作:宮部みゆき 絵:佐竹美保 出版:KADOKAWA
とても心が優しい怪獣。
でも、その姿はとっても怖い。
そんな怪獣の美しく、優しく、とても悲しい物語・・・。
あらすじ
クマ―は怪獣です。
フィヨルドの湖を、見渡す山に住んでいます。
フィヨルドの近くにはヨーレの街があります。
ヨーレの街にはたくさんの人が住んでいて、大きな協会には立派な鐘楼があり、朝と晩に鐘を鳴らします。
晩の鐘が鳴り、街が寝静まったころ、ヨーレの街には悪い怪獣が忍び寄ってきます。
クマ―は悪い怪獣を追っ払い、ヨーレの街を守っていました。
でも、街の人は知りません。
なぜなら、クマ―の体は透明だから。
ある日、クマ―は悪い怪獣を追っ払った時に、ケガをしてしまいます。
大事な頭のてっぺんの角も折れてしまいました。
すると、クマ―には自分の手や足が見えました。
角が折れてしまったので、体が透明ではなくなってしまったのです。
ちょうどその時、ヨーレの街の鐘楼守のおじいさんと、孫娘が森を歩いてやってきました。
そして、クマ―の姿を見ると、怖がり逃げ出しました。
おじいさんが戻ると、街では鐘が打ち鳴らされて、街の人はクマ―を退治しようと追いかけてきました。
追い立てられたクマ―は、フィヨルドの周りを逃げ回るばかり。
何とか逃げ切ったクマ―が、ふらふらとフィヨルドの水辺に近づくと・・・。
『ヨーレのクマ―』の素敵なところ
- 勇敢で愛くるしいクマ―
- 誤解の悲しさとやるせなさ
- 救いのない悲しすぎる結末
この絵本ではクマ―の魅力が痛いほどに伝わってきます。
フィヨルドの自然を愛するクマ―。
森の動物と佇み、背中にはアライグマが抱きついているクマ―。
一人、悪い怪獣と戦うクマ―。
わずか数ページで、その心優しさと、勇敢さにクマ―のことが大好きになるでしょう。
でも、状況は一気に変わります。
街の人に姿を見られ、恐れられ、追い立てられてしまいます。
街の人は、クマ―が街を守ってくれていたことなど知らなかったのですから。
しかし、この本を見ている子どもたちは知っています。
クマ―の心優しさも、勇敢さも。
「違うよ」
と言っても、街の人には伝わりません。
「やめてよ」
と言っても、止まりません。
ただ、追われるクマ―を見守ることしか出来ないのです。
誤解とわかっていても、止めることの出来ない歯がゆさ。
それが子どもたちの表情に浮かんでいました。
悔しさと、悲しさと、心配の表情。
きっと、こんな感情を味わうことは滅多にないでしょう。
だけど、この絵本に救いはありません。
誤解が解けることもありません。
街の人には、怪獣から街を救った英雄譚。
でも、クマ―にとってはただただ悲しい悲劇です。
クマ―の姿を見ていると、桃太郎の鬼や、退治されたドラゴンなど、他のお話にもクマ―がいたのではないかと思ってしまいます。
こんなにも悲しく、寂しい物語。
だけれど、なぜかそこには美しさもあるから不思議です。
クマ―の身に起こる、理不尽で悲しすぎる結末を通して、悲劇を心全体で感じ、味わうことが出来る絵本です。
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