小食のAちゃんが給食を完食できるようになるまでの2年間【保育・教育・子育て・食育】

保育

お元気様です!

登る保育士ホイクライマーです。

みなさんは身近に小食の子っていますか?

量を食べられなかったり、食べるのに時間がかかり過ぎて完食までいかなかったり。

そんな子を見ると、「もっと食べさせなくちゃ」と頑張ったり、「どうしたら食べてくれるんだろう」と悩んだりする人も多いでしょう。

そこで今回は、ぼくのクラスにいた小食のAちゃんが、給食を完食できるようになるまでの実践記録を紹介していこうと思います。

もちろん、他の子にもこの実践がそのまま有効なわけではありません。

Aちゃんだったから、この方法で完食まで繋がったのだと思います。

ただ、その中には参考になる考え方もたくさん含まれていると思うので、そのままやってみるのではなく、相手の子に合わせて使える所は使ってみてください。

では、いってみましょう!

Aちゃんのプロフィール

体型は小柄でやせ型。

年中クラスで入園してきました。

ぼくは年中・年長の2年間、担任を持っています。

性格は慎重派で、初めての遊びや、仲が深まっていない相手には自分を出しきれず遠慮がち。

ですが、慣れてきたり、仲が深まると一気に積極的になり、よくしゃべるタイプでした。

人前での失敗は避けたがりますが、やる気はあり、影でこっそり練習していたりします。

食事は給食、おやつともに、かなりスローペースで、口に入れたものが中々飲み込めず、ゆっくりになってしまっているようでした。

給食おやつともに、半分食べられるかどうかという食事量です。

保護者は、前の保育園でも、1/3くらいしか食べられず、食事の心配はしていた。

クラスの食事ルール

時間:45分間

・しゃべったり、ゆっくり食べるのは自由だが、45分で食べ終わるようにペースを調整する。

・苦手なものは、どれが、どんな風に苦手で、どれくらい減らしたいかを伝えて、減らしていい。

・45分経ったら、かなり特別な理由がない限り、おしまいにする。

・おかわりできるのは30分まで

じっくり観察と実験

まずは、じっくりと観察することから始めました。

食事中にあまりしゃべるタイプでもなく、食べ続けているのですが終わらない様子。

見ていると、一口が小さく、一度口に入れてから飲み込むまでにも時間がかかっています。

そこで、Aちゃんに色々な食べ方を試してみてもらうことに。

  • 一口を大きくしてみる作戦→より飲み込むのに時間がかかり負担だけ増える
  • 5~10回噛んで飲み込んでみる作戦→咀嚼力と嚥下機能的に無理そう

この実験から、そもそも食事機能の発達と、食事量が合っていないことがわかりました。

結論:食事機能の問題を解決せず食べさせようとしても、お互いに疲れるだけで楽しくない

声をかけ続ければ食事量は増えるのですが、それではあまり意味がありません。

そこで、目標を「完食」から、「毎日半分は食べる」へ変えていくことにしました。

Aちゃんと無理のないルールを作る

目標が決まったら、Aちゃんとのすり合わせを行います。

「ご飯全部食べきれそう?」と聞くと、首を横に振るAちゃん。

「Aちゃんには、保育園のご飯多すぎる?」と聞くと、「うん」。

「じゃあ、全部は食べなくていいんだけど、半分くらいなら食べられる?Aちゃんは体も大きくなってて、たくさん遊ぶでしょ?半分くらいは食べないと、体にエネルギーが足りなくなって、遊んだり大きくなったりできなくなっちゃうと思うんだよね。半分食べれてれば、とりあえず大丈夫だからさ。」

と聞いてみると、Aちゃんも納得。

半分を食べ続けることを目標に決めました。

必要な時だけフィードバック

目標が決まったら、口うるさくなにかを言ったりはしません

それは相手を信用していないということになるからです。

その代わり、食べ終わりにフィードバックを行います

ルールを作りたての頃は、

  • 半分食べられていた→「自分で半分食べられたね!」
  • あと少しで半分だった→「あと少し、惜しかったね!明日はあと少し早くすれば食べられそう。」
  • 少ししか食べられなかった→「なんか苦手なのあった?」と理由を聞いて解決策を考える。

半分を安定して食べられるようになってきたら、

  • 半分食べた時→特に声はかけない
  • 半分以上食べ進めていた時→「ここまで自分で食べたの!?やっぱり前より食べられるようになったね!いっぱい食べたから、体も大きくなるんじゃない?」
  • 完食した時→「全部食べたの!すごい!」と胴上げの勢いで喜ぶ

また、半分を安定して食べられるようになると、余裕が出てきて、しゃべり過ぎて半分食べきれないことも出てきます。

その時は、「半分食べられた?今日のはAちゃんが少ししか食べられないから残しちゃったんじゃないよね?しゃべるのはいいけど、半分食べられないのは、栄養が足りなくなっちゃうから困る。」

