作・絵:宮西達也 出版:ポプラ社
ある日、アンキロサウルスの赤ちゃんが生まれた。
それを食べようとやってきたのはティラノサウルス。
でも、赤ちゃんはティラノサウルスのことを、お父さんだと勘違いして・・・。
あらすじ
大昔の恐竜の時代。
ある日、アンキロサウルスの赤ちゃんが卵から生まれた。
けれど、親の姿はなく、赤ちゃんは一人ぼっち。
泣きながら歩き出しました。
するとそこへ、「がおー!」っとティラノサウルスが現れたのです。
ティラノサウスるは「お前うまそうだな」と、赤ちゃんを食べようとしました。
まさに飛び掛かろうとしたその時・・・。
赤ちゃんが「お父さーん」と抱きついてきたではありませんか。
ティラノサウルスはびっくり。
なんでお父さんだとわかったのか、赤ちゃんに聞きました。
赤ちゃんは「ぼくの名前を知っていたから」だと答えます。
そして「ぼくの名前はウマソウなんでしょ?」と。
お父さんを見つけたと思い、安心したウマソウは、草を食べ始めました。
ティラノサウルスも草を勧められましたが、草は苦手なので、全部ウマソウにあげました。
ウマソウは草を食べながら、「いっぱい食べてお父さんみたいになりたい」と言います。
ティラノサウルスの心境は複雑でした。
と、そこへ、キランタイサウルスがやってきました。
キランタイサウルスは、ウマソウを食べようとしています。
キランタイサウルスが口を開け、ウマソウが食べられそうになったその時・・・。
「ガブリ!」と噛まれたのはティラノサウルス。
ウマソウをかばったのです。
ティラノサウルスは噛まれた痛みを我慢しながら、しっぽを振り、キランタイサウルスを撃退したのでした。
そんなこと何も知らず草を食べていたウマソウは、草を食べ終わると眠ってしまいました。
その横で、ウマソウを守りながら眠るティラノサウルスは「お父さんみたいになりたい」という言葉を思い出すと、心がずきんと痛むのでした。
次の日の朝。
目が覚めるとウマソウがいません。
心配し、あちこち探し回っていると、遠くの方から「お父さん」という声が。
背中には赤い実が乗っています。
ウマソウは、ティラノサウルスは草が好きじゃないことを察し、遠くの山へ赤い実を採りに行っていたのでした。
それを聞いたティラノサウルスは怒りました。
そんなに遠くまでいったら危ないからです。
それを聞いたウマソウは、謝りながら泣き出してしまいました。
泣き顔を見て焦ったティラノサウルスは、赤い実を口に入れ、ウマソウにお礼を言うのでした。
やがて、ティラノサウルスは、ウマソウに色々なことを教えるようになりました。
体当たり、しっぽの使い方、吼える練習・・・。
本当の親子のようなティラノサウルスとウマソウ。
2人はこのまま本当の親子になっていくのでしょうか?
『おまえうまそうだな』の素敵なところ
- 勘違いで懐かれる人のいいティラノサウルス
- 少しずつ紡がれていく子どもへの愛情
- 厳しく優しい本当の親心
勘違いで懐かれる人のいいティラノサウルス
この絵本のおもしろいところは、肉食恐竜と草食恐竜という繋がるはずのない2匹が親子になるところです。
ティラノサウルスにとっては捕食対象でしかないアンキロサウルス。
ですが、勘違いから懐かれてしまいます。
懐かれるどころか、お父さんになってしまうのです。
その戸惑いは相当なもの。
けれど、そんなことはつゆ知らず、ウマソウは抱きついたり、お父さんと呼んできたりと、グイグイ懐いてきます。
そんなティラノサウルスですが、言葉や行動の端々から、根はいい恐竜なのが伝わってきます。
ちゃんとウマソウの話を聞いたり、親のいないウマソウに話を合わせてあげたり、とっさにキランタイサウルスから守ったり、いなくなって心配したり・・・。
最初の暴れん坊な姿とは似ても似つきません。
始めは「食べられちゃう!」と怖いものとして見ていた子どもたちも、すっかり見方が変わります。
特に、キランタイサウルスに襲われた時には、
「ティラノサウルス死んじゃう!」
「頑張って!」
「ティラノサウルス優しいね」
と、最初とは正反対の応援の声。
すっかりお父さんとしての優しいティラノサウルスを、好きになっているみたいでした。
こんな風に、見た目は怖いのに、色んなところから根はいいやつなのが伝わってきて、気付けばティラノサウルスのことが好きになっているのです。
少しずつ紡がれていく子どもへの愛情
そんなティラノサウルスですが、ウマソウとの日々を過ごすうちに、段々と絆が深まってきます。
その過程がとても丁寧に描かれているのも、この絵本の素敵なところです。
お父さんのために赤い実を取ってきたり、褒められたら大喜びしたり、お父さんに憧れたり・・・。
一つ一つのエピソードから、ティラノサウルスがウマソウを心配したり、憧れられて戸惑ったり、喜ぶ姿を見てかわいいと感じている様子が感じられます。
言葉の一つ一つからは、ティラノサウルスの言葉の機微やその微妙な変化が感じられます。
そして、それを積み重ねるにつれ、ティラノサウルスのウマソウに対する硬さが和らいでいくのを感じさせてくれるのです。
ウマソウに体当たりやしっぽの使い方など、色々なことを教えるころにはすっかり親子そのもの。
お父さんとして、一緒に過ごすことを決めたことや、その愛情が確かなものになっていることがわかります。
この暴れん坊なティラノサウルスから、お父さんなティラノサウルスへの変化が、この絵本の本当に素敵なところ。
自分に懐き、憧れ、好きでいてくれる相手がいることが、心を優しく変化させてくれることを感じるのです。
厳しく優しい本当の親心
さて、そんなすっかり親子になっているティラノサウルスとウマソウの生活。
肉食恐竜と草食恐竜という、本来なら相いれない親子の生活に終わりの時が訪れます。
それは厳しく、寂しく、けれど優しい終わりでした。
それを選択したのはティラノサウルスです。
ずっと一緒にいる選択もありました。
けれど、ティラノサウルスはその選択をしませんでした。
その理由は語られません。
ですが、ティラノサウルスが、ウマソウを本当の子どもとして愛情を注いでいたからこそ、この厳しく、寂しく、優しい選択をしたことは伝わってきます。
少ない言葉や、空気感、ティラノサウルスの表情から。
この選択は、本当にウマソウのことを考えていなければできなかったでしょう。
ウマソウのこれからのことを考え、別れの寂しさを越えて、ウマソウにとって一番いいと思える選択をしたのです。
最後の場面で、ウマソウへの真の愛情を感じられるところ。
とても寂しくも、とてもとても温かい気持ちさせてくれるところも、この絵本の素敵なところだと思います。
二言まとめ
勘違いから生まれた、肉食恐竜と草食恐竜の親子という不思議な関係性がおもしろい。
種族を越えた、親子の愛と、その愛ゆえの優しさと寂しさを感じられる恐竜絵本です。
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