって大切なものかが伝わってくるのです。

オオムラサキと一本の木を中心に一年間を過ごしていく。

その中で季節の流れと、命の関わり合いを感じることが出来る絵本です。

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