保育施設の未来地図

書籍

編著:土岐泰之 出版:クロスメディア・パブリッシング

手書きや紙の資料、「ついで」の業務が多い保育業界。

休みの日に、「ついで」に保育教材を買ってきたり、なにかをするたびに手紙を出したり。

細かな業務の積み重ねで、日々忙殺されている。

そんな光景は日常茶飯事だと思います。

昔と比べれば、データでの資料作成も増えてきましたがまだまだ途上。

人の手でやらなければならないことと、人の手ではなくてもできることが混在した状態です。

本書ではそんな状態を「ICTで解決したい」というユニファ株式会社の取り組みを中心に、これからの保育園の構想を一緒に考えさせてくれる本です。

ユニファ株式会社からの視点だけでなく、ICTを導入した保育施設の視点も同時に見られるのが面白いところ。

色々な視点、色々な意見、色々なデータによって、保育そのものの未来を考えるきっかけになると思います。

「これやる必要ある?」「もっと効率化出来るはず」「保育園ってこのままでいいのかな?」

そんな疑問を持ったことのある方に、ぜひ読んでみてもらいたい一冊です。

『保育園の未来地図』の素敵なところ

  • 保育の中で重要なことを改めて考えさせられる
  • ICT導入の豊富な具体例
  • 技術を保育を繋げる強い想い

本書ではまずはじめに、保育そのものについて語られます。

それは、目指すべき保育がないと、いくら業務を効率化しても意味がないからです。

そこで重要視されるのは、「21世紀型の新しい知性」です。

この力を育むためには、これまでの指導型の保育・教育では不十分。

子どもの学びを育てる環境が必要になってくるのです。

そのためには保育の質をあげなければなりません。

でも、それは簡単なことではありません。

「業務が忙しすぎて、子どもと向き合う余裕がない」

「どうやったら学びが育つかわからない」

こういった声も聞こえてくるでしょう。

そんな時に、力を貸してくれるのがICTの力なのです。

もちろん、何を導入するか、どれくらい導入するかは施設それぞれに大きく異なります。

写真アプリ、連絡帳や伝達手段の電子化、出欠席の自動化、午睡チェックのセンサー導入・・・。

などなど、多くのICT化の中から、必要なものを導入しています。

本書では、導入した施設が、

  • 導入の経緯
  • 導入して変わったこと
  • これからの課題

などを、語ってくれていて、実際に導入した時のイメージがとても掴みやすくなっています。

また、保育と紐づいて語られるので、自園の課題を考えるきっかけにもなるのです。

もちろん、ICTを提供する側の、ユニファ株式会社からの視点でも語られます。

その語りがものすごく熱いのも、本書の素敵なところでしょう。

ただICTを導入するし、効率化するのではありません。

効率化されて出来た余裕を保育へ繋げる。

こうして、保育の質をあげることが大切なのだと熱く語られるのです。

そのために、ICTを導入して終わりではなく、それを活かすための研修などもあり、一緒に保育を作っていくための仕組みや、取り組みも用意されています。

ICTを活用することにより、より面白い保育施設が作れることを感じさせてくれます。

まさに保育施設の未来地図を垣間見ることが出来るのです。

『保育施設の未来地図』からの学び

  • 保育の質を上げるために必要な「対話」
  • ドキュメンテーションの大きな力
  • 保育施設外にいる協力者の心強さ

本書の中で、保育の質を上げるキーワードとして、たびたび登場するのが「対話」です。

保育の質を上げるうえで、一人一人の子どもの姿を見ていくことはもちろん大切です。

ですが、一人で見ているだけでは考え方が固定化してしまったり、悩んでしまうことも多々あります。

そんな時に、助けになるのが他の職員との対話なのです。

職員それぞれに違う見方があります。

その子の様子をみんなで見ることで、新しい視点の獲得や、謎の行動の真相が解明されたりするのです。

これは保育者の成長、施設全体の成長も意味します。

もちろん、保育施設内だけではなく、家庭との対話も必要です。

子どもは家庭と保育施設の両方を行き来しながら過ごしています。

それぞれで見せる顔も違います。

保護者もそれぞれ悩んだり、不安なことがあります。

対話を通して、成長をともに喜んだり、不安を和らげることは、子どもの成長にも直結するのです。

ですが、ここで一つ問題があります。

それが、対話を始めるための労力です。

言葉だけで話すには、一から十まで説明しなくてはなりません。

写真を使うには、写真を探し、印刷してこないといけません。

対話のたびに、この手間をかけていては、次第に対話の頻度は減っていってしまうでしょう。

子どもの活動に関しても、大きな活動以外は写真の張り出しなども中々出来ません。

そこで大きな力になってくれるのが「ドキュメンテーション」です。

見るのも探すのも、一つのアプリで出来たらどうでしょう。

アプリを開くだけで、写真を共有した対話が出来ます。

保護者もいつでも見られるので、写真の張り出しなども必要ありません。

「あの写真の姿なのですが・・・」とすぐに対話を始められます。

連絡帳では伝わらない部分も、伝わりやすくなるでしょう。

また、使い方次第では子どもの発達記録としても活用できます。

その活用例も載っていて、対話への活用だけにとどまらない、可能性を感じさせてくれるのです。

さて、本書を読んだ中で、ぼくが一番の学びというか、気付きを得た部分があります。

それが、「こんなありがたい会社があるんだ!」ということでした。

ICTを活用し、子どもがよりよく生きられる社会を作る。

そんな理念を持った会社が、保育施設と協力し、全力でサポートしてくれようとしている。

この事実がなによりの学びでした。

保育施設は袋小路に陥りやすい業界だと思います。

  • 行政との関係で、変えられない部分が多い。
  • 資金面での制約がある。
  • 雑務と保育の境界があいまい。

など、変えにくい、わかりにくい環境も大きく影響しているのでしょう。

そんな中で、ICTという全く違う分野から、保育のことを考えて努力してくれている人がいる。

これはとてもありがたく、力強いことです。

さらに、ドキュメンテーションを保育記録として認めてもらう動きなど、ICTの専門家だからこそ出来る交渉などもしてくれています。

これが認められれば、保育業界の多くの手書きの資料が、データ化される第一歩になる可能性も秘めています。

現場からは改善しにくいことを、別の分野の人が改善しようとしてくれている。

これほど心強いことはありません。

そして、そういった協力者がいるという事実が、これからの保育施設がまだまだ進化出来るという希望へと繋がっています。

他の分野の人々とも力を合わせ、より子どもが生きやすい世の中を作っていく。

それが、これまでよりも当たり前になっていく。

ICTという部分だけでなく、もっと大きな枠での未来地図を垣間見せてくれるのです。

同時に、保育施設の視野も大きく広げてくれるのが、本書の最大の学びだと思います。

まとめ

本書はまさにタイトルの通り、未来地図を垣間見せてくれます。

記事内では伝えきれなかった、一つ一つの実践記録や、自治体とともに行っている事業、提供しているサービスなどがたくさんあります。

それらを読むことで、より未来地図が鮮明になっていくことでしょう。

また、保育施設が今置かれている状況や、ICTの導入とは別に考えていかないといけない未来も描かれています。

これらは今の保育を振り返り、これからの保育を改めて考えるきっかけになるでしょう。

さらに、これらの取り組みは、同じ様に「ついで」が多い学校でも参考に出来る部分が多いのではないかと思います。

様々な意味での、「今」と「これから」を見せ、考えさせてくれるので、保育・教育・ICTに興味のある方には、ぜひ読んでみてもらいたい一冊です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました