トーキナ・ト(5歳~)

絵本

文:津島佑子 刺繍:宇梶静江 構成:杉浦康平 出版:福音館書店

これはアイヌの神話です。

幸せに暮らしていた、フクロウの神様兄妹。

ある日、妹が魔物にさらわれてしまいます。

兄の目も届かない場所で助けてくれたのは?

あらすじ

静かな美しい人間の村がありました。

そこでは、フクロウの神に見守られ、みんなが幸せに暮らしていました。

フクロウの神様には妹がいました。

人間の目にはフクロウにしか見えませんが、本当の姿は人間そっくりで、人間と同じように暮らしています。

ある日、兄が山に出かけ、妹が留守番をしていた時。

なにか嫌なものが家へ近づいてきました。

それは真っ黒なひょろひょろぼうず。

ひょろひょろぼうずは、妹を海にあった船に乗せると、遠くへと漕ぎ出してしまいました。

船は村からどんどんと離れて行きます。

鳥の羽の海を越え、嵐のような竹の海を越え・・・。

ついに、世界の果ての雲の門までやってきました。

人間や生き物の世界はここで終わり。

この先に行ったらもう帰れません。

妹はぶるぶると震えました。

泣いても泣いても助けはきません。

ひょろひょろぼうずが、妹を担いで高い山を登っていきます。

登る途中、ばけものたちが次から次へ現れます。

ひょろひょろぼうずが、真っ暗な穴に入っていくと、たくさんの化け物たちの目が光ります。

そして、最後の広い部屋につきました。

そこは囲炉裏の火が燃え盛る部屋でした。

ひょろひょろぼうずが、妹を囲炉裏の側に降ろすと、妹はもうくたくたで気を失って今いました。

しばらくして、大きく恐ろしい笑い声で目を覚ました妹。

目の前にいたのは、山のような大きな魔物でした。

ひょろひょろぼうずが、魔物へあいさつしています。

その魔物は魔王でした。

魔王の命令で、妹を連れてきたのだというのです。

魔王に捕まって、何日も過ぎた日のこと。

轟音とともに、白い靄がやってきて、妹を抱き上げました。

誰かが助けに来てくれたのです。

白い靄は、魔王も洞穴も山も、あっという間に地獄へと落としてしまいました。

そして、妹を懐かしい村へと戻してくれたのでした。

妹は気付きました。

助けてくれたのは、半分神様、半分人間の年若い英雄アイヌラックル様だと。

さて、帰ったきた妹を見て、お兄さんは大喜び。

でも、なにか隠し事があるみたいです。

一体何を隠しているのでしょうか?

『トーキナ・ト』の素敵なところ

  • 胸が熱くなる王道の英雄譚
  • 妹の主観で描かれる臨場感のある物語
  • 刺繡だからこその、立体感と魔物の不気味さ

胸が熱くなる王道の英雄譚

この絵本のなによりおもしろいところは、王道ゆえの熱い展開でしょう。

桃太郎のような勧善懲悪のわかりやすい物語。

女の子がさらわれて、もうだめだと思ったところで助けに来る安心感。

そして、純粋な英雄のかっこよさ。

そんな王道の物語のおもしろさや、熱さが詰まっています。

余計なことを考えず、夢中になれるシンプルな物語が、この絵本のとても素敵なところです。

妹の主観で描かれる臨場感のある物語

また、そんな英雄譚をよりおもしろく、ハラハラドキドキしたものししてくれるのが、その物語の描き方です。

この絵本は、ずっと妹の一人称視点で進んでいきます。

「わたし」から見た物語なのです。

だからこそ、村や人々、生き物や兄への愛情が伝わってきます。

同時に、さらわれる怖さや、家から遠ざかっていく不安。

雲の門から出てしまう恐怖。

化け物たちへの怖さ。

なども、生々しく語られます。

「この先に行ったらもう帰れない。ぶるぶるがたがた、私は震えます。」

「ああ、怖い。怖くて怖くて息が止まりそう。」

と、感情がストレートに伝わってくるのです。

その気持ちが伝わってくるからこそ、自分が妹の立場で不安な気持ちになっているからこそ、最後にアイヌラックル様が助けに来る場面が、輝いて見えるのでしょう。

そして、助かった後の喜びにも、強く感情移入でき「よかった~」と思えるのでしょう。

英雄ではなく、さらわれる妹を中心に描いているのが、この絵本のとてもおもしろく魅力的なところです。

刺繡だからこその、立体感と魔物の不気味さ

さて、そんな物語は、絵ではなく刺繍で描かれます。

この刺繡が独特の立体感を生み出していて、この物語とぴったりなのも素敵なところ。

神話という、普通の昔話とも少し違う特別感が感じられたり、鳥の羽の海や竹の海など、この物語独特の世界観が本当にそこに存在しているように見えてきます。

きっと、この神話の雰囲気は刺繍だからこそ表現できたものでしょう。

また、この立体感が一番活きているとおもったのは、化け物たちの不気味さです。

姿かたちの不気味さだけでなく、刺繍ならではの立体感があるからでしょう。

ページから浮かび上がるような怖さがあるのです。

今にも飛び出して来そうで、動き出しそうな躍動感と立体感。

これが本能的な怖さを感じさせてくれ、魔物の国がおどろおどろしく、生き生きとしたものにしているのです。

二言まとめ

さらわれた姫を英雄が助けるという、シンプルゆえに熱い王道の英雄譚。

さらわれた姫の目線で描かれることで、より物語に入り込めるところがおもしろい神話絵本です。

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