作:トルーディ・ラドウィッグ 絵:パトリス・バートン 訳:さくまゆみこ 出版:くもん出版
賑やかな子に隠れてしまう、静かで目立たない子。
それはまるで、みんなから見えていないようです。
それはとても寂しくてつらいこと。
でも、ある行動がきっかけで・・・。
あらすじ
ブライアンは目立たない。
先生にだって見えなくなることがある。
目立つネイサンやソフィのことが気になるからだ。
みんなも同じ。
キックベースのチームを組む時には、ブライアンだけ残される。
そして、ブライアンのことは気にせずに、ゲームが始まる。
お昼ごはんの時間も、ブライアンは話の輪に入れない。
ブライアンだけ呼ばれていない、誕生日パーティの話をしてるから。
自由時間になると、ブライアンは大好きな絵を描く。
想像を膨らませて色々な絵を。
月曜日の朝。
教室に転校生がやってきた。
名前はジャスティン。
お昼ごはんの時間になり、ジャスティンがお弁当を出すと、みんなが注目した。
ジャスティンが持って来たのはプルコギ。
みんな見たことのないその料理をバカにして笑った。
ブライアンはそれを見て、みんなから笑われるのと、見えないのではどっちがつらいのか考えていた。
次の日、ジャスティンがロッカーに行くと、道具箱に手紙が入っていた。
ブライアンからだった。
手紙には「プルコギおいしそうだったよ」と、絵を添えて描いてあった。
休み時間にブライアンが校庭で絵を描いていると、ジャスティンが来てお礼を言った。
エミリオに呼ばれ、ジャスティンはすぐにいかなくては行かなかったが、去り際にジャスティンはブライアンの絵を褒めてくれた。
教室に戻ると、先生が「二人組か三人組を作りなさい」と言った。
ブライアンがジャスティンの方へ行こうとすると、エミリオが「ジャスティンは俺と組んだんだ。他の子を探しなよ」と言ってきた。
ブライアンは目を伏せた。
その時、ジャスティンが言った。
「先生は二人組か三人組って言ったんだ。ねえ、エミリオ三人組になろうよ。」と。
三人組になり、「写真を見ながら友だちと一緒に、自由にお話を作る」という活動が始まった。
三人はどんな物語を作っていくのでしょうか。
『みんなからみえないブライアン』の素敵なところ
- たった一人の友だちの心強さ
- きっかけはブライアン自身の行動
- 気持ちまで伝わってくる表情豊かな絵
自分が見えなくなってしまう感覚。
これを経験したことがある人は、子どもでも大人でもけっこういるのではないでしょうか。
新しい場所、馴染めない環境に行った時、中々行動する勇気が出ず、色を失ってしまう。
そんな時に、ただ一人でも話し相手や友だちのいる心強さは相当なもの。
それが、この絵本ではストレートに伝わってきます。
ジャスティンと仲良くなり、色を取り戻していくブライアン。
その表情は無邪気な子どもに戻っていて、本当に楽しそう。
たった一人の友だちがいるだけで、世界が変わることを伝えてくれるのです。
手を差し伸べられる嬉しさとともに、手を差し伸べる大切さも。
そして、一緒にやることで、一人の時よりも楽しさが広がっていくことも。
でも、そのきっかけになったのは、ブライアンの行動です。
プルコギを笑われていたジャスティンの辛さを、ブライアンが気遣って手紙で励ましたことがきっかけでした。
これがなかったら、ブライアンの優しさにジャスティンが気付くこともなかったでしょう。
優しさを持ち続け、励ます勇気を持っていたからこそ、ジャスティンと友だちになれたのだと思います。
相手を思いやる、ほんの少しの勇気と行動があったから、世界が変わったのです。
さて、この絵本がこんなにも心に響くのには、表情豊かな絵の力もとても大きいと思います。
子どもたちの表情からは、様々な気持ちが伝わってきます。
嬉しい、悲しい、寂しい、楽しい・・・
という、わかりやすい感情はもちろんのこと、
転校生を見て値踏みするような表情。
笑われて複雑な気持ち。
手紙をもらい、心から嬉しそうな笑顔。
など、その表情の一つ一つに、細かい心の動きが伝わってくるのです。
だからこそ、ブライアンの心の底から楽しそうな様子や、少しずつ距離が縮まっていく様子が、これほどまでに伝わってくるのだと思います。
みんなから見えなくなる辛さが、ブライアンを通して痛いほどに伝わってくる。
同時に、たった一人に見られることで、世界が色づくことも痛いほどに伝わってくる絵本です。
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