作:重森千佳 出版:フレーベル館
いつも童話では悪者のオオカミ。
でも、最後にはいつも痛い目を見ています。
そんなオオカミが、もしも童話の内容を知っていたら・・・。
あらすじ
昔、オオカミは、ばあちゃんに絵本を読んでもらった。
どの絵本も「オオカミに気を付けて」と言うけれど、怖いのはやつらの方だと思っていた。
オオカミの腹に石を詰め込む子ヤギや赤ずきん。
大きな鍋でオオカミを煮て食う子ブタ。
ばあちゃんはいつも言っていた「オオカミだって気を付けて」と。
腹ペコのオオカミは、森へ狩りに出かけた。
すると、3匹の子ブタの兄弟が歩いている。
オオカミがすかさず絵本を確認していると、子ブタたちはヤギのお母さんと話し出した。
ヤギのお母さんの話を聞いてみると、子どもたちが家で留守番しているとのこと。
オオカミは先に子ヤギを食べに行くことにした。
オオカミはチョークと小麦粉を持って、子ヤギの家へ。
最初からチョークを食べ、小麦粉を手にぬって、ヤギのお母さんになりすます。
絵本を見直し、7匹目の子ヤギまで食べれば、ヤギのお母さんに告げ口されないことを確認する。
念のため、子ヤギが何匹いるか窓からのぞいてみると、さあ大変。
子ヤギたちがみんな首からハサミを下げているではないか。
オオカミに食べられても、お腹の中から切って出られるようにということらしい。
それを見たオオカミは、子ヤギは諦め子ブタの家へ。
けれど、オオカミが子ブタの家へ向かう途中、赤ずきんの女の子を発見。
オオカミは先に赤ずきんちゃんを食べることにした。
赤ずきんちゃんに声をかけると、絵本と同じでおばあちゃんのところにお見舞いに行くという。
早速、オオカミは道草をさせようと花摘みに誘うが、ワインが重いからと断られてしまった。
そこで、機転を利かせ、オオカミが荷物を運んであげると言うと、やっと赤ずきんちゃんは道草をしてくれた。
赤ずきんちゃんはオオカミを見送りながら、荷物が壊れないよう、走ったり転んだりしないようにと念を押したのだった。
オオカミは気を付けながら、やっとのことでおばあちゃんの家に辿り着いた。
そして、「赤ずきんよ。開けてちょうだい」と戸を叩くと・・・。
果たしてオオカミは、お腹いっぱいになることができるのでしょうか?
『おおかみだってきをつけて』の素敵なところ
- ちゃんとしたオオカミによるオオカミ目線
- ネタバレありきの攻防
- おもしろさを引き出す童話のあらすじ
ちゃんとしたオオカミによるオオカミ目線
この絵本のおもしろいところは、オオカミの目線で童話の世界が進んでいくことでしょう。
オオカミ目線で童話を見る形の場合、オオカミを弱者や優しく描くことが多いのですが、この絵本は一味違います。
童話と一緒で、オオカミは狩る側なのです。
子ブタも子ヤギも赤ずきんも、しっかりと食べる対象になっています。
むしろ、童話の中より念入りに準備して、計画を立てている分、より怖い存在になっているまであります。
このオオカミらしさをしっかりと持ったうえで、子ヤギたちにしてやられてしまうのがこの絵本ならではの魅力。
最初は、子どもたちも童話と同じく、
「オオカミ悪いやつじゃん!」
「食べようとしてる!」
「気を付けて!」
と子ヤギたちの味方です。
しかし、オオカミの何をしても上手くいかない感じと、滲み出る人の好さから、徐々にオオカミを応援する声が。
このオオカミがオオカミらしくオオカミのままで、子どもたちを味方につけてしまうのが、この絵本のすごいところなのです。
ネタバレありきの攻防
また、童話の結末まで全て知った上での攻防も、この絵本の見どころです。
最初はオオカミだけが知っていて、かなり有利な状況かと思いきや、子ヤギや子ブタや赤ずきんちゃんも知っている様子。
そりゃ、絵本になっているくらいですから、子ヤギたちが読んでいても不思議ではありません。
結末を知っていて、対策をするオオカミ。
でも、相手もハサミを首から下げて、食べられる対策をしたりしているので、結局食べられず。
そんな、ネタバレを知っているうえでの攻防が、童話に慣れ親しんだ子ほどおもしろいのです。
童話と同じなのに、童話と違う「もしも」の物語。
いつもの「当たり前」から、飛び出すことができるおもしろさがこの絵本のとても素敵なところです。
おもしろさを引き出す童話のあらすじ
さて、そんな童話のメタ的なネタが豊富なこの絵本。
そのおもしろさを十二分に味わうには、もとの童話がしっかりと頭に入っている必要があります。
そこでとてもありがたいのが、表紙を開いた見開きに、『さんびきのこぶた』『おおかみと七ひきのこやぎ』『あかずきんちゃん』の童話のあらすじが載っているところ。
8コマ漫画のように、絵で始まりから終わりまで、とてもわかりやすく童話の復習ができます。
これを見て、思い出してから見るのと、うろ覚えで見るのでは、この絵本の楽しさはかなり変わってくるでしょう。
読み聞かせの時などにもとてもありがたい要素です。
元ネタありきの特殊な物語を、誰もがより楽しめるための配慮がされているのも、この絵本のとても素敵なところだと思います。
二言まとめ
童話の世界を知った上での、オオカミと子ヤギたちによる新たな攻防が新鮮で楽しい。
童話に慣れ親しんだ子ほど、その展開の違いにニヤリとさせられる絵本です。
コメント