と、しっかりフィードバックしましょう。

ただ、注意が必要なのは「しゃべらず完食させよう」としないことです。

Aちゃんとの約束は「45分で、半分食べる」その間の食べ方は自由です。

友だちとしゃべりながら、楽しく食べることも大事な食育

そこはフィードバックが必要なのかを見極めましょう。

続けていった結果とそこからの学び

この基本的なルールは変えず、2年間続けていきました。

途中、食事量の増加にともない、「7割食べきる」など、ルールの更新はありましたが。

その結果、年長クラスの中盤くらいから、完食できる日が増えていき、終盤には基本完食できるようになりました。

卒園間近では、食事量を小学校の給食と同量にしても、普通に完食できるほど。

それも、友だちと楽しくしゃべりながらです。

このAちゃんとの2年間から学んだことが二つあります。

一つ目は、「完食にこだわらず、お互い気軽に向き合った方がいい」ということ。

食事のたびに、プレッシャーが発生していては、美味しいものも美味しくなくなってしまうでしょう。

食事は毎日のことです。

頑張らなくても、達成できたりできなかったりぐらいのゆるさが丁度いい気がします。

相手の胃袋の大きさや、空腹感や満腹感なんて、正確に知ることはできませんしね。

二つ目は、「食育には食事以外の要素が重要」ということです。

Aちゃんは、最終的に咀嚼力も、嚥下機能もしっかり発達しました。

なんなら、箸も上手に使い、完食するようにもなりました。

ただ、そのための特別なトレーニングなどはしていません。

友だちとよくしゃべるようになり、お絵描きや工作で手指を使い、外でたくさん走り・・・。

そんな別のところでの発達が、食事機能の発達や意欲へ繋がっている気がしてなりません。

食事以外もそうですが、乳幼児は一つのカテゴリーだけで発達が完結することはありません。

どこかのカテゴリーでつまづいたら、そこにこだわり過ぎず、他のことをした方が、最終的にうまくいくことも多いのではと思います。

時間でしか解決できないことだってあるでしょう。

そういう意味でも、「ゆるすぎるかな?」くらいの取り組み方でいいのかもしれません。

頑張り過ぎて、嫌いにしてしまっては元も子もありませんからね。

友だちの力

また、友だちの力も非常に大きいと感じました。

Aちゃんが小食なのを、みんな理解していたようで、残したことを悪く言う子はいませんでした。

むしろ、仲良しの子たちなどは、大体の食事量をわかっていて、いつもよりたくさん食べている時には「Aちゃん、いつもよりいっぱい食べてるね」と、声をかけてくれていたのです。

さらに、クラスの中で、他の子と一緒に「ごちそうさま」をするのが流行っていた時のこと。

Aちゃんが完食できそうな時に、「もうちょっとで終わりそうだから待ってよう」と、Aちゃんの食べ終わりを待っていてくれる子がいました。

その姿を見て、憧れの「一緒にごちそうさま」をするため、頑張るAちゃん。

一緒に「ごちそうさま」をできたときとは、本当に嬉しそうでした。

そのことは、自信や励みになったようで、そこからまた「一緒にごちそうさま」をするため、食べる意欲にも繋がるポジティブループとなっていました。

友だちから認められたり、一緒に食べることは、他のどんな励ましや言葉よりも、きっと大きな影響力を持っているのでしょう

その子だけでなく、クラス全体が楽しい雰囲気で食事をできる環境であることも、非常に重要だと思います。

保護者と常に情報共有

さて、ここまでAちゃん自身との関わりについて見てきました。

本人との関わりはもちろん重要です。

ですが、もう一つ絶対に忘れてはいけないことがあります。

それは、保護者との連携です。

今回、観察や実験の結果、現状の食事機能発達の見立てなどを、すべて保護者に伝え、家庭での様子を聞き情報を共有、すり合わせをしていきました

その中で、Aちゃんとやっていきたいルールや、進め方、予測などを伝え、了解を得てから始めます。

やり始めたら、始めのうちはその様子を、ある程度したら変化があった時に伝えていきます。

その経過を見て、進め方に変更がある場合は、それまでの経緯を保護者に伝え、新たな方法や見立てを伝え・・・。

といった感じで、保護者と常に情報を共有していくのです。

こうすることで、保護者も見通しを持てて安心すると同時に、家庭での食事状況や変化も伝わってきやすくなります。

なにより「完食」という大きすぎる目標を達成しなくても、少しずつ食べられるようになっていくたび褒める機会となります。

これは、子どもも保護者も「食べられない」から「食べられるようになっていく」という、ポジティブな考え方への変化に繋がっていきます

マイナスから0へ向かっていくのか?0から100へ向かっていくのかでは、取り組みへの意欲がまったく違ってくるでしょう。

だからこそ、細かな情報共有と、見通しを伝えることが必要不可欠なのです。

まとめ

いかがだったでしょうか?

今回は、実際にぼくが関わった小食のAちゃんに関する実践記録をお伝えしてみました。

具体的な実践記録をお伝えすることで、

「食育の考え方や理想はわかっているけれど、そんなこと言ったって目の前の子は食べてくれないし、食への興味がなさ過ぎる」

そんな悩みを持っている方の参考になれば幸いです。

Aちゃんの場合は完食までいきましたが、食育の目標は「完食」ではありません。

「楽しく食べること」です。

「大人に励まされ続けながら完食できる子」と、「なにも言われなくても7割くらい食べられる子」。

どちらが、食べる力があると言えるのでしょう?

この食育の最重要目標は見失わないようにしてください

周囲が解決してくれることもあるし、時間が解決してくれることもあります。

どうか、視野が狭く、固まってしまわないよう気を付けてください。

意外とどうにかなりますから!

最後まで見ていただきありがとうございました!

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