原作:マージェリィ・W・ビアンコ 絵・抄訳:酒井駒子 出版:ブロンズ新社
おもちゃたちの間には、一つの言い伝えがありました。
それは、「心から大切にされたおもちゃは、本当のものになる」というもの。
あるウサギのぬいぐるみも、本当のものになりたがりました。
でも、「本当のもの」が何なのかは、わからないのでした。
あらすじ
最初、ビロードで出来たおもちゃのウサギは、クリスマスプレゼントとして、ぼうやの家へやってきました。
ぼうやは大喜びで、ビロードのウサギを抱っこしたり、話しかけ遊びましたが、他のプレゼントをもらうと、そちらに夢中になって、ビロードのウサギのことは忘れてしまいました。
ビロードのウサギは、おもちゃ棚や部屋の隅っこで暮らすようになりました。
おもちゃ棚では、機械仕掛けの高いおもちゃたちが「自分こそ本物だ」「本物そっくりだ」と自慢していて、ウサギのことをバカにしていました。
ウサギは自分のことを恥ずかしく思いました。
たった一人、ウマのおもちゃだけは、ウサギに優しくしてくれました。
ウマはこの部屋で一番古く、ボロボロでしたが、その目はとても賢そうでした。
ある日、ウサギはウマに、「本物ってどういうこと?」と聞いてみました。
するとウマは「本物とは、長い間子どもの本当の友だちになったおもちゃがなるものだ。」と言いました。
ある晩、ぼうやといつも一緒に寝ている、イヌのおもちゃがなくなりました。
お手伝いさんのナナは、イヌを探しましたがめんどくさくなり、ビロードのウサギを代わりに渡しました。
その日から、毎晩ウサギはぼうやと寝るようになりました。
ぼうやはいつも優しくて、一緒に遊んだり話しかけてくれました。
春になると2人で庭に出て遊び、楽しい時間を過ごしました。
ぼうやは、ウサギのことを「おもちゃじゃなくて、本当のウサギなの」と言ってくれ、ウサギはそれをとても嬉しく感じていました。
素晴らしい夏、ぼうやとウサギは、森に出かけていました。
ぼうやが遊んでいる間、ウサギは草のベッドに座らせてもらっていました。
そこへ2匹の本物のウサギがやってきました。
でも、ビロードのウサギには、それが本物のウサギだとはわかりません。
ウサギたちは、ビロードのウサギを仲間だと思い遊びに誘いましたが、ビロードのウサギはネジがついていないことを知られたくなかったので、断り続けました。
そのうち、ウサギたちはビロードのウサギがおもちゃなのに気付き「本当のウサギじゃないんだ」と言って、どこかに行ってしまいました。
時は過ぎ、ビロードのウサギは古く、ボロボロになって行きましたが、ぼうやにとっては素晴らしいウサギでした。
ウサギもそれが幸せでした。
そんなある日、ぼうやが病気になりました。
高い熱が何日も続きました。
ウサギはずっとぼうやの側にいて、一緒に遊んだ素晴らしい日々のことを話し続けました。
長い時が過ぎて、ぼうやの熱は下がりました。
ぼうやは静養のため、海辺の家で暮らすことになりました。
ウサギは自分も海に行けると思い、ワクワクしました。
しかし、医者から部屋を消毒し、ぼうやが触ったものは、全て焼くように指示がありました。
ゴミ捨て場に捨てられてしまったウサギ。
こんな風に終わりが来るとは思ってもみませんでした。
明日になれば焼かれてしまいます。
このまま、ビロードのウサギは焼かれてしまうのでしょうか・・・。
『ビロードのウサギ』の素敵なところ
- ぼうやとウサギの素晴らしく幸せな日々が、とても丁寧に描かれる
- 本物への葛藤と、子ども部屋の魔法
- 最後の場面で感じる安堵感
ぼうやとウサギの素晴らしく幸せな日々が、とても丁寧に描かれる
この絵本を見て、なにより心温まるのは、ぼうやとウサギの素晴らしい日々でしょう。
一緒に寝るようになり、布団で「ウサギの穴」を作ってくれたりして、楽しそうに遊ぶ様子。
春になり、庭で手押し車に乗せてもらったり、おやつを食べたりと仲良く遊ぶ日々。
夏になり、毎日一緒に森へ出かけ、長い時間遊ぶ姿。
など、2人の幸せそうな日常が、丁寧にたっぷりと描かれます。
その中には、お手伝いさんのナナがウサギを雑に扱い、それに対しぼうやが怒るなど、ぼうやとウサギの絆を感じるエピソードも描かれていて、2人の結びつきをより強く実感できるのです。
また、段々とボロボロになっていくウサギの姿も、長い時間を一緒に過ごしてきたことを感じられるところです。
見た目はボロボロになっていきますが、心は幸せになっていく様子に、ぼうやがどれだけウサギのことを大切にしているかが伝わってきて、胸がとても温かくなるのです。
この丁寧にたっぷりと描かれる日常があるからこそ、その結末にとても心揺さぶられ、感情移入できるのでしょう。
本物への葛藤と、子ども部屋の魔法
この絵本には、幸せな日々の中に、一つの葛藤も描かれます。
それが「本物になる」というもの。
子ども部屋では、動いたり見た目がリアルなおもちゃが「本物そっくり」だと威張ります。
子ども部屋でささやかれる、「子ども部屋の魔法」でも、本当のものにしてくれると言います。
でも、ウサギには「本物」がなにかわかりません。
本物のウサギをと出会ってもわからないくらいです。
ただ、それが素晴らしいものだと感じ、憧れる気持ちはあります。
そこに、
ぼうやの「本当のウサギなの」という言葉
本物のウサギたちの「本当のウサギじゃないんだ」という言葉
子ども部屋の魔法の「心から大切に思われたおもちゃは本当のものになる」という言い伝え
などが、絡み合い、ウサギに葛藤が生まれます。
同時に、「本物なら幸せなのかな?」という疑問も。
だって、ぼうやと一緒にいるウサギは、本物じゃないけど幸せそうなのです。
最後の場面で感じる安堵感
さて、そんな幸せな日々も終わりを迎えます。
ぼうやとのお別れは突然やってきたのです。
その結末は、幸せなような、物悲しいような、寂しいような・・・。
とても複雑な気持ちになるものでした。
けれど、最後のページの、一番最後の一言に、とても心が救われるのです。
「これでよかったんだろうな」
「きっと幸せなんだよ」
そんな気持ちにさせてくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
ビロードのウサギとぼうやの、幸せで温かな日々を見ていると、自分の心も温かくなってくる。
それと同時に、いつかは来る大切なおもちゃとの別れを描いた、色々な感情が揺さぶられる絵本です。
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