作:松岡たつひで 出版:福音館書店
人間にとっては小さな紙飛行機。
ですが、虫やカエルにはまるで大型ジェット機です。
さあ、拾った紙飛行機に乗って、空中散歩にでかけましょう。
あらすじ
ある日、池の中で一匹のカエルが、蓮の葉の上に飛んできた紙飛行機を見つけました。
トンボやカエル、イモリなど、友だちに手伝ってもらい、池の水で濡れないように陸地まで運びます。
カエルはあまがえる旅行社に戻ると、紙飛行機へ尾翼や座席を作って改良したり、発射台を作ったりと、空中散歩の準備をします。
そして、家族みんなでとちの葉を集め、紙飛行機を使った空中散歩のチラシを作り、森中にばらまきました。
しばらくすると、チラシを見たお客さんが集まってきました。
紙飛行機に乗り込み、早速空へ飛び立ちます。
発射台で打ち上げられた飛行機は、みるみる上昇し森の上空へ。
木や川がとても小さく見てます。
いつもは見られない景色に乗客たちは大喜び。
そこへ、2匹のカナブンが飛んできて、紙飛行機の両翼へ一匹ずつとまりました。
空中散歩の間、プロペラの代わりをしてくれるカナブンたちです。
紙飛行機はぐんぐん昇り、ついに雲の近くまでやってきました。
と、その時。
アマツバメに囲まれてしまいました。
そこは、アマツバメのエサ取り場だったのです。
アマツバメのエサは、まさに空中散歩の乗客たち。
ですが、そこへオオタカが現れ、アマツバメを追い払ってくれました。
と思ったのですが、オオタカの目的は、アマツバメを捕まえに来ただけ。
オオタカはアマツバメを食べるのです。
空の上も怖いなあと思いながら、紙飛行機はその隙に逃げていったのでした。
紙飛行機は少し高度を下げ、ほおの木の花でひとやすみすることに。
カエルいわく、ほおの木の花は森で一番臭い花とのこと。
どんな匂いなのか聞くと、バニラアイスのような臭いがするそう。
そんな美味しそうな匂いがするならと、乗客たちは制止も聞かず、花へ近づき・・・。
その強すぎる臭いに、ひっくり返ってしまったのでした。
気を取り直し、空へ飛び立つ紙飛行機。
しばらく飛ぶと、お昼ごはんの時間です。
カナブンに、どこかお昼ごはんにいい所はないかと聞くと、ウワミズザクラがいいと教えてくれました。
カナブンは、この森の美味しい花をたくさん知っているのです。
ウワミズザクラに着くと、ダンゴムシは花粉を、テントウムシはアブラムシを、カタツムリは若い葉を、カエルは花に飛んできたハエを、美味しく食べました。
昼ごはんの後も、空中散歩を楽しんでいると、もうすぐ夕方です。
そろそろ、空を飛ぶ虫だけでなく、空を飛ぶ動物にも会えると、カエルが教えてくれました。
ちょうどその時、空飛ぶ動物の影が。
さっそく紙飛行機は近づいていきます。
その影の正体は、コウモリでした。
コウモリは乗客たちを食べないので安心です。
・・・が、コウモリの群れの一匹が、紙飛行機にとまったからさあ大変。
コウモリは休憩しているだけですが、紙飛行機はその重さに耐えられません。
森の中へと真っ逆さまに落ちていきます。
紙飛行機に飛べない乗客たちは、一体どうなってしまうのでしょうか?
『もりのくうちゅうさんぽ』の素敵なところ
- 紙飛行機がジェット機に早変わり
- 空ならではの楽しさと怖さ
- 本物そっくりに描かれる森に生きる生き物たち
紙飛行機がジェット機に早変わり
この絵本のなによりもおもしろいところは、紙飛行機で空を旅するところでしょう。
その紙飛行機は、まさに子どもたちがよく作る紙飛行機と同じものです。
人間にとっては取るに足らない小さな紙飛行機ですが、カエルや虫にとってはまるでジェット機。
立派な飛行機になるのです。
しかも、ただ拾ってきて乗るだけではないのが、この絵本とアマガエル旅行社のすごいところ。
空中で姿勢を制御できるように、尾翼などを取り付けたり、最初の推進力を得るために発射台を作ったり。
しかも、改造は紙を切り貼りして行ったり、発射台はゴムに引っかけて飛ばす形をとるなど、子どもの工作の延長線上にあるのもおもしろい。
子どもたちに、すんなりと何をしているかがわかります。
その上で、「紙飛行機は投げないと飛ばないよ」「紙飛行機は自由に曲がれないんじゃない」などという、疑問も解決するという、夢がありつつも現実味がある絶妙なバランスを実現しているのです。
さらにおもしろいのが推進力。
もちろんエンジンなどはないので、普通に飛ばせば失速してしまいます。
そこでエンジンやプロペラの代わりに使うのが、なんとカナブン。
思わず「なるほど!」と唸ってしまう発想です。
まさに森の飛行機といった感じ。
この、森ならではの発想で、紙飛行機をジェット機に改良してしまうのが、この絵本のワクワクする見どころの一つです。
空ならではの楽しさと怖さ
そんな飛行機での空中散歩。
そこには見たこともない景色が広がっていました。
きっと小さな体からは、木の全体像など見たこともなかったでしょうし、川なんて海のように見えたことでしょう。
けれど、空の上からなら、それらや森がどんな形をしているのかもわかります。
その景色に感動するお客さんの反応がとても素敵です。
けれど、楽しいことばかりではありません。
空は虫にとっての捕食者たちが、活動する場所でもあるのです。
そこでは、自分たちがアマツバメに襲われそうになったり、アマツバメを襲う鳥がいたりと、厳しい生存競争が繰り広げられています。
そんな空の様子を見ていると、森には森の厳しさがあるけれど、空には空の厳しさがあることを思い知らされます。
この、自然界を虫たちの目を通して、色々な視点で見せてくれるのも、この絵本のとても素敵なところです。
本物そっくりに描かれる森に生きる生き物たち
さて、この絵本では、空中散歩をする前も、空中散歩をしている途中でも、たくさんの森の生き物たちが出てきます。
水の中、草の影、木の上、花の中、空の上・・・。
そのどれもが生き生きと、そして写真かと思うほどリアルに描き出されています。
デフォルメされているのはアマガエル旅行社のメンバーだけで、他はみな写実的に描かれているのです。
それぞれの生き物には、小さく名前も書いてあり、まるで図鑑のようにも楽しめます。
よく知っている虫や生き物、まったく見たこともないようなもの、サルなどの動物まで、本当に多種多様な生き物たちが森にいることを感じさせてくれるのです。
そんな風に、空中散歩の物語を楽しみつつも、図鑑のような楽しみ方もできるのがこの絵本の素敵なところです。
二言まとめ
小さな生き物の目線で、紙飛行機で空を飛ぶという夢のようなシチュエーションが楽しめる。
楽しさも、美しさも、恐ろしさもリアルな空の旅が楽しめる絵本です。
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