文:神沢利子 画:太田大八 出版:復刊ドットコム
自由になりたい時に頭に浮かぶ空想。
「もしも・・・」
空想の世界ではあんなものにも、こんなものにもなれてしまいます。
小さなリスにも、大きなクジラにだって。
あらすじ
お父さんとお母さんは、小さな弟ばかり可愛がる。
だからつまらなくて、逃げ出して草の中に隠れているところ。
じっとしていたら、チョウチョが来て花にとまった。
もしも私がちょうちょだったら、花のジュースを飲んで、自由に好きな所へ飛んでいく。
でも、虫取り網を持った子が来たら大変。
そうね、ウサギの方がいいな。
草原をかけて、跳ねて遊ぶ。
夜までずーっと遊んでられる。
でも、いつも鼻をひくひく、口をもごもごさせている。
きっとくたびれちゃうわ。
そうなの、なまけものがいい。
高い気にぶら下がって、なんにもしなくていい。
でも、友だちはどこにいるの?
苔が生えるまで、遊ばずじーっとしているのかしら。
私、フラミンゴがいい。
足をそろえてみんなで歩くとダンスしているみたい。
でも、私と友だちがあんまりそっくりで、どっちが私かわからなくなっちゃう。
そうね、、私・・・。
『もしも・・・』の素敵なところ
- 小さな弟を持つお姉ちゃんの複雑な気持ち
- なんにでもなれる「もしも・・・」
- 人間に戻る時
「弟ばっかり・・・」と思ったことのある、お兄ちゃんお姉ちゃんは多いと思います。
この絵本のお姉ちゃんもその一人。
遊びを邪魔され、弟ばかりだっこされ、つまらなくなって逃げ出して来ました。
お姉ちゃんの等身大なつぶやきや、仕草に「弟なんていらない」と思ったことのある子は、とても共感できるでしょう。
「こういう時あるよ。塗り絵をぐちゃぐちゃにしちゃうんだもん」など、エピソードが思い起こされているようでした。
そんな時、強い味方になってくれるのが空想です。
今の現実から解放され、自由になんにでもなれる時間。
チョウチョにも、ウサギにも、クジラにだって・・・。
でも、楽しいことだけじゃなく、困りそうなことも一緒に考えているのが面白いところ。
それは今の不安感が影響しているのかもしれません。
どんな生き物になっても、なにかしら困ったことは出てきます。
子どもたちも、
「私もチョウチョがいい」
「ぼくだったらサメだな~、なんでも食べられるもん」
などと自分も空想の世界を楽しみつつ、
「確かに捕まったら大変!」
など、困ったことにも共感していました。
そんな中、人間に戻る瞬間がやってきます。
でも、人間に戻った時には、最初とは違う心境になっているのが、この絵本のとても素敵なところです。
一人でゆっくりじっくりと考える時間があったからなのでしょう。
今の状況に、納得できたようでした。
一人の時間の大切さと、ずっと一人の寂しさ。
その両方がバランスよく描かれているのです。
色んな生き物になりきる空想の世界を通して、深く深く自分自身と対話する。
そんな時間の大切さを、お姉ちゃんの心の成長を通して伝えてくれる絵本です。
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