作:junaida 出版:福音館書店
一人ぼっちで寂しかった巨人。
ある日、1軒の家を盗んでくることにしました。
すると、他の家も持ってきてと言われてしまい・・・。
あらすじ
大きな山のてっぺんに、一人の巨人が住んでいました。
その巨人は寂しくて寂しくてしょうがありませんでした。
ある夜、あまりの寂しさから、山の麓の家を一軒、山のてっぺんに持ち帰りました。
朝になり、その家の家族に「なんでもあげるので一緒に暮らしましょう」と言いました。
すると、その家のお父さんが言いました。
「私たちだけでは寂しいので、親戚の家も持ってきて欲しい」と。
その晩、巨人はまた山を降り、麓の町から親戚の家を何軒か持ってきました。
翌朝、「一緒に暮らしましょう」と巨人は言いました。
今度は家族の親戚のおばあさんが「友だちの家も持ってきて欲しい」と言ってきます。
巨人はまた、友だちの家を何軒か持ってきました。
こうして、願いを聞いているうちに、やまのてっぺんに麓の街がそのまま山のてっぺんにやってきました。
街の人は喜んで暮らし始め、巨人の周りは賑やかになりました。
でも、巨人はなぜか寂しいままでした・・・。
『街どろぼう』の素敵なところ
- 気弱そうな巨人から出る、家を担いで持ってくるという力技
- どこか静かで物悲しく、でも幻想的な世界観
- 寂しさをなくすためには・・・
この絵本で登場する巨人は、一人ぼっちで寂しい巨人。
体操座りで、背中を丸め、街を見下ろす姿は、自然と「優しい巨人なんだろうな」と感じられます。
でも、寂しすぎて取った行動は、それとは真逆。
家を丸々担ぎ上げて持ってくるという力技でした。
このギャップに子どもたちもびっくり!
「すげー!」
「家、持てるんだ!?」
「そんなことしちゃダメだよ!」
と、色々な声が飛び交います。
だけど、家の人にはとても丁寧で、優しい巨人。
しかし、担ぎ上げる家はどんどん増えて、よりパワフルに・・・。
この丁寧さとパワフルな不器用さのギャップが、面白く、巨人を魅力的にしてくれているのです。
そんなパワフルな絵が印象的なこの絵本ですが、空気感はなんだか静かで物悲しく感じます。
それは巨人の寂しさとリンクしているからかもしれません。
夜な夜な家を担いで、山を登ってくる巨人。
その姿には、どこか必死さや寂しさを感じ続けます。
街をそっくり運んでしまった後ですら・・・。
ただ、その静かさと物悲しさが、月明かりの中家を担ぐ巨人のシルエットと相まって、妙に幻想的で美しいものになっているのも、この絵本の特徴的で素敵なところだと思っています。
さて、賑やかになっても寂しさを感じ続ける巨人。
それはさながら現代の街のようでもあります。
人はいるけれど、受け入れられていることを感じない街。
そんな中で巨人が取った行動は意外なものでした。
その結果は、気持ちのよい風が吹き抜けていくような爽やかなもの。
物悲しかった世界からの解放感を感じさせてくれます。
優しくも不器用な、街どろぼうをする巨人。
その巨人の姿を通して「寂しさ」や「幸せ」について、考えさせられる絵本です。
コメント