作:西本鶏介 絵:小野かおる 出版:すずき出版
大好きな女の子のために、月に化けるタヌキ。
でも、ただ化けただけではありません。
そこには優しいサプライズが待っているのでした。
あらすじ
山の上の小さな町の交番に、動物の大好きなお巡りさんがいました。
ケガをした動物を手当てしてあげていたので、山の動物たちにも人気者でした。
その晩も、遅くまで交番にいたお巡りさん。
パトロールに行こうとすると、表に一匹のタヌキが立っていました。
お巡りさんはタヌキに話を聞くと、「好きなタヌキの女の子を助けて欲しい」と言うのです。
タヌキの話では、その女の子のタヌキは、お母さんが亡くなって外へ出てこなくなったとのこと。
タヌキは女の子のタヌキを慰めるため、月に化ける練習をしたのです。
でも、女の子は口もきいてくれず、お巡りさんへ助けを求めたのでした。
それを聞いたお巡りさんは、タヌキに協力することに。
タヌキが月に化けたら、お巡りさんが女の子に声をかけ、外に誘い出す作戦です。
お巡りさんの声を聞き、外に出てきた女の子。
でも、お月さまを眺めていると、尻尾のようなものが出てきてぶらぶら。
お巡りさんはあの月はタヌキが化けていることを伝えました。
すると、お月さまの中に女の子のお母さんの姿が浮かび上がりました。
女の子はそれを見て、拝むように両手を合わせました。
お巡りさんが「なんて優しいタヌキだ」と胸を打たれていると・・・。
もう一人、お月さまに浮かび上がってきたのです。
『おつきさまにばけたたぬき』の素敵なところ
- 相手のことを思いやる本当に優しいタヌキ
- 動物たちに親身になってくれる心優しいお巡りさん
- しんみりと温かいずーっと優しいお話
好きな女の子を元気づけるため、お月さまに化けるタヌキ。
でも、化けるだけじゃなく、女の子のお母さんの姿まで映し出してくれます。
それは相手のことを、深く深く考えたから出てきた答えなのでしょう。
しかし、タヌキの素敵なところはそれだけではありません。
お巡りさんに対しても、その優しさは同じなのです。
助けてくれたお礼なのか、お巡りさんが喜びそうなものを自分なりに考えて、お月さまに映し出します。
それは本当に本当に優しい答え。
タヌキが誰にでも優しくて、深い愛を持っていることが行動からよくわかるのです。
この優しさを、より感じ取りやすくしてくれるのがお巡りさんです。
動物のため、なんでも協力してくれるお巡りさん。
お巡りさんの気持ちや、感心する姿、女の子を見守る眼差し。
それらがよりタヌキの優しさを伝えてくれるのです。
とても親身になってくれる、温かく優しいお巡りさん。
それもこの絵本の大きな魅力です。
そんなタヌキとお巡りさんと元気になる女の子。
この3者の関わりや、言葉、夜のしっとりとした雰囲気が、温かく、優しく、でもしんみりとした独特の空気感を作っているのだと思います。
それは死と別れを扱うこの絵本にぴったりの雰囲気なのでしょう。
とても優しい別れをくれるのが、この絵本のなにより素敵なところです。
タヌキとお巡りさんの優しさを通して、別れを受け入れる力をくれる絵本です。
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