パンのかけらとちいさなあくま(4歳~)

絵本

リトアニア民話 再話:内田莉莎子 画:堀内誠一 出版:福音館書店

悪魔は悪いことをするのが仕事です。

でも、この小さな悪魔は、悪いことをしたら叱られてしまいました。

そして、お詫びをしに行くことに・・・。

あらすじ

あるところに、貧乏な木こりがいました。

働きに行く時も、小さなパンの欠片しか、お弁当に持っていけないほどでした。

ある日のこと、木こりはいつものように、森で仕事をしていました。

そこへ小さな悪魔が顔を出しました。

小さな悪魔は木こりのパンを盗むと、悪魔の住処へ帰っていきました。

小さな悪魔は、大きな悪魔たちに、パンを盗んできたことを自慢しました。

ところが、大きな悪魔たちは怒ったのです。

「貧乏な木こりの大事な弁当を盗るなんて!」と。

さらに、「謝りに行って、お詫びのしるしに、木こりのために働いてこい!」とまで言われてしまいました。

小さな悪魔は、木こりの所へ戻り、パンを返して謝りました。

小さな悪魔が、お詫びになにかすると言うので、木こりは沼を麦畑に変えることが出来るかと聞きました。

小さな悪魔は「できます!」と元気いっぱい答えます。

そこで、木こりは地主の所へ行き、沼を麦畑にしていいかを聞きました。

地主は笑い馬鹿にしながら、許可を出しました。

地主の許しをもらい木こりが帰ってくると、小さな悪魔は早速沼地を麦畑へ変えていきました。

そして、ついに見事な麦が実ったのです。

小さな悪魔と木こりが大喜びしていたのも束の間。

地主が作男たちを連れ、麦を全て刈り取り、地主の屋敷へと運んでいってしまいました。

地主は、麦畑にする許可は出したが、お前にやるとは言わなかったと言うのです。

おいおいと泣く木こりを前に、小さな悪魔は「取り戻してくるよ」と言って、地主の元へ行きました。

小さな悪魔は一体どうやって取り戻そうと言うのでしょうか・・・。

『パンのかけらとちいさなあくま』の素敵なところ

  • 悪魔なのに優しい
  • 感情豊かな登場人物たち
  • 悪魔の力に頼り過ぎない苦労

この絵本を読んで驚くことは、悪魔が物凄く優しいことです。

悪魔と言えば、悪いことをするのが仕事のはず。

小さな悪魔も、最初はパンのかけらを盗み、それを大きな悪魔たちに自慢します。

ですが、「かわいそうだ」と、本気で怒りだします。

しかも、貧乏な木こりに、驚くほど同情します。

そのセリフには、心から木こりのことを気の毒に思っているのが、伝わってくるほど気持ちがこもっています。

そして、素直にパンを返しに行く小さな悪魔。

この小さな悪魔も、木こりのために働き始めると、生き生きと嬉しそうなのがまた印象的です。

この世界の悪魔は、見た目は怖いけど、もの凄く人間味に溢れ、優しいのです。

そんな悪魔を含め、木こりや地主など、この絵本の登場人物たちは、みな感情豊かで魅力的です。

パンを返して、お詫びをしようとする小さな悪魔に、優しい木こりは「パンを返してくれれば、それでけっこう」と笑って言います。

それに対し、「それでは困る」と、小さな悪魔は泣き出してしまいます。

それを見て、木こりは仕事を考えてくれます。

反対に、せっかく実った麦が、地主に持っていかれて時は、木こりがへたり込み泣き出してしまいます。

そこで、今度は小さな悪魔が励ましてくれるのです。

他にも、沼を麦畑に出来るか聞かれ、「できます、できます」と元気いっぱいに答えるなど、その時の登場人物たちの喜怒哀楽がとても素直に読み取れるのです。

だからこそ、キャラクターに感情移入できるのだと思います。

また、成し遂げるためにしっかり苦労するのも、この絵本の面白くて素敵なところです。

沼を麦畑に変えると言っても、悪魔の魔法で変えるわけはありません。

小さな悪魔が木を一本ずつ抜き、沼の水は飲み干します。

地面は耕し、麦を蒔きます。

広大なので、木こりも一緒に種蒔きします。

二人で力を合わせ、苦労して作ったから、出来上がった時涙を流して喜んだのです。

そして、苦労したからこそ、読んでいる人にもその達成感が伝わり、地主に持っていかれた時の悲しみや、絶望感が親身に感じられるのです。

これは物語の最後まで貫かれ、悪魔の指先一つで解決することはありません。

それがこの絵本を輝かせる、とても素敵なところだと思います。

元気で優しい悪魔と、穏やかで優しい木こり。

この二人が二人三脚で大きな喜びを達成する、優しさと元気をくれる昔話絵本です。

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