文:山下明生 絵:高畠那生 出版:あかね書房
みんな知ってる昔話『さるかに合戦』。
でも、この絵本は一味違います。
カニと仲間たちとの絆が、より深く伝わってくるのです。
あらすじ
昔々のお話です。
ある日、サルとカニが花見に行きました。
そこで、カニは握り飯を見つけました。
サルも探しましたが、柿の種が一粒しか見つかりませんでした。
カニが握り飯を食べようとした時です。
サルが、握り飯と柿の種を、交換しようと言い出しました。
カニは乗り気ではありませんでしたが、サルは握り飯をひったくり、無理やり交換してしまいました。
カニは仕方なく、家に庭に柿の種を植えました。
カニが種を植えながら歌を歌っていると、栗が出てきて言いました。
「そんなには早く大きくならないよ」と。
でも、カニはすぐに大きくなることを、信じて止みませんでした。
柿が芽になり、カニがまた歌っていると、臼がやってきて、
「水をやらなきゃ大きくならんものさ」
と言いながら、柿の芽に水をかけました。
木になった柿を見て、カニが歌っていると、蜂が飛んできて、
「花粉をつけてやらないと、実にはならないもんなのさ」
と、柿の花に花粉をつけて回りました。
実った柿を見て、カニが歌っていると、ウシの糞がやってきて、
「肥しが足りなきゃ、甘い実にはならんものさ」
と、木の根元に座り込みました。
みんなの手助けのおかげで、立派な柿が実りました。
ところが、ある朝カニが庭に行くと、サルが勝手に柿を食べていました。
木に登れないカニは、こっちにも柿を落としてくれるよう頼みました。
しかし、サルが投げたのは、固い青柿でした。
青柿はカニの背中に当たり、カニは潰れて死んでしまいました。
そのはずみで、お腹の下から、たくさんのカニの子が生まれてきました。
子ガニはお母さんの姿を見て泣きました。
栗、蜂、臼、ウシの糞ももらい泣きしました。
そして、みんなでサルを懲らしめることに決めました。
果たして、サルを懲らしめることは出来るのでしょうか。
『さるかにがっせん』の素敵なところ
- 仲間と育てた柿の実
- わかりやすい繰り返しとカニの歌
- 個性豊かに描かれるキャラクター
この絵本が、他のさるかに合戦と大きく違う所は、仲間との関わりが深く描かれるところです。
これがなにより素敵なところ。
柿の育て方など、少しもわからないカニに、みんな協力してくれます。
栗はアドバイスを、臼は水を、蜂は花粉を、ウシの糞は肥しを。
みんなで力を合わせたからこそ、美味しい柿が実ったのです。
この過程があることで、普段から親交があることを感じさせ、子ガニへの同情や、復讐への動機がより強く感じられるのです。
それにより、より感情移入してしまうのです。
さらに、みんなで力を合わせたという気持ちを強めてくれるのが、柿が出来るまでの繰り返しです。
柿の木が少し大きくなり、それに合わせた歌をカニが歌っていると、仲間が来て手伝ってくれる。
柿の木がさらに大きくなり、また歌を歌って・・・。
この繰り返しが、日々の苦労の末に、やっと柿になった嬉しさを、感じさせてくれるのです。
カニの歌も素敵で、
「早く芽を出せ、柿の種。出さぬとはさみでちょん切るぞ」
「早く木になれ、柿の芽よ。ならぬとはさみでちょん切るぞ」
と、いった風に、成長に合わせて変わっていきます。
この歌に、「歌っていても柿は出来ない」とツッコミを入れて、具体的な世話の仕方を教えるリアリストな仲間がなんともいい味を出しています。
そんな魅力的な仲間や、憎たらしいサルはどれも個性豊かに描かれます。
まず、絵からして個性的。
憎たらしさの溢れるサルの顔。
厳めしすぎる臼の表情。
愛嬌しかないウシの糞。
など、一目見たら忘れられないことでしょう。
もちろん、絵だけでなく、立てる音や言葉からもそのキャラクターが滲み出ています。
特に子ガニたちと、サルの最後の場面は必見です。
みんな知っている昔話『さるかに合戦』の、柿の木が出来るまでと、仲間との絆を深く描く。
より感情を揺さぶられる『さるかに合戦』の絵本です。
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