文:富安陽子 絵:飯野和好 出版:童心社
定番のオバケのっぺらぼう。
でも、私生活を知っている人は少ないのではないでしょうか?
これは、そんなのっぺらぼうの知られざる一日に密着した絵本です。
あらすじ
朝、のっぺらぼうが布団で寝ている。
のっぺらぼうの暮らしは気楽。
朝は好きなだけ寝坊して、ゆっくり起きてくる。
起きたら、特性へちま水で顔をよく洗い、キュウリパック忘れずする。
のっぺらぼうの命は、つるつるぴかぴかの顔なので、お手入れはかかせない。
顔の手入れが終わったら、お次はメイク。
のっぺら筆を使って顔を描けば、本物そっくりに仕上がるのだ。
今日はとびきりのべっぴんさんに化けることにした。
メイクが終わったら食事の時間だ。
のっぺら筆で口を描けば、ご飯を食べることだってできる。
夕暮れ時になるとのっぺらぼうは仕事に出かける。
夕暮れの街を通り、町はずれの暗い四辻へ。
ここでこっそりと人間を待ち構え、驚かすのがのっぺらぼうの仕事だ。
誰か来たので、のっぺらてぬぐいで顔を消し、準備万端。
計画通り、後ろを向いたのっぺらぼうに、旅人らしき男が声をかけてきた。
旅人の運命やいかに・・・。
『わがはいはのっぺらぼう』の素敵なところ
- 恐ろしいのっぺらぼうの、気楽で楽しそうな生活
- つい言いたくなるのっぺら語尾
- 仕事はちゃんと古典的なのっぺらぼう
恐ろしいのっぺらぼうの、気楽で楽しそうな生活
この絵本のおもしろいところは、なんといってものっぺらぼうの秘密がたくさんわかるところでしょう。
普通の絵本では、人間目線でのっぺらぼうに驚かされるところしか描かれていません。
ですが、この絵本ではのっぺらぼう目線で、朝から晩までの一日が描かれます。
その生活は、恐ろしいのっぺらぼうからは想像できないくらい、気楽で自由で優雅。
朝は好きなだけ寝ていていいし、
好きな顔に化けられるし、
ご飯だって食べられてしまいます。
仕事の時間も短いし、気分で切り上げても怒られません。
思わず羨ましくなってしまうほど気楽です。
しかも、その中にはつるつるぴかぴかのお肌の秘訣、
どうやって人間に化けているのか、
のっぺら筆やのっぺらてぬぐいなどの秘密道具・・・。
といったように、これまで疑問だったことも、詳細に紹介されているのです。
子どもたちも、
「えー、のぺっぺらぼういいなー」
「のっぺらぼうになってみたい!」
「ずっと寝ててもいいんだ!」
とのっぺらぼうの生活に、心が揺らいでいる様でした。
あんなにも恐ろしかったのっぺらぼうの、まったく怖くない、むしろ羨ましい私生活とのギャップが、この絵本のなんともおもしろいところです。
つい言いたくなるのっぺら語尾
そんな気楽なのっぺらぼうですが、しゃべり方も特徴的。
この絵本は、のっぺらぼうが、自分で私生活を紹介する語り口になっています。
そのしゃべり方というか、語尾が特徴的過ぎるのです。
その語尾とは「であ~る」。
「わがはいはのっぺらぼうであ~る。」
「のっぺらぼうの暮らしは楽しいのであ~る。」
「食事だってできるのであ~る。」
といったように、語尾に全部「であ~る」がつきます。
これが聞いていると癖になってしまいます。
最初は「なにそれ~」「へんなの~」と言っていた子どもたちも、のっぺらぼうに合わせて「であ~る」と言ったり、小声で「であ~る」と言ってクスクス笑ったり。
聞いているうちに言いたくなってしまう魔力があるのです。
ちなみに読んでいる方も、段々乗ってきて楽しくなってくることうけあいです。
この言えば言うほど楽しくなって、もっと言いたくなる「であ~る」も、この絵本のとても楽しいところです。
仕事はちゃんと古典的なのっぺらぼう
さて、ここまでのっぺらぼうらしさがほぼなかった楽しいのっぺらぼうも、仕事となると話が変わります。
その仕事はまさにのっぺらぼう。
近づいてきた人間を、振り返って驚かせる例の定番のやつです。
楽しかった雰囲気も、暗い四辻に来ると急に怪談話の空気感に変わります。
これまで笑ってみていた子も、「怖くなってきた」と体を寄せ合います。
こうして、しっかりのっぺらぼうがオバケであったことを思い出させてくれるのです。
ですが、笑い重視のこの絵本。
「怖い」で終わらせることなんてありません。
驚かそうとしたらまさかの事態が起こります。
これにはみんな大爆笑。
怖い雰囲気は吹っ飛んで、相変わらず気楽なのっぺらぼう生活に逆戻りさせてくれるのです。
この、のっぺらぼうらしい怖さを忘れずに取り入れつつも、やっぱり笑いや気楽さに戻ってきてくれるのもこの絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
恐ろしいのっぺらぼうの、気楽で自由過ぎる日中の生活と夜の怖さのギャップがおもしろい。
見れば、のっぺらぼうに親近感が湧いてきて、友だちになれるかもと思えるオバケ絵本です。
コメント