作:レオ=レオニ 訳:谷川俊太郎 出版:好学社
小さくか弱い魚たち。
大きな魚にはとてもじゃないけど、かないません。
でも、スイミーだけは違いました。
いい案を思いつき、それを仲間たちに伝えると・・・。
あらすじ
広い海のどこかに、たくさんの小さな魚の兄弟たちが楽しく暮らしていました。
みんな赤い体でしたが、一匹だけ黒い体がスイミーです。
誰よりも速く泳ぎます。
ところがある日、恐ろしいマグロがスイミーたちの群れに突っ込んできました。
マグロは一口で、小さな赤い魚たちを一匹残らず飲み込んでしまいました。
逃げることが出来たのはスイミーだけです。
スイミーは泳ぎました。暗い海の底を。
とても怖く、寂しく、悲しい気持ちで。
けれど、泳いでいくうちに、海にある素晴らしいものに気付きました。
虹色のクラゲ、大きなイセエビ、見たこともない魚たち・・・。
それらを見ているうちに、スイミーは元気が出てきました。
そして、泳ぎ着いた岩陰で、スイミーは見つけたのです。
スイミーとそっくりな小さくて赤い体の兄弟たちを。
スイミーはみんなに、声をかけました。
「おもしろいものが一杯だから、遊びに行こう」と。
でも、みんなは断りました。
大きな魚に食べられてしまうからです。
けれど、じっとしているわけにもいきません。
そこで、スイミーはたくさんたくさん考えました。
そうして、一つの名案を思い付いたのです。
みんなで力を合わせないとできない名案を。
『スイミー』の素敵なところ
- 色々なものとの出会いで癒されていくスイミーの心
- 美しく、不思議で、魅力的に描かれた海の中
- 知恵と勇気で切り開く未来
色々なものとの出会いで癒されていくスイミーの心
この絵本で、最初にびっくりすることは、そのショッキングな物語の始まりでしょう。
楽しそうに遊んでいる魚の兄弟たちが、突如として全て食べられてしまうのです。
生き残ったのは一人だけ。
海の底を泳ぎながら悲しみに暮れる様子は、悲壮感が漂います。
それはそうでしょう。
一瞬ですべての家族を失ったのですから・・・。
でも、そんな中でも前を向けるのがスイミーのすごいところ。
前を向いたら、海の中は今まで気づかなかった素晴らしいものでいっぱいだと気付いたのです。
それらを、ひとつひとつ旅の中で見つけ、スイミーの心は癒されていきます。
このスイミーの心が、元気になっていくところを、1ページ1ページとても丁寧に描いているのも素敵なところ。
スイミーと一緒に長い時間をかけ、広い海を泳いでいるような感覚にさせてくれるのです。
家族を失った悲しみは、ちょっとやそっとじゃ癒えないはず。
きっと、ゆっくりと少しずつ元気になっていくからこそ、説得力があるのでしょう。
美しく、不思議で、魅力的に描かれた海の中
そんな海の中が、本当に美しく繊細に描かれているのも、この絵本の素敵なところです。
虹色のクラゲは、とても大きく幻想的。
イセエビはブルドーザーと言われている通り、すごい重厚感と存在感。
昆布やワカメの林なんて、光が透けて見える模様はアートそのもの。
一つ一つ、どれをとっても全く違う美しさ、不思議さ、おもしろさがあるのです。
ページをめくるたび、スイミーと一緒に楽しい驚きを感じられることでしょう。
また、生き物たちだけじゃなく、海そのものが美しいのも『スイミー』の特徴です。
海底に散らばる、色とりどりの貝殻や、色々な形の石。
場所によって、砂地だったり、砂利だったり、岩場だったりとロケーションも様々です。
水の色も違い、濃い青、淡い水色など場面によって違います。
海底で、スイミーが落ち込んでいる時などは、色を失い重たい白になっているなど、スイミーの心を映していたりもします。
こんな風に、神秘的な海の中を描く美しさも、この絵本のとても素敵なところです。
知恵と勇気で切り開く未来
さて、そんな美しい海の中を進んでいったスイミーは、ついに新たな兄弟と出会います。
でも、そのまま遊んでいたら前回の二の舞です。
そこで考え出したスイミーの作戦。
それは、スイミーたちの特徴を活かしたユニークなものでした。
体が小さく、小回りが利き、協力することが出来るスイミーたちだからこその作戦です。
大きな魚には、力では敵いません。
けれど、絶対に勝てない訳ではない。
知恵を絞って工夫をすれば、逆転できることもある。
そんなことをスイミーたちは伝えてくれます。
すぐに出来る訳でなく、たくさん練習したことが描かれているのも素敵なところ。
楽しいところ、大変だったところ、どちらも端折らず丁寧に描かれているからこそ、ものすごく感情移入できるのでしょう。
きっと、読み終わった時、スイミーと一緒に喜んでいると思います。
二言まとめ
小さな魚たちが、知恵と勇気で大きな魚に立ち向かう物語がおもしろい。
物語と同じくらい、海の中の美しさにも夢中になってしまう絵本です。
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