作:長田弘 絵:大橋歩 出版:クレヨンハウス
大好きなネコとの別れ。
それはとてもとても悲しいもの。
でも、その悲しみの中で、希望の芽が顔を出しました。
あらすじ
一匹の、オレンジ色でしっぽが長いネコがいました。
そのネコは、花が好きなおばあさんのネコでした。
おばあさんは一人で暮らしていて、いつもネコと一緒でした。
おばあさんが、花の手入れをしながら話をすると、ネコはじっと耳をすまし聞いていました。
夜中になり、おばあさんがぐっすり眠る頃、ネコは外へと出かけます。
そして、いつも朝になると、どこから帰ってくるのです。
しかし、その日、ネコは帰ってきませんでした。
夜遅くなっても、ネコは帰ってきませんでした。
次の日の朝、おばあさんの家の前に、小さな女の子が立っていました。
腕に、死んだネコを抱いていました。
ネコは夜道を渡ろうとして、車にはねられたのです。
おばあさんはネコをそっと埋めました。
季節が過ぎていき、春になりました。
すると、ネコを埋めた庭に、小さな芽が顔を出しました。
小さな芽は、毎日ぐんぐん大きくなっていきます。
芽はすぐに、一本の立派な木に育ちました。
おばあさんが不思議な木を見上げると、生い茂る緑の葉の中に、一つだけオレンジ色の実がなっているのを見つけました。
ある朝、その実が木から落ちて・・・。
『ねこのき』の素敵なところ
- ストレートに伝わってくる死の悲しさと残酷さ
- 死を悼む静けさ
- 最後に残してくれた一つの希望
ストレートに伝わってくる死の悲しさと残酷さ
この絵本で特徴的なのは、死をとてもストレートに伝えていることです。
絵本では親しい相手の死を「いなくなった」、「お星さまになった」、「もう会えない」などの、隠喩で表すことが多いです。
そんな中、とてもストレートに「死んだネコ」と、表現されるこの絵本は、目の前に死というものを突き付けてきます。
その悲しさ、突然の残酷さ、嫌でも死というものを実感させられるのです。
でも、だからこそ、おばあさんの悲しい気持ちに共感し、寄り添うことにも繋がります。
死をふわっとさせず、色濃く描いたからこそ、「死」というテーマに深く向き合わせてくれるのです。
また、この悲しみを強く感じられるのには、おばあさんとネコの仲の良さも丁寧に描かれているという背景があります。
いつもの楽しく穏やかな日常。
おばあさんとネコとの関わり。
そんな当たり前の幸せが、冒頭でしっかりと描かれているからこそ、唐突にその日々が終わることがこれほど悲しいのです。
死を悼む静けさ
そして、この悲しみは、死を悼む、独特の静けさとなって現れます。
この絵本の冒頭はとても賑やかです。
「ネコちゃんかわいいね!」
「ほんとにしっぽ長い」
「仲良しだね~」
と、おばあさんとネコの暮らしを微笑ましく見ています。
けれど、ネコが死んだところから、空気は一変します。
誰もしゃべらず、ただ絵本を見つめ、話をじっと聞いているのです。
普段、シリアスな場面でもお構いなくしゃべる子も。
面白くて集中している、ワクワクとした静けさともまた違う。
お葬式の時のような、死を悼む静けさが現れるのです。
真剣に死と向き合う時間をくれることが、この絵本の本当に素敵なところだと思います。
最後に残してくれた一つの希望
ただ、悲しみに暮れて、終わるわけではありません。
ネコは最後に、一つの希望の芽を遺してくれました。
ネコを埋めたところから芽吹いた芽。
やがて木になり、オレンジ色の実を一つだけ実らせます。
その正体がとても素敵で、優しくて、希望に満ちたものになっています。
明確になんなのかは語られません。
色々な想像ができる最後になっています。
でも、一つ確実なのは、あんなに悲しそうだったおばあさんが、笑顔になっていることです。
ネコの気持ち、おばあさんの気持ち、不思議な木の意味。
死と合わせて、そういうところを想像させ、考えさせてくれるのも、この絵本の素敵なところです。
二言まとめ
ネコの死と、おばあさんの悲しみを通して、死の悲しさと残酷さに直面させられる。
悲しみと同時に、遺された希望に優しさや、温かさも感じられる絵本です。
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