文:富安陽子 絵:降矢なな 出版:福音館書店
力持ちなやまんばの娘まゆ。
そんなまゆを食べようと近づく鬼。
ですが、まゆの力と無邪気さに翻弄されてしまうのでした。
あらすじ
山のてっぺんに、のっぽのやまんばと、その娘のまゆが住んでいました。
ある日、雑木林の奥で、まゆは大きな赤鬼と出会いました。
鬼はお腹が空いていて、まゆを大鍋で煮て食べようと思い立ちました。
そこで優しく、鬼の家へ遊びに来ないかと誘います。
まゆも喜んでついていってしまいました。
岩屋に着き、鬼がを焚く準備を始めるとまゆが聞きました。
「どうして火を焚くの?」
鬼は寒いからと答えると、まゆは納得して手伝えることはないか聞きました。
鬼が薪を集めるよう頼むと、まゆは木を引っこ抜き、バキバキと折って薪を作ってくれました。
鬼はびっくり仰天。
他の手伝いはないかと聞いてくるまゆに、鬼は火を囲む石ころを頼みました。
すると、いきなり岩屋の壁を蹴飛ばすまゆ。
岩屋の壁から崩れ落ちた岩を鬼の所に持ってきたではありませんか。
鬼はさらにびっくり。
大急ぎで大鍋を火にかけました。
それを見て、まゆがなぜお湯を沸かすのか聞いてきます。
鬼は「寒い日は風呂に限るからさ」と答えました。
湯が段々温まってきます。
そして、鍋の湯がぐらぐらと湧きかえりました。
鬼はまゆに「さあ、暑いお風呂にお入り」と言いながら近づいてきます。
まゆは一体どうなってしまうのでしょう。
『まゆとおに』の素敵なところ
- 鬼の悪意とまゆの善意のズレがまるでコントのように面白い
- 小さくてかわいいまゆと、大きくていかめしい鬼のコントラスト
- 優しくて温かい結末
この絵本、まゆを食べようとする鬼の悪意と、相手のことを考えるまゆの善意が見事なまでにかみ合いません。
いや、ある意味ピッタリとかみ合っているのかもしれません。
鬼が自分を食べようとしていることなどつゆ知らず、鬼の手伝いまで始めます。
でも、その手伝い方の豪快なこと。
木を引っこ抜き、岩屋を壊し・・・。
そりゃ、鬼だってびっくり仰天。
「やめてくれ!」と叫んでしまいます。
この、本来優位であるはずの鬼が、まゆに戦々恐々とする姿。
この構図が面白過ぎるのです。
始めは鬼を怖がっていた子どもたち。
「どうなっちゃうんだろ」と心配顔だった子どもたちが、まゆの行動を見るにつれ、安心しきった笑顔に変わります。
「えー!?」
「強すぎ!」
と驚きと笑いが巻き起こり、さっきまでの不安はどこかに吹き飛んでしまいました。
ですが、流石にお湯の準備が整うと、子どもたちにも不安の色が戻ります。
ここでこの絵本最大の善意と悪意のズレが起こります。
まるでコントのような展開に、子どもたちも大笑い。
最後まで鬼とまゆはかみ合わないのでした。
また、そんな面白さをより際立たせてくれているのが、まゆと鬼の体格差。
小さくてかわいいまゆ。
大きくていかめしい鬼。
ページ内でのこのコントラストがとっても素敵。
このコントラストから、まさかまゆが主導権を握ることになるとは思えません。
小さなまゆを怖がる鬼。
大きな鬼をおんぶするまゆ。
もう、その構図だけで十二分に面白い。
「逆!」という面白さが、物語からも絵からも全力で感じられるのです。
さて、そんな物語の結末は、とっても優しくおおらかなものでした。
それは「まゆらしいなぁ」と自然に思えるもの。
読んだ後、心がなんだかほっこりします。
大きな鬼が小さなまゆに翻弄される。
「逆!」の感覚がとっても楽しいお話です。
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