文:コルネーリア・フンケ 絵:ケルスティン・マイヤー 訳:あさみしょうご 出版:WAVE出版
グラグラした歯は、大きくなった証。
抜けるのが、とっても待ち遠しい。
でも、遊んでいる時に歯が抜けて、そのままなくなってしまったから、さあ大変です!
あらすじ
お姉ちゃんのアナの歯は、三日前からグラグラしていました。
アナは「抜けた歯を、枕の下に置き寝ると、翌朝、歯の妖精がプレゼントをくれる」と、楽しみにしていました。
前の歯が抜けた時もそうだったからです。
アナが弟のベンにその話をすると、ベンは海賊にもグラグラの歯があるかを聞きました。
ベンは海賊ごっこが大好きだったからです。
アナは、「海賊にもあるかはわからないけど、ベンはもう少し大きくならないとグラグラにはならない」と、答えました。
話が終わると、二人は海賊ごっこを始めました。
しかし、海賊ごっこをするうちに、ベンがアナのお茶会セットなどをひっくり返してしまいました。
アナはベンに「赤ちゃんみたいなことをしないで!」と言いました。
これがいけませんでした。
ベンは、赤ちゃんと言われるのが大嫌いだったのです。
怒ったベンは、無茶苦茶に暴れました。
逃げるアナ。
その時、アナはぬいぐるみにつまずき転んでしまいました。
そして、気が付くと歯がなくなっていたのです。
アナは泣き出しました。
部屋を探しますが、散らかり過ぎて見つかりません。
その騒ぎを聞きつけて、ママがやってきました。
事情を伝えると、ママはベンも一緒に探すよう言いました。
でも、ベンは「嫌だ」と言い、ロフトベッドの下に座り込みました。
ママはアナと2人で、ひとまず部屋を片付けることにしました。
やっと部屋が片付きましたが、歯は見つかりません。
そこでママは「おもちゃの歯を枕の下に入れてみてはどうか」と提案しました。
アナは少し不安でしたが、やってみることにしました。
そして、ベンとはチョコレートで仲直りすることに。
アナとベンは、無事仲直り出来るのでしょうか?
また、おもちゃの歯でも妖精は来てくれるのでしょうか?
『きえたぐらぐらのは』の素敵なところ
- 歯が抜ける、誇らしさと嬉しさが詰っている
- アナとベン、両方の気持ちに寄り添った解決法
- 物語以外の楽しさが詰った絵
歯が抜ける、誇らしさと嬉しさが詰っている
この絵本には、歯が抜ける嬉しさが詰まっています。
それは大きくなった誇らしさと、妖精からのプレゼントという楽しみがあるからでしょう。
物語の中でも、何度も口の中を確認したり、歯を下で触ってみたりと、抜けるのが待ちきれない気持ちが伝わってきます。
同時に、ベンがとても羨ましそうにしいる姿から、小さい子からの歯が抜けることへの憧れが伝わってくるのです。
歯がグラグラすると、不安になる子もいますが、この絵本を読めば、歯が抜けるのが楽しみになるかもしれません。
アナとベン、両方の気持ちに寄り添った解決法
さて、そんな歯ですが、姉弟ケンカの最中に、なくなってしまいます。
いくら探しても見つかりません。
ベンは意地を張っているし、アナは落ち込んでいるしで、最悪の状況です。
そんな中でのお母さんの関わりが、この絵本のとても素敵なところです。
アナへはおもちゃの歯を提案し、アナの「妖精にばれないか」という不安や、弟への不満をしっかりと受け止めつつ、解決していきます。
特に、
「ちょっと乱暴な弟がいるのは、アナのせいじゃないでしょう?」
というセリフが、とても優しく素敵です。
これを聞いて、アナも、
「その通りだ。ベンがいるのは私のせいじゃない。誰かのせいだとすればママのせいだ。」
と、心が落ち着き、不満も薄らいでいきます。
また、ベンへもチョコレートでの仲直りを提案し、責めることはしません。
ベンの性格をわかっているからでしょう。
それに、歯が抜けることへの羨ましさがあったことを感じていたから、それ以上なにも言わなかったのかもしれません。
さらに、仲直りチョコレートの後の、ベンへの関わりも本当に素敵。
アナも、ベンも、今回のことが気持ちの成長に繋がっているだろうなと、思えるものになっています。
物語以外の楽しさが詰った絵
そんな優しく、素敵な物語ですが、面白さは物語だけではありません。
実は、その背後でこっそり行われている物語があるのです。
それが、部屋に散らかったぬいぐるみたち。
こっそり、自分たちで動いています。
お茶会のテーブルに、自分たちでお茶を入れ、姉弟の海賊ごっこを眺める。
海賊ごっこに巻き込まれたライオンを、おもちゃの救急車で救助する。
など、別の物語が展開されているのです。
ぬいぐるみに注目して、ページをめくっていくだけで、別の物語が楽しめてしまうほど、しっかり物語性があるところが素敵で面白いところです。
二言まとめ
歯がなくなる事件を通して、姉弟の心の動きがとてもよく見える。
もうすぐ歯が抜けるという、嬉しさと誇らしさと、それを見る羨ましさが詰っている絵本です。
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