作:市居みか 出版:小峰書店
ろうそくの火が消える前に、ある場所へ向かう男の子。
でも、途中で何度も呼び止められ、火をわけることに。
そのたび、ろうそくは短くなって・・・。
あらすじ
男の子は、一本のろうそくに火をつけて、夜の道を急ぎます。
今日は大事な日なのです。
男の子が急いで走っていると、突然誰かに「火を貸してくださいな」と呼び止められました。
それは焚火を囲むネコたちでした。
男の子が焚火に火をつけると、辺りは明るくなり、焚火にくべた魚からはいい匂いがしてきました。
男の子はネコたちに別れ告げ、ろうそくが短くなる前に先を急ぎます。
するとまた「火を貸しておくんなさい」と誰かに呼び止められました。
それは花火をしているクマの親子でした。
男の子は花火に火をつけてあげました。
クマの親子にも別れを告げ、男の子は先を急ぎます。
ろうそくは短くなってきています。
とそこへ「火を貸してくれんかの」と誰かの声が。
それは絵を描いているヤギでした。
ランプに火をつけてくれというのです。
ランプに火をつける男の子でしたが、そのまま絵のモデルまですることに。
ろうそくはもうなくなりそうなほど小さくなってしまっています。
果たして、男の子は大事な日に間に合うのでしょうか?
そして、大事な日とは一体・・・?
『ろうそくいっぽん』の素敵なところ
- 短くなっていくろうそくの焦燥感
- 道中に出会う色々な火
- 火が消えたから見えるもの
短くなっていくろうそくの焦燥感
この絵本のおもしろいところは、「間に合うかな!?」という焦燥感でしょう。
目的地は決まっていて、そこですることも決まっている男の子。
後はろうそくを持って辿り着くだけ。
でも、そこには制限時間があります。
そう、ろうそくの火が消えるまでに着かなければいけません。
呼び止められるたび短くなっていくろうそくは、まさに目に見える制限時間なのです。
短くなるほど時間がない。
男の子は焦ります。
子どもたちも、
「さっきより短くなってる!」
「急がないと!」
「もうあとちょっとしかない!!!」
と一緒に焦ります。
この「間に合うかな!?」と本気で思わせてくれるところが、この絵本のとてもおもしろくて素敵なところ。
目的地が見えてきた時の盛り上がりは、まるでマラソンのゴールシーンのようですよ。
道中に出会う色々な火
そんな、急がなくてはいけない道中に、色んな動物が声をかけてきます。
その動物たちは、みんな「火を貸してほしい」と言ってきます。
ですが、その理由は様々。
焚火に、花火、ランプの火。
ろうそくの火は様々な火に変身します。
この小さな一つの火から、色々な違う火が生まれるのも、この絵本の素敵なところ。
火の持つ分けられたり、色々な火に変化するおもしろさを感じさせてくれるのです。
焚火では、一本のろうそくの小さな火とは思えない、大きな炎が上がり、辺りを照らして魚も焼けます。
花火は色とりどりの美しい花を咲かせ、
ランプがあれば絵を描くこともできてしまう。
火の可能性や多様性、便利さを感じさせてくれます。
最初の弱々しいろうそくの灯からは考えられない変化でしょう。
火が消えたから見えるもの
さて、このろうそくには、大事な日の大事な仕事が待っています。
それはあるものに火をつける仕事です。
これがなければ大事な日が始まらない、みんなよく知っているものに火をつけます。
その光景が壮観で、まさに大事な日の特別なイベントといった様子。
目の前いっぱいに広がる火が、大事な日に集まった動物たちを明るく照らし出します。
ですが、これで終わらないのも素敵なところ。
火が消えた時真っ暗になるのですが、真っ暗だからこその明るさに気付くのです。
道中からここまで火のすごさと素敵さを感じてきた男の子と子どもたち。
けれど、火がないからこその素敵な光景もあること、明るいものは火だけではないことに気付かされます。
その光景は大事な日の明るい火に負けないくらい、美しくて壮観です。
火の便利さや美しさとともに、火のない自然の明るさや美しさも描き出しているのも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
どんどん短くなっていくろうそくの、「間に合うか!?」というギリギリ感がおもしろい。
火の明るさや便利さと一緒に、火を消したからこその明るさや美しさも感じさせてくれる絵本です。
